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  • 2022.06.17

ジェフ・クーンズの代表作、ウクライナ兵の医療支援のために富豪がオークションに出品

ウクライナ出身の富豪で、慈善家、アートコレクターとしても知られるビクトル・ピンチュークとオレナ・ピンチューク夫妻が、6月末にロンドンのクリスティーズで開かれるオークションにジェフ・クーンズの代表作の1つを出品する。ロシアとの戦闘が続くウクライナ兵への医療支援資金を得ることが目的だ。

ビクトル・ピンチューク(左)と米国の政治家ニュート・ギングリッチ(2012) Efrem Lukatsky

オークションに出品されるのは、ジェフ・クーンズのメタリックピンクの彫刻《Balloon Monkey (Magenta)(バルーン・モンキー〈マゼンタ〉)》(2006-13)で、推定落札価格は1000万ポンド(1260万ドル)。

ただし、クーンズの彫刻は、これを大幅に上回る価格で落札されたことがある。同シリーズの5作品のうち、《Balloon Monkey (Orange)(バルーン・モンキー〈オレンジ〉)》は2014年11月に2590万ドルで落札。19年5月に出品されたシルバーカラーの彫刻《Rabbit(ラビット)》(1986)の落札額は9100万ドルだった。

作品は、6月末にロンドンのクリスティーズで開催される20世紀・21世紀アートのイブニングセールに出品される。売り上げ金はピンチューク夫妻の家族が運営する財団の英国事務所を経由して寄付される予定だ。

ピンチュークは声明でこう述べている。「ロシアの砲撃、銃撃、組織的暴力によって死傷したウクライナの仲間の1人ひとりが受けた傷は、私たちの魂の傷にほかならない。オークションの利益で、私たちは命を救うことができる。戦争によって破壊された人々の暮らしを取り戻すために役立てたい」

ピンチュークの個人的な友人でもあるクーンズは、今回出品される彫刻のルーツはウクライナにあると述べている。キーウの国立ウクライナ歴史博物館にあるヴィーナス像が、彼にインスピレーションを与えたのだという。同館は、現時点で戦争による損傷や破壊を免れている数少ない文化施設だ。


ジェフ・クーンズ《Balloon Monkey (Magenta)(バルーン・モンキー〈マゼンタ〉)》(2006-13)

鉄鋼業で富を築いたピンチュークは、ウクライナ第二の富豪で元政治家だ。長年にわたるロシアとウクライナの軋轢の中で、ウクライナ人としてのルーツとウクライナの政治的大義を西側にアピールしてきた人物でもある。2006年にはピンチューク・アート・センターをキーウに設立し、ウクライナの現代アーティストを積極的に紹介。2008年から15年にかけて、米国ARTnewsによる「トップ200コレクター」にも選ばれた。

センターは戦争勃発で休館しているが、ヴェネチア・ビエンナーレではウクライナ政府との協力による展覧会「This is Ukraine: Defending Freedom(これがウクライナ:自由のために戦う)」を開催している。オープニングではゼレンスキー大統領もビデオでスピーチを行った。

当初は同センターによる次世代美術賞(Future Generation Art Prize)の受賞展が行われる予定だったが、内容をウクライナ人アーティスト中心の展示に変更した。毎回注目を集める同賞の受賞者には、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、マルティーヌ・シムズ、コラクリット・アルナーノンチャイ、トイン・オジー・オドゥトラなどがいる。

2022年2月にロシアによるウクライナ攻撃が始まって以来、ピンチューク夫妻は自らの基金を通じて、負傷したウクライナ兵士や民間人のための医療施設に推定3000万ドルを寄付している。5月時点で、ウクライナ市民の死者は4916人に達した。

3月には、ピンチュークが所有する金属製品メーカー、インターパイプ社が、ウクライナの軍隊や領土防衛隊のために防護具の調達を行ったと報じられた。2018年にピンチュークはロシアから制裁を受けているが、インターパイプ社は19年上半期に5400万ドル相当のパイプや鉄道部品をロシアに輸出したとされる。同社は現在ロシアとの取引はないと、ピンチュークは主張している。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月8日に掲載されました。元記事はこちら

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