「今年のフリーズはLAの癒し」──出展者の多くが好調な売上。エリザベス・ペイトンは4億円、奈良美智は1億円

壊滅的な山火事の発生から1カ月半後ということもあり、一時は開催が危ぶまれた今年のフリーズ・ロサンゼルス(2月20日から23日まで)。しかし結果的に、救済支援の目的もあり、地元のアートコミュニティはもちろん遠方からも業界の重要人物や美術機関が多く参加し、活況を呈した。初日VIPデーの売れ行きをレポートする。

2025年フリーズ・ロサンゼルスの会場入り口
2025年フリーズ・ロサンゼルスの様子。Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

1897年、『トム・ソーヤーの冒険』で知られる作家マーク・トウェインが重病であるという噂が流れた。これに対してトウェインは記者に、「私の死の報道は大いに誇張されている」と語ったという。この言葉はまさに、2月20日(木)のVIPデーから始まったフリーズ・ロサンゼルスを表現するのにふさわしいものだった。フェアはVIPデーの終わりに、「エネルギッシュな初日」の「好調な売上」について、1500語にも及ぶメールを送信し、完売したブースや主要な販売実績を詳細に報告した。

マリアン・イブラヒムデイヴィッド・コルダンスキー、ケイシー・カプラン、カーライル・パッカーといったギャラリーはいずれも完売したといい、価格帯はそれぞれ1万3500〜6万ドル(最新の為替レートで、約204万〜907万円)、8000〜8万ドル(約120万〜1200万円)、3万ドル(約453万円)、1万6000〜5万4000ドル(約242万〜816万円)だった。また、ハウザー&ワースは、アンベラ・ウェルマンの作品(15万〜21万ドル、約2268万〜3175万円)を「コレクティブ・インパクト・イニシアチブ」の一環としてカンパニーと共同で展示し、ブース内の全作品が売れたと報告。一方、ジェームズ・コーハンは昨年のホイットニー・ビエンナーレに出展されたエイモン・オレ=ギロンの作品を3万〜12万5000ドル(約453万〜1890万円)で販売し、ほぼ完売に至った。

フェア全体の雰囲気としては、安心感と興奮、そして、2025年の厳しい幕開けを乗り越えようとするロサンゼルスのアートコミュニティを支援するコレクターたちへの感謝が入り混じっていた。東海岸が拠点のあるコレクターは、ルイナール・アート・バーの外で「火曜日まで来るべきか迷っていたが、『当然行くべきだ』と自分に言い聞かせた。正しい行動だと思った」と語った。

2025年フリーズ・ロサンゼルスでのハウザー&ワースのブースでは、アンベラ・ウェルマンの作品が展示された。Photo: Dawn Blackman, Courtesy Company Gallery and Hauser & Wirth

午前11時過ぎには、メインの通路が賑わいを見せた。マシュー・マークスのブースの前では、レンガ色のスエードパンツに茶色のレザートレンチを着たコレクターと、袖がふくらんだニットジャケットにファーとレザーのハンドバッグを抱えたコレクターが、久しぶりの再会を喜んでいた。

フェアには、ケイティ・クーリック、キッド・カディ、ガンナ、ブリット・マーリング、グウィネス・パルトロウといったセレブリティも来場していた(フリーズの公式報告には含まれていなかったが、俳優のジェームズ・フランコも水曜日にフェリックスを訪れていた)。パルトロウはグザヴィエ・ハフキンスのブースでマーク・マンダースの版画を鑑賞する姿が目撃された。また、ラリー&アリソン・バーグ、ローレン・タッシェン、コマル・シャー、リック・ホイットニー、ルーベル家など、US版ARTnewsの「トップ200コレクター」たちも来場した。あるニューヨークのディーラーによると、タッシェンはフェアの正式オープンより前に会場に現れ、遠方から来たディーラーたちに感謝を伝えて回っていたという(ただし、フリーズの広報担当者によれば、「正式オープン前にコレクターが入場することはない」そうだ)。

さらに、サーペンタイン・ギャラリーハンス・ウルリッヒ・オブリスト、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムのセルマ・ゴールデン、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)のマイケル・ゴヴァンといったアート業界の著名人たちの姿も見られた。

一方、大手ギャラリーは不安と安堵の間で揺れ動いていたようだ。Paceの社長、サマンサ・ルベルはUS版ARTnewsに対し、「最初は不安だったが、人々が来てくれると確信していた。誰もが素晴らしいフェアになると分かっていたと思う。そしてその通りになった。美しく、ここにいられることが幸せだ」と語った。

初日を通してPaceのブースは賑わいを見せ、CEOのマーク・グリムシャーはメイシャ・モハメディの赤と白の鮮やかな絵画の前で歓談していた。また、ジェームズ・タレルの作品の前には、撮影したい人々が長蛇の列をなしていた。カイリー・マニングやタラ・ドノヴァンの作品はいずれもフェア開始から数時間以内に売れたというが、Paceが価格を公表することはなかった。より注目を集めたのは、Paceとカスミンがニューヨークで個展を開催し、さらにPaceの香港拠点でも展覧会が予定されているロバート・インディアナの《LOVE (Red Outside Blue Inside)》だった。この作品は1966年に構想され、30年後に制作されたもので、同ギャラリーによれば50万ドル以上(約7560万円)で売れたという。

