セックスワーカーが題材の展覧会に対し「女性蔑視」の声。抗議者は「芸術ではなく暴力」と主張
かつて性労働に従事した高齢女性をテーマにした作品の展示をめぐり、メキシコ国立自治大学附属現代美術館に対する抗議が相次いでいる。同館は「表現の自由」を理由に継続する計画だが、これに対しても非難の声が上がっている。
かつてセックスワーカーとして働いていた高齢女性へのオマージュとして制作されたアナ・ガヤルド作品の展示をめぐり、メキシコ屈指の現代美術館、メキシコ国立自治大学附属現代美術館(MUAC)に非難が殺到している。この展示では「whore(あばずれ)」などの言葉が使われており、ミソジニー(女性嫌悪)であるというのが抗議者たちの主張だ。
非難の声が数日経っても収まらなかったことを受け、MUACは、芸術の自由を根拠にガヤルドの作品を擁護する声明を発表。しかし、むしろこれによって抗議活動はさらに過熱し、「暴力を芸術と呼ぶことはできない」など、MUACの上層部に対してセックスワーカーへの敬意を求める抗議文が美術館のエントランスエリアに表示された。
アルゼンチンのオンラインメディア、Infobaeによると、MUACは「関係当局による審査が実施されている間、展覧会の一般公開を中止しています」と語り、10月13日にガヤルドの展覧会を一時的に閉鎖した。
アルゼンチン生まれのガヤルドはメキシコとブエノスアイレスを拠点に活動しており、ラテンアメリカでは広く知られた存在。ハバナ・ビエンナーレやサンパウロ・ビエンナーレ、ヴェネチア・ビエンナーレなどの国際芸術祭でもフィーチャーされた経歴をもつ。
今回の展示はMUACで8月から開催されており、女性の生活に影響を及ぼす問題に対するガヤルドの態度を示す内容になっている。例えば、MUACの壁に直接描かれた《Extracto para un fracasado proyecto (Extract from a Failed Project, 2011-24》は、過去に性労働に従事していた高齢女性の保護施設、カーサ・ソチケツァルに住むエステラとガヤルドの間で交わされた会話から生まれたという。
この作品は、カーサ・ソチケツァルを訪れた経験の間接的な表現と受け取れる複数の走り書きからなるが、必ずしもカーサ・ソチケツァルを題材に制作されたと明記されているわけではない。また、作品の中に登場する走り書きは、必ずしも相互に関連しているわけでもなさそうだ。確かに、抗議者たちが指摘する差別的な言葉も文章のなかに含まれているが、語り手が誰なのか、誰の視点を描いているのかは定かではない。
こうしたことから、カーサ・ソチケツァルはFacebook上で、ガヤルドがエステラと有意義な関係を構築できなかったことが作品にも表れているとして、次のように記している。
「『prostitute(娼婦)』や『whore(あばずれ)』と呼ばれることがこの施設に住む人々にとってどれほど辛いか、彼女は理解していたはずです。この作品が公にされたことで、ガヤルドは保護施設に住む女性たちを再び被害者にしてしまったのです」
また、カーサ・ソチケツァルはガヤルドがこの作品の起源について「嘘をついている」と非難。居住者が彼女に話した内容を記録しないよう求められたことについて言及しなかったと主張している。
これに応えるかたちでMUACは、10月11日にガヤルドの表現の自由を強調しながら次のような声明を発表した。
「(ガヤルドの作品は)高齢者を切り捨てる社会に直面したアーティストの苦悩、遭遇、意見の相違、挫折、そしてそれを乗り越えることを表現する作品の一つにすぎません。当館は、地域に根付いている考えや感情を理解していると自負していますし、弱い立場にある人々と連帯することは、私たちが大切にしている価値でもあります。ですから、私たちはカーサ・ソチケツァルと会合を開き、アイデアや物事の考え方を交換する場を設けたいと考えています」
SNS上では、多くの人を不快にさせた作品をMUACが不適切に擁護したという意見もあり、「表現の自由とは特権をもつ白人による暴力と同義だ」という声も上がっている。
同館で展示されているルフィーノ・タマヨの彫刻作品には、「MUACはセックスワーカーを蔑視している」などという抗議の言葉がスプレーで落書きされている。
一方のMUACはウェブサイトを通じて、こうした状況にあってもガヤルドの展覧会を予定通り12月13日まで継続する計画であることを発表している。(翻訳:編集部)
from ARTnews