アニメ「クリプトズー」、ナウシカやゴルゴ13もインスピレーション源に!?
3Dを使った没入型のストーリーや、髪の毛、布、光の屈折などの質感をハイパーリアルに描くCGIアニメーションがアニメ映画の主流となっている現在、アニメーターや映画製作者が、あえて手描き風の作りを追求しているのを見るのは楽しいものだ。その一例が、数々の賞を受賞した大人向けの新作長編アニメーション、「クリプトズー」(2021)。ダッシュ・ショウが脚本・監督、ジェーン・サンボルスキーがアニメーション監督を務めたこの作品では、レトロでサイケデリックな美しさが際立っている。
舞台は1960年代後半、軍人の親を持つ未確認動物学者のローレン・グレイは、ある裕福な女性が集めた未確認動物 (ユニコーンやグリフォンといった神話上の生物)を、軍事利用しようとする者から守るために雇われている。しかし、この活動には代償が伴った。資金を調達し、目的への支持を得るために、この聖域はチケット制のテーマパーク「クリプトズー」に作り変えられたのだ。
「クリプトズー」のアニメの描画スタイルは多岐にわたっている。人物は鉛筆の細い線で描かれ、水彩で彩色されている。かわいらしい未確認動物たちは、実物の質感をぼんやりと再現するような陰影法で描かれ、背景はポール・ゴーギャンの青々とした熱帯の風景を思い起こさせる。監督のショウも同席したZoomのインタビューで、アニメーション監督のサンボルスキーは、「前作では、キャラクターを描くのにラフで動きのある太い黒い線を多用したので、異なるようにした部分もあります」と話す。前作とは、より抽象的な描写の2016年の作品「ボクの高校、海に沈む」のことだ。
「人体画が好きな私たち二人にとって、鉛筆は(次の映画で人物を描くのに)自然な選択だったし、水彩も自然に思えたんです」とサンボルスキーは続ける。「水彩絵の具は、私が大好きな画材。水がちょっと自分の心を持っているようなところが気に入っていて、鉛筆の繊細さを引き立ててくれると思いました」
ショウとサンボルスキーは、未確認動物にも水彩を用いているが、人物とはまったく異なるスタイルにしたいとも考えた。結果として、生き物たちには立体感が加わった。背景に関してショウは、オルタナティブコミックで知ったアーティストから多くのインスピレーションを得たという。
「アニメ映画監督のラルフ・バクシから学んだのは、スタイルガイドを作ってアニメーターに決まった方法で絵を描くよう求めるのではなく、俳優をキャスティングするように(芸術的才能を)キャスティングすること。そうすれば、映画は最終的に異なる要素が結集したものになるんです」
サンボルスキーが高く評価しているのは、ショウの明快なストーリーテリングと絵コンテだ。そこには彼のコミック作家としての経験が生かされている。一方のショウは、サンボルスキーのアニメーターとしての才能こそが、二人のコラボレーションの成功の肝であると語る。サンボルスキーは、1枚の絵コンテから次の絵コンテへとつながる動きに命を吹き込んで、スムーズな流れと昔風のぎこちなさ(ここでは期待通りの効果)を融合させた。
二人は、影響を受けたものとして次のような作品を挙げている。チェコのイラストレーター、ハインツ・エーデルマンによるビートルズのアニメ映画「イエロー・サブマリン」や、ドイツ語版『指輪物語』の表紙にインクで描かれたシルエット風のイラスト。 “終末もの的エコ・ホラー映画”だという宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」。二人は宮崎の道徳的相対主義を高く評価している。そして、大友克洋によるディストピア的サイバーパンク長編アニメーション「AKIRA」。
映画の中の生き物たちは、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』からも一部インスピレーションを受けている。ショウは、「ヒエロニムス・ボスの絵のような、さまざまな生き物を見ているだけで楽しい。生き物がどんな姿をしているのかを見るのが好きなんです」と言う。
二人に自分たちのクリエイティブスタイルをよく表しているシーンを一つ教えてほしいと伝えたところ、彼らが選んだのは主人公のローレン、フィービー(人間になりすましたメドゥーサのような生き物)、そして公園の管理人たちが登場するシーンだった。
このシーンはビーチの場面から始まる。「ビーチ自体は、オディロン・ルドンの絵画からインスピレーションをもらいました」とショウは言う。「水面の表現は、1980年代に見たアニメ『ゴルゴ13』に刺激を受けたもの。このアニメの、きらきらと反射する水の独特な描き方が頭から離れなくなってしまったんです」
ビーチの場面に続くのは、登場人物たちがカムディという巨大な虫に追われて走る場面だ。横スクロールのビデオゲームをしたことがある人や、「トムとジェリー」、「スクービー・ドゥー」、「シリー・シンフォニー」を見た人にはおなじみのパターンだろう。ショウは、「ビデオゲームもそうですが、アニメーションという限定された中でクールなのは、平面的なパーツでいかに空間を表現するかということなんです」と説明する。
「ヘビがこちらに向かって突進し、木々は左右に揺れ動くようにしています。空間的には何の意味もないけれど、視覚的にはヘビがこちらに向かってきていることが伝わるのです」。このエフェクトは、1980年代のアニメ「吸血鬼ハンターD」を参考にしている。キャラクターの足はこちらに向かって歩き、草は左右に動く場面があるのだ。ショウはこれを「意味のない動きだけれど、見ている人に空間を感じさせるマジックのようでした」と評している。
このシーンは、サンボルスキーがオタク心を存分に発揮するチャンスでもあった。「クリプトズー」に登場する生き物は、古くから語り継がれてきた神話上の動物に基づいているので、彼女は世界のさまざまな文化圏に残るイメージを参考にしたという。カムディのデザインは、「南米の石の彫刻からインスピレーションを得た」と話す。「映画の中では、彫刻の角張った感じが、デザインだけでなく、動きにもよく表れています」。一方、ショウは、この獣の動きは「ノキアの初期のコンピューターゲームのヘビを取り入れている」と付け加えた。
アニメ中の人物について、サンボルスキーは「ローレンはアクションヒーローだと考えています」と言う。「彼女は胸が豊かで、ウエストはくびれていますが、男性的な部分もあります」と語るサンボルスキーは、彼女を「トゥームレイダー」のララ・クロフトのように、お人形さん的ではない極めてタフなキャラクターに仕上げている。「よくある典型的なキャラクターではないので、アニメ化するのはとても楽しく、このキャラクターと一緒に仕事ができたのは刺激的でした」
この二人にはまた、ちょっとした不真面目さもある。カムディのシーンでは男性キャラクターが、80年代のアクション映画で人気俳優がするように、シャツを脱いで筋肉隆々の胸を見せつける。「この瞬間が本当に気に入っているんです」とショウは言う。「このシーンのコマは私がすべて担当しましたが、私にとっては男がシャツを脱ぐこの瞬間が、まぁその、わかりますよね? この男性キャラクターはリアルな人体画のように描画されています」
映画全体について、ショウはこう要約した。「半分は土曜の朝のアニメで、もう半分は(実験的映画作家の)スタン・ブラッケージ」。「もしこの感じが好きなら、最後の30分は絶対に楽しんでもらえると思います」(翻訳:平林まき)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年11月3日に掲載されました。元記事はこちら。