Paceのブース。真ん中の作品、ロバート・インディアナの《LOVE(Red Outside Blue Inside)》は50万ドル以上(約7560万円)で売れた。Photo: Sebastiano Pellion di Persano/ Courtesy Pace Gallery

メガギャラリーの中で今回最も成功したのは、デイヴィッド・ツヴィルナーだったと言える。同ギャラリーでは、エリザベス・ペイトンの絵画が280万ドル(約4億2000万円)、ノア・デイヴィスの作品が250万ドル(約3億8000万円)、アリス・ニールの絵画が180万ドル(約2億7000万円)、リサ・ユスカヴェージの絵画が160万ドル(約2億4000万円)で販売された(ちなみにユスカヴェージがフェア期間中に同ギャラリーのメルローズ・ヒル拠点で開催した展覧会も高い評価を得た)。

グラッドストーン・ギャラリーとマイケル・ローゼンフェルド・ギャラリーも、それぞれ100万ドル(約1億5000万円)を超える販売を記録した。グラッドストーンではキース・へリングのガラス絵が200万ドル(約3億円)、マイケル・ローゼンフェルドではルース・アサワの彫刻が100万ドル(約1億5000万円)で売れた。

カスミンは、シリア生まれのアメリカ人アーティスト、ダイアナ・アル=ハディードの作品のみを展示するブースを設け、5枚のパネル作品が7万5000〜11万ドル(約1134万〜1663万円)で売れるなど、好調だった。

また、ブラムもまずまずの成績を収めた。奈良美智のセラミック作品が75万ドル(約1億1200万円)で売れ、トム・アンホルト、ライアン・サリバン、サム・モイヤー、セオドラ・アレンの作品も4万8000〜6万5000ドル(約725万7600〜983万4000円)で買い手がついた。

ロサンゼルスのディーラー、デイヴィッド・コルダンスキーは「コミュニティの皆が集まってくれて、とても感動している」とUS版ARTnewsに語った。午後1時までには、彼のブースで展示されていたニューヨーク拠点のアーティスト、マイア・クルーズ・パリレオの作品は売り切れた。パリレオは数週間後、コーダンスキー・ギャラリーでロサンゼルス初の個展を開催する予定だ。コルダンスキーは、「今年のフェアについては予測がつかなかったが、オープンな姿勢で作品を見て学ぼうとする意欲が感じられた。ロサンゼルスのアートコミュニティはもちろん、遠方から来場してくれた皆さんにも感謝している」と続けた。

「今年のアートウィークは活気に満ちていて、まさに『歯車が回っている』状態だ」と語ったのは、フェリックスとフリーズの両方に出展したロサンゼルスのディーラー、チャーリー・ジェームズだ。彼のブースでは、オジー・フアレスとジャッキー・アメスキータの作品が展示されており、両アーティストのフリーズ・プロジェクトが会場外で展開されていた。

このように、今回のフリーズ・ロサンゼルスでは、アートフェア本来の目的である「新たな関係性の構築と活性化」が随所で見られた。著名なアートディーラーで元アメリカ美術商協会(ADAA)会長のアンドリュー・マイヤーは「長期的な視点が大切だ」として、「粘り強く活動を続けることで、必ずリターンは得られる。アート業界においては、人間関係が常にプラスに働く」と述べた。

フリーズでは、LAの大規模火災の救済支援活動も展開された。フリーズ・アート・アライアンスは、購入予算を持つ複数の美術館をフェアに招待し、その結果、カリフォルニア・アフリカン・アメリカン美術館がハンナ・ホフマン・ギャラリーからダレル・エリスの作品《Untitled(Bathing Beauty)》(1987〜1989)と《Untitled(Bathing Beauty)》(1988〜1991)を購入した。

さらに、モーン・アート・コレクティブ、ハマー美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)、フリーズが共同で、新たな購入基金「MAC3」を設立したことが発表された。この基金を通じて、ドリームソング・ギャラリーからエドガー・アルセノーの《Skinning the Mirror(Summer 1)》(2025)、Sow & Tailorギャラリーからシャニクワ・ジャービスの《Slowly, Surely》(2025)が購入された。

最後に、ギャラリーズ・トゥゲザー・イニシアチブの一環としてヴィクトリア・ミロ・ギャラリーが他のギャラリーとブースを共有し、ロサンゼルスのアートコミュニティ火災救済基金を支援するための作品販売を行った。ブースでは、坂千夏の3作品(2000〜6000ドル、約30万〜90万円)、村田森 × 村上隆のセラミック作品(1万2000ドル、約181万4000円)、当真裕爾の作品(3000ドル、約45万円)が販売された。

今回のフリーズ・ロサンゼルスは、壊滅的な山火事から1カ月しか経っていないロサンゼルスにとってある種の「癒し」となったと言える。2023年にメルローズ・ヒル地区にギャラリーを開設し、今回のフェアではあまり知られていない抽象画家パット・リプスキーの歴史的な作品と、同作家の新作を組み合わせて展示したニューヨークのディーラー、ジェームズ・フエンテスは、「今年のフリーズは、ロサンゼルスの回復プロセスの一部であり、これまでで最も記憶に残ったフリーズだった」と語った。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい