カタールが3つの博物館・美術館の新設計画を発表。文化事業への投資をさらに拡大
ペルシャ湾岸諸国の一つ、カタールは、芸術分野への投資をますます拡大させている。ドーハで計画されている新しい3つの博物館・美術館のうち、ルサイル地区に建てられるものは、「世界で最も広範な東洋絵画、ドローイング、写真、彫刻、文献、応用美術のコレクション」を収蔵するという。
計画が明らかにされたのは、3月27日にオンラインで開催されたドーハ・フォーラムでのこと。同国の美術館事業を統括する国家機関のトップ、シェイカ・アル=マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーが発表した。
ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計するルサイル地区の美術館は、中東とイスラムの芸術が世界に与えた影響をテーマとする予定だ。4階建ての建物は約5万2000平方メートルの広さで、展示スペース、講堂、図書館、教育施設などが設けられる。また、レム・コールハースの設計事務所、OMAによるカタール自動車博物館は、「自動車の発明から今日までの進化と、自動車がカタールの文化に与えた影響」がテーマになるという。
さらに、フォーラムのパネルディスカッションでは、ドーハのウォーターフロント・プロムナードに面した古い製粉工場を改築する計画も話題に上った。完成後は広さ約8万平方メートルのアートミル(Art Mill)という名の施設に生まれ変わり、展示やパフォーマンスに利用されることになる。
2015年に発表されたこの改築プロジェクトは、チリの設計事務所エレメンタルが主導している。関係者によると、この施設にはアーティスト・イン・レジデンス・プログラムやクリエイターのためのスタジオスペースのほか、保存修復や作品保管のための設備も設けられるという。シェイカ・アル=マヤッサがドーハ・フォーラムで語ったところによると、工場のサイロ部分は2022年10月に一般公開されるという。
プリツカー賞受賞者でエレメンタルを率いる建築家のアレハンドロ・アラベナは、パネルディスカッションの中で次のように述べている。「アートミルは、完成されたオブジェとして存在するだけでなく、カタールの若いデザイナー、職人、工芸家たちが、それぞれの知見を持ち寄り、一緒に作り上げていく場となるでしょう。すばらしいコレクションを収蔵するだけではなく、幅広い層に向けて開かれた施設になるはずです」
過去20年間、石油資源に恵まれたカタールは、野心的な文化施設開発計画に巨額の資金を投じてきた。2019年には、ジャン・ヌーベル設計のカタール国立博物館が賑やかなウォーターフロントにオープン。同じエリアにはイスラム美術館もある。
カタール政府は、新設される3つの博物館・美術館に関するスケジュールや予算を発表していない。
この他にも、今年11月に開催されるサッカーのFIFAワールドカップに向け、大規模なパブリック・アート・プログラムが立ち上げられている。カタール美術館庁の声明によると、国内外のアーティストが手がけた最新作や委託作品40点が、「公園やショッピングエリア、教育施設、スポーツ施設、ハマド国際空港、カタールレールの駅、ワールドカップの試合が行われるスタジアム」など、ドーハ中のさまざまな場所に順次設置される予定だという。
すでに展示されている作品もあり、空港にはトム・クラーセンの《Falcon(ハヤブサ)》(2021)が、M7アート・センターにはブルース・ナウマンの《Untitled (Trench, Shafts, Pit, Tunnel and Chamber)(無題〈溝、軸、立坑、坑道、室〉)》(1978)が、国立劇場近くにはイザ・ゲンツケンの《Two Orchids(2本の蘭)》(2015)が設置されている。カタール政府は、こうした作品群を新しい「野外ミュージアム」と呼んでいる。
カタールの大規模な博物館・美術館計画は、文化事業を通じて地域のイメージを刷新し、石油産業以外の経済基盤を築いていこうとする取り組みの一環だ。隣国のサウジアラビアも、ジェッダのコーニッシュ地区に野外彫刻美術館を作り、ジャン・アルプ、アレクサンダー・カルダー、マハ・マルーなど、湾岸諸国を含む世界の著名アーティストによる作品20点を展示している。
だが、両国の野心的な取り組みの陰には、深刻な人権問題も存在する。国際機関は、ワールドカップに向けたスタジアム建設のために、カタール政府が雇った南アジア出身の出稼ぎ労働者が置かれている劣悪な労働環境について非難しているが、これは湾岸諸国の文化事業で広く見られる問題だ。近々開館予定のグッゲンハイム・アブダビ(アラブ首長国連邦)も同様の疑惑で告発されているが、これについて美術館側は否定している。カタール政府は労働条件の改善のため、2017年に労働法の改正を行った。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月28日に掲載されました。元記事はこちら。