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  • 2023.08.25

AI生成のアート作品は著作権保護の対象にならず。アメリカでの判決が与える影響

アメリカのワシントンD.C.の連邦判事は8月18日、人工知能(AI)によって生成されたアート作品は「人間の関与」を欠くことから、著作権保護の対象にはならないとする判決を下した。アメリカ著作権局による今年3月の決定が再び認められた形だ。

スティーヴン・ターラーおよび/またはクリエイティヴィマシンによる《A Recent Entrance to Paradise》Photo: Review Board

作品は「人間の精神の産物」でなければならない

今回の判決により、アメリカで初めて、AIによって生成されたアート作品に対する法的保護の限界が定まったことになる。近年、AIによるアート作品が人気を得るようになったことから、著作権法をめぐる議論は新たな領域に拡大している。著作権があるかどうかの判断は、よくも悪くも美学と独創性についての評価が鍵を握る。

コロンビア特別区連邦地方裁判所のベリル・A・ハウエル判事は、コンピューター科学者、スティーブン・ターラーが独自に設計したAIシステム「クリエイティビティ・マシン(Creativity Machine)」を使って制作したアート作品に、著作権保護を認めないとした判決を下した。ハウエル判事は裁判文書の中で「裁判所は、人間の関与なしに創作された作品に著作権を認めることを拒否する」と書いている。 

ターラーは人工ニューラルネットワーク技術会社イマジネーション・エンジンズ(Imagination Engines)の創業者で、2022年6月、AIによって生成されたデジタル画像《A Recent Entrance to Paradise》の著作権申請が却下されたため、著作権局を提訴した。この作品は、植物が生い茂る石造りのアーチ型のトンネルの下に電車の線路が伸びる様子が描かれている。裁判文書によれば、ターラーは、この作品について「マシン上で動作するコンピュータ・アルゴリズムによって自律的に作成された」と述べている。

著作権局は、この説明が、作品が人間の精神の産物でなければならないとする著作権法の基本的な考え方と矛盾していると判断した。同局は申請を却下したことについて、「ターラーは、この作品が人間の手によるものであるという証拠を提出するか、100年にわたる著作権法の遵守から逸脱する必要があると著作権局を説得するか、どちらかをしなければならない。ターラーはそのどちらも行っていない」と説明する。

また、今回の裁判について判事は、「アーティストがAIを画材のひとつとして利用して芸術作品を制作するようになっており、私たちが著作権法における新たな領域に踏み込みつつあることは間違いない」と述べている。AIによって生成されたアート作品にどの程度人間の関与があれば著作権保護の対象となるかは、「判断が難しい問題になる」と付け加えた。 

ターラーの件について判事は、ターラーは著作権申請書の中で自分が作品の生成に直接関与していないと述べていることから、「それほど難しい判断ではなかった」という。

原告側は控訴の構え。「裁判所の著作権法解釈に疑問」

OpenAI社によるチャットGPTDALL-E(ダリ)、Midjourney(ミッドジャーニー)などの画像生成AIの台頭により、アプロプリエーション・アート(あるアーティストが他のアーティストの創作物をあからさまに再利用して制作するアート)をめぐる法的な議論はさらに混迷を深めている。

リチャード・プリンスアンディ・ウォーホル美術財団に対する裁判で示されたように、作品をめぐって引き起こされる裁判では、裁判官がその作品を評価する美術評論家の役割を担うことになり、説得力のある結論が得られないケースが続いている。かつてはアーティスト同士の争いだったものが、裁判官は画像生成AIのプラットフォームで生み出される何百万ものデジタルアート作品をどう扱うかという難しい問題を突きつけられている。

ターラーの弁護を担当しているブラウン・ネリ・スミス&カーン法律事務所のライアン・アボット弁護士は、ブルームバーグに対し、「ハウエル判事の判決を不服として控訴する方針です。裁判所の著作権法の解釈には同意できません」と語っている。

ターラーは申し立て文書の中で、この問題は個々のアーティスト同士の小競り合いを超えたレベルにあると主張。さらに、AIによって生成されたアート作品を著作権で保護することは、創造性を促すことになるとも述べている。彼は、「AIによる作品の著作権を否定することは、『著作権による保護は、ありとあらゆる“有形の表現媒体に固定された独創的な著作物”すべてにおよぶ』という、よく知られた原則に反することになる」と主張している。(翻訳:清水玲奈)

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