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今週末に見たいアートイベントTOP5: 杉本博司の最新作・代表作を網羅する大規模展、アートを通じて「つながり」を探求する東京ビエンナーレ2023

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

宇留野圭「CLEAN ROOM 清潔で空虚なある部屋の物語」展示風景 Photo: Shinichi Ichikawa

1. 杉本博司 本歌取り 東下り(渋谷区立松濤美術館)

杉本博司 《富士山図屏風》 2023 ピグメント・プリント 作家蔵  © Sugimoto Studio

杉本博司の新作が多数。初公開の《富士山図屏風》や「海景」シリーズも

美術家の杉本博司が、和歌の作成技法「本歌取り」を独自に解釈して作品に昇華。新作を中心に、代表作などを展示する。有名な古歌(本歌)の表現を取り入れながら、新しい歌を生み出すのが本歌取りだ。もとの歌と肩を並べるか、それを越えるような作品を作ることが求められる。杉本は、一瞬を切り取る写真を「現実の本歌取りである」と考え、オリジナリティを加えながら自身の表現を追求。写真だけでなく、書や芸能、工芸と、その世界を広げていく。

本展を象徴するのが、初公開の新作《富士山図屏風》。六曲一双の作品で、葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》で描かれた赤富士を“本歌”としている。中国宋時代の画家・牧谿の水墨画技法を本歌取りした《カリフォルニア・コンドル》も展示される。書と写真を融合させた新作の「Brush Impression」シリーズは、手本を見ながら書く書道の手法「臨書」をもとに、写真の暗室内で印画紙の上に現像液や定着液に浸した筆で文字を書いた。水平線を写した代表作「海景」シリーズの初公開作なども。展覧会は前後期制で展示替えあり(後期は10月17日から)。

杉本博司 本歌取り 東下り
会期:9月16日(土)~ 11月12日(日)
会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤2-14-14)
時間:10:00 ~ 18:00  (金曜は20:00まで、入場は30分前まで)


2. ⼭⽥周平「⽬⽟焼き」(SOKYO ATSUMI)

ヒッチコック作品からインスパイア。会場で揺れ動く目玉たち

写真、ビデオ、インスタレーション、平⾯作品と、多様な作品を展開する⼭⽥周平。2003 年には写真新世紀優秀賞を受賞し、ロンドンニューヨークなど海外でも個展を開催してきた。どの作品にも共通するのは対象を俯瞰するような鋭い視点だ。アイロニカルで、時にナンセンスさをはらみつつ、“独特の距離感”で事象を捉えた作品群は、鑑賞者の理解に微妙な「ずれ」や問い、疑いを抱かせる。

今回作品にインスピレーションを与えたのは、アルフレッド・ヒッチコックのサイコスリラー映画『⽩い恐怖』。サルバドール・ダリが美術協力をしたことで知られ、劇中に「目玉」たちが登場する。山田は今展で、2.5メートルの白い球形のバルーンに、AI の画像⽣成を利用したマンガ調の瞳を描いた「EYE」シリーズを発表。複数のバルーンの目玉が、扇⾵機の⾵で不穏に揺れ動く。卵型のキャンバスに建物が燃える様⼦を描いた《卵》の連作も披露する。

⼭⽥周平「⽬⽟焼き」
会期:9月19日(火)~ 11月16日(木)
会場:SOKYO ATSUMI(東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEXⅡ 3 階)
時間:11:00 ~ 18:00  (金・土曜は19:00まで)


3. 東京ビエンナーレ2023(東京都心北東エリアの千代田区、中央区、文京区、台東区内各所など)

パブローブ:100年分の服

会田誠、齋藤芽生、福田美蘭らが出展。アートで見つける“リンゲージ(つながり)”

東叡⼭ 寛永寺、東京ドームシティなど、東京の街を舞台にした2年に1度の国際芸術祭。世界各国から集まった美術家が、街に深く入り込んで地域住民とともに作品を作り上げる。2回目となる今年のテーマは「リンケージ つながりをつくる」。参加者がそれぞれ、東京の歴史や文化、それを支えている人たちとの関係など、あらゆる“リンゲージ(つながり)”を見つけ、広げていく場を目指す。

エトワール海渡リビング館、無印良品 銀座店の会場では「おしぼりリンケージ」を開催。日本のおもてなし精神の象徴でもある“おしぼり”を白いキャンバスに見立て、会田誠齋藤芽生福田美蘭ら25組の作家が描いた原画を刺繍した。銀座松竹スクエアビルと汐留シオサイトでは、並河進ら10人によるアートプロジェクト「Not Lost Tokyo」が展開される。昨年解体された名建築「中銀カプセルタワービル」などを対象に、変わりゆく東京の街を3Dデータや写真、言葉などで“標本化”して記憶をつなぐ。東叡⼭ 寛永寺では、庭に日比野克彦のインスタレーションが出現。オランダのノア・ラティフ・ランプは、恒河沙(ガンジス河の砂)を用いた作品で、仏教の壮大な世界観を表現する。

東京ビエンナーレ2023
会期:9月23日(土・祝)~ 11月5日(日)
会場:東叡山 寛永寺(東京都台東区上野桜木1-14-11)、東京都心北東エリアの千代田区、中央区、文京区、台東区内各所など
時間:会場により異なる


4. 森田恭通 写真展「In Praise of Shadows  ヴェルサイユ宮殿」(CHANEL NEXUS HALL)

©CHANEL

究極の宮殿をとらえたモノクロ100点。陽光に浮かぶ「人間の光と陰」

インテリアデザインの仕事や、「東急プラザ渋谷」の商環境デザインなども手掛ける一方、写真作品を発表し続ける森田恭通(やすみち)。フランスヴェルサイユ宮殿へ数年に渡って通い、四季の光のなかで撮影したモノクロ写真約100点を公開する。ヴェルサイユ宮殿は、1682年にルイ14世が建設したバロック建築。フランス革命が起きるまで、時の国王やマリー・アントワネットらが暮らし、優雅な宮廷文化の舞台となった。贅を尽くした究極の宮殿を、森田はどう写真に捉えたのだろうか。

森田がこだわったのは“陽光”。真夜中を除いてほぼ自然光で撮影した。光と影、表と裏、地上と地下といった対比を交えながら宮殿の多彩な表情が表現される。絢爛豪華で知られる建築だが、モノクロで明暗が協調された写真には、静謐な美が浮かび上がる。森田は「どの時代にも変わらない人間の“光と陰”を写すために、ヴェルサイユ宮殿ほどふさわしい空間は存在しない」と話している。展覧会名の「In Praise of Shadows(陰翳礼讃)」は、谷崎潤一郎の随筆名にちなんで題されたもの。会場の作品群には「私はただ、美しい陰を追い求めたのです」との言葉が添えられている。

森田恭通 写真展「In Praise of Shadows  ヴェルサイユ宮殿」
会期:9月27日(水)~ 11月5日(日)
会場:CHANEL NEXUS HALL(東京都中央区銀座3-5-3シャネル銀座ビルディング4階)
時間:11:00 ~ 19:00 (入場は30分前まで)


5.  宇留野圭「CLEAN ROOM 清潔で空虚なある部屋の物語」(MYNAVI ART SQUARE)

宇留野圭「CLEAN ROOM 清潔で空虚なある部屋の物語」展示風景 Photo: Shinichi Ichikawa

「部屋」をメタファーに、外側の世界を想像する

アートから受けた刺激や気づきによって、多くの人の仕事や人生の可能性を広げようと、今年7月に新設されたアート施設「MYNAVI ART SQUARE」。アーティストと生活者、企業が繋がるプラットフォームとなることを目指す。2回目となる展覧会では、若手アーティストの支援を目的とした「ARTISTS' FAIR KYOTO 2023 マイナビ ART AWARD」の最優秀賞受賞者・宇留野圭を紹介する。

機械部品の鋳造メーカーに勤めた経験がある、1993年生まれの宇留野。部屋や洗面台など身近な生活空間からイメージを膨らませて、機械的構造を用いた立体作品や舞台装置のようなインスタレーション作品を展開してきた。今回、MYNAVI ART SQUAREという会場を、“「部屋」のメタファー”から捉え直すという。部屋は“とじられた空間”でありつつ、そこに属する人や、それを取り巻く社会へとつながる“ひらかれた構成要素の一部”でもあると解釈。展覧会をCLEAN ROOMと題し、ある部屋の物語からその外側の世界を想像することを試みる。

宇留野圭「CLEAN ROOM 清潔で空虚なある部屋の物語」
会期:10月10日(火)~ 2024年1月20日(土)
会場:MYNAVI ART SQUARE(東京都中央区銀座4-12-15 歌舞伎座タワー22F)
時間:11:00 ~ 18:00

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