メキシコ市場はなぜ難しい? 相次ぐアメリカのギャラリー撤退に対し、地元は「驚きはしない」
メキシコシティに拠点を置くアメリカの中堅ギャラリーが、上陸から3年も経たずにこの3カ月間で撤退を発表した。その要因として輸送費の高騰や関税の問題以外にも、市場規模の小ささに原因があったという。
メキシコシティに拠点を置くアメリカの中堅ギャラリーが、わずか3カ月の間に立て続けに閉鎖された。ロサンゼルスに拠点を置くモラン・モランとコモンウェルス・アンド・カウンシル、そしてニューヨークのデリ(現在は恒久的に閉廊)だ。これら3つのギャラリーは、メキシコ上陸から3年も経たずに撤退する。
その理由として彼らが挙げているのが、輸送費の高騰、関税の問題、そして市場開拓の難しさだ。さらにもう一つの要因として、メキシコシティの影響力の大きさと市場規模が一致していないことがある。メキシコシティには何百もの美術館やギャラリー、インディペンデントスペース、レジデンスプログラムやアートフェスティバルがあり、アートシーンは活気に満ちている。それに対して、市場規模は思いのほか小さい。ある情報筋によれば、本格的なアートコレクターは20人にも満たないといい、付随的な市場もせいぜい数百人規模という。また、ほとんどの美術館は国公立で、作品収蔵も数十年前からストップしているという。つまり、ギャラリストには組織的な顧客がいないのだ。
「閉廊の知らせを聞いて特に驚きはしません」
そう語るのは、現在もメキシコシティに拠点を置くギャラリー、プロイェクト・パラレロのディレクターで地元のギャラリー協会「GAMA」の副会長を務めるイッサ・ベニテスだ。ベニテスは、「メキシコに活発な市場があると信じて疑わない人たちがいることに、むしろ驚きます」と言う。
GAMAは、新型コロナウイルスのパンデミック期間中にギャラリーが衛生面に配慮した上で再開できるよう地元当局に働きかける役割を負う組織として2020年に設立された。現在は26の会員がおり、毎年秋には人気のギャラリーツアー「GAMA Week」を開催している。ベニテスによれば、GAMAの上層部は誰一人として閉廊したギャラリーのディレクターに会ったことがないという。「私たちはギャラリーを率いる人たちを知りませんし、彼らが私たちにコンタクトしてきたこともありません」
こうしたなか、2023年までメキシコシティに存在したギャラリー、ルルの創業者であるクリス・シャープは、US版ARTnewsの取材に対してこう答えた。
「観光客気分で参入してくるギャラリーを好意的に迎え入れる人はいないでしょう。当然ながら、メキシコには欧米との構造的な対立がありますし、もしそういった国から進出してきたのであれば、溶け込むためによほどの努力が必要なのです」
メキシコシティがアメリカのギャラリーにとって魅力的な理由はいくつかある。まず、ドル高により運営コストが抑えられること。シャープは、「事業を継続するために、大量に販売する必要性はそれほどありません」と語る。また、メキシコでの展示に大きな関心を寄せるアーティストも多い。メキシコシティでモラン・モランというギャラリーのディレクターを務めたオーレリー・ヴァンデウィンケレは、「所属アーティストたちは、この街で展示する機会を常に心待ちにしていました」と振り返る。
一方で、コモンウェルス・アンド・カウンシルの共同ディレクターを務めるキバム・キムは、「大きな経済効果を当初から期待していたわけではなく、所属アーティストにコレクターとの出会いの場を提供することを目的としています」と話す。だが、展示プログラムの運営とフェアへの出展を異なる都市で同時に行うには、さまざまな問題があったという。
ヴァンデウィンケレによると、モラン・モランは第一次トランプ政権下で厳格化された税関手続きにより、2023年の中頃に大きな困難に直面した。
「いくつかの変更を強いられましたし、それによってすべてが遅延しました。政府はこれまで一度も要求したことのない書類を要求してきたのです」
パンデミック後の輸送費の高騰も相まって、すぐにメキシコでの業務を維持することは不可能となったという。
しかし、GAMAの副会長を務めるベニテスは動じていない。地元のギャラリストたちは、予測不能な事態を織り込み済みだというのがその理由だ。ベニテスは語る。「メキシコのアート市場は不安定ですが、今に始まったことではありません。しかし、メキシコ人アーティストを一人も抱えていない状態で、まるでUFOのように突然現れるとなると、話は別です」(翻訳:編集部)
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