ARTnewsJAPAN

ロサンゼルス・カウンティ美術館がジェネラティブアートのNFT22点を取得。その意味とは?

ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)は2月13日、ジェネラティブアート作品のNFT22点を取得したことを明らかにした。これらのNFTはすべて、「コゾモ・デ・メディチ(Cozomo de’ Medici)」と名乗る謎のNFTコレクターから寄贈されたものだという。

©DMITRI CHERNIAK/COURTESY OF THE ARTIST

このコレクションには、ディミトリ・チャーニアク(Dmitri Cherniak)、蔡国強、マット・デローリエ(Matt DesLauriers)、モニカ・リッツォーリ(Monica Rizzoli)をはじめ、NFTの世界でも最高クラスの人気を誇るジェネラティブアーティストが名を連ねる。さらに今回寄付された作品には、クリプトパンク(CryptoPunk)およびワールド・オブ・ウーマン(World of Women)コレクションからのコレクタブルNFTも含まれている。

今回、寄付に至った背景として、デ・メディチはUS版ARTnewsの取材の中で「LACMAから新しいムーブメントを起こしたいという強い思いがある」と語っている。LACMAには、往年の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストが数百点にのぼるアート作品を寄付したことがきっかけで、歴史博物館から美術館へと変貌を遂げたという歴史がある。デ・メディチはこのときのハーストと同様の変化をもたらしたいとの考えだ。

「紹介を受けてLACMAのマイケル(・ゴヴァン)とエリザベス(・ワイアット)に接触したところ、二人は最先端のデジタルアート作品に以前から興味を持っていた」とデ・メディチは説明する。

「二人に私のコレクションについて──オンチェーンアートの物語、ここまでの自分たちの進化に関する話をした。この会話をきっかけに、コレクションのかなりの部分をLACMAに寄付すれば相当規模のデジタルアート・コレクションを構築できるのではないか、というアイデアがひらめいた」

LACMAのデジタルアート戦略

LACMAはこれまでも、デジタルアートにスポットライトを当てる複数の試みを実施してきた。その例としては、現在開催中の「Coded: Art Enters the Computer Age, 1952–1982(コード化されて:コンピューター時代に入るアート、19521982年)」や、パリス・ヒルトンの支援による、女性アーティストが製作したデジタルアートを購入する基金の立ち上げなどがある。

LACMACEOとウォリス・アネンバーグ・ディレクターを兼任するマイケル・ゴヴァンはプレスリリースで、「何十年も前から、アーティストは自身の活動にテクノロジーを取り入れてきた。また、アートとテクノロジーの交錯は、60年代以来、LACMAのプログラムにおいて中心的なテーマであり続けてきた」と述べている。そして、「アーティストのテクノロジーを用いた実験を最初期から支援してきた美術館として、LACMAブロックチェーン・アートによる最初の美術館向けコレクションを受領するにふさわしい存在」との見解を示した。

現在、NFTの収蔵に乗り出している美術館はLACMAだけではない。ポンピドゥーセンター210日(※)、NFTの小規模なコレクションを取得したと発表した202211月には、ユガ・ラボ(Yuga Labsがクリプトパンクの作品をICAマイアミに寄贈している。

LACMAとデ・メディチはこれらの寄贈作品を、NFTではなく「ブロックチェーン・アート」「ブロックチェーン上でミント(新規発行・生成)されたアート」「オンチェーンアート」と呼んでいるが、これは両者の明確な意図に基づいた呼び名だ。

NFTという言葉には悪いイメージがこびりついている。だから私たちは、そこから遠ざかることにした」とデ・メディチは語っている。

「デジタルアートの世界は2つのカテゴリーに分かれつつある。私はこれをグレートディヴァイド(大分水嶺)と呼んでいる。第一のカテゴリーであるPFP NFT、および(PFP NFTと結びついている)投機の狂騒と、デジタルファインアートからなる第二のカテゴリーを分けているのが、このグレートディヴァイドだ。ジェネラティブアート・プロジェクトに登場する作品は、後者のカテゴリーに属する」

ジェネラティブアートをめぐるコミュニティの醸成を

ジェネラティブアートとはコードを使って製作し、ブロックチェーン上でミントされる、抽象化されたアート作品を指す。これまでのNFTシーンを振り返っても、ジェネラティブアートの芸術的貢献は群を抜いている。特に2021年、NFTブームの熱狂がピークに達した時期には、これが顕著だった。

LACMAはデ・メディチからの寄贈作品群以外にも、複数のミントされたジェネラティブアートのコレクションを収蔵する予定だ。すでにジョン・ジェラード(John Gerrard)は、2022年にペース・ギャラリーで展示した《Petrol National》シリーズから1作品を寄付している。また、ジェネラティブアートのNFTプラットフォーム「Art Blocks」の創業者であるエリック・カルデロン(Erick Calderon)、トム・サックス(Tom Sachs)、ジェシカ・ウィンブリー(Jessica Wimbly)などが自らのNFTLACMAのコレクションに加えている。

なかでもカルデロンにとっては、これはここまでの活動の集大成といえる瞬間だ。Art Blocksは、動物をカトゥーン調にデザインしたPFP NFTが市場を埋め尽くしていた時代に、ほぼ独力でジェネラティブアートの存在を世に知らしめた。Art Blocksで最初にミントされたのは、カルデロン自身の手によるジェネラティブアート作品シリーズ《Chromie Squiggles》だった。このコレクションはNFTブームの短い歴史の中でも一つの節目となった。以後、2年間にわたりSquiggleをミントしてきたカルデロンは今回、同シリーズの最後の作品、ナンバー9999LACMAに寄贈することにした。

「私がマイケル・ゴヴァンと知り合ったのはアート・バーゼル・スイスの場でした。ブロックチェーン、そしてこれがアートに与える衝撃について、こちらからの説明を必要としない人物は、私が話をした美術業界人では彼が初めてでした」と、カルデロンはUS版ARTnewsにゴヴァンとの出会いを語っている。「私たちは同じ認識を共有していたのです」

ゴヴァンとの長い会話を経て、最後のSquiggleLACMAに寄付するアイデアが、カルデロンの頭にひらめいた。寄付の申し出がどう受け止められるか不安を覚えていたというが、ゴヴァンは作品の収蔵に最初から乗り気で、これはカルデロンにとっていい意味で予想外の驚きだった。寄付の提案は理事会の承認も得ており、現在はカルデロンが作品をミントし、LACMAに送付する準備を進めている。

「もちろん、我々(Art Blocks)はジェネラティブアートというコンセプト自体の生みの親ではありません。それでも、このアートに安住の地を与え、ジェネラティブアートをめぐる議論やコミュニティの醸成を促しました。こうした場は、それまでは存在していなかったものです」とカルデロンは話す。「今はただ、ここまでの過程で自分がある程度の役割を演じられたことを、光栄に思うばかりです」

from ARTnews

あわせて読みたい