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「自分の手柄を横取りされた」──考古学者がマンハッタン検察局を知的財産濫用で告発

マンハッタン地区検事局の古遺物密売部門(ATU)は、略奪文化財を本国に返還する取り組みで国際的な評判を得ている。しかし、あるギリシャの考古学者は、ATUに「手柄の横取り」されたと訴えている。

女性の神を描いたアラバスターの女性像。Photo: Courtesy of the Manhattan District Attorney's Office

ガーディアン紙のインタビュー記事の中でこう告発したのは、イギリス・ケンブリッジに拠点を置くギリシャの法医学考古学者で古遺物密売の専門家であるクリストス・ツィロギアニスだ。彼は、マンハッタン地区検事局の古遺物密売部門(ATU)の成果を支える協力者の功績が適切に評価されていないと訴えている。

ATUが2017年に設立されて以来、マンハッタン地区検事局は、29カ国から約4500点の物品を回収しており、推定価値は3億7500万ドル(約560億円)以上にのぼる。その中には、フリッツ・グリュンバウムの相続人に最近返還されたエゴン・シーレの作品7点や、ウースター美術館から押収された古代ローマの胸像、そしてリビアに送り返された126万ドル(1億9000万円)相当の彫刻2点が含まれている。

事実、これら略奪文化財の押収と返還は、クリストス・ツィロギアニスのような専門家による調査研究によって可能になった。過去5年間、ツィロギアニスは自身の研究から得られた重要な証拠を利用して、ATUの回収と本国送還に協力してきた。彼は、マンハッタン地区検事局に対して自身の名前を公式発表にクレジットするよう求めたが、聞き入れられることはなかったとガーディアン紙に語っている。

「彼らは私のような専門家たちの仕事を、あたかも自分たちの功績のように発表しています。彼らは私の学業をひけらかしているだけで、私の功績を認めていないのです。それは私の知的財産の濫用です」

ツィロギアニス曰く、彼が求めるのはあくまで研究に対する評価であり、金銭ではないという。彼は、当局が今月初めにレバノンに返還した合計900万ドル(約13億円)以上相当の12品目についての発表は信用に欠ける内容であると言及。この返還に寄与したのは自身の2012年の博士論文であるというが、この論文は美術品の密輸業者に役立つ可能性のある機密情報であるため、保存されているケンブリッジ大学の図書館でもアクセスが制限されている。

当時、検事庁からの協力要請を受けたツィロギアニスは、ギリシャ神話の人物カストルとポルックスの小像がどのようにしてレバノンから盗まれたかを示す写真と論文を提供したと述べた。

ツィロギアニスは、昨年7月と9月にイタリアに返還された物品と、今年3月にギリシャに返還された物品 に関する3つの異なる事件で「調査支援」をしたとされているが、レバノンの件では自身の功績を認められていない。また、マンハッタン地区検事局は今年4月に紀元前2世紀のアラバスター製小像を含む3点をイエメンへ返還しているが、この公式発表にもツィロギアニスの名は見当たらない。これらイエメンに送還された3つの物品は、マンハッタン地区検事局が収集家でメトロポリタン美術館管財人のシェルビー・ホワイトから押収した多数の遺物の一部だった。ツィロギアニスはガーディアン紙に対し、この小像を有罪判決を受けた美術商、ロビン・サイムズと結びつける研究をATUに共有したとも話している。

US版ARTnewsがツィロギアニスに今回の告発についてのコメントを求めたところ、「私の目的は、真実を公に伝え、この行為に対する意識を高め、次世代の同僚を守ることです」と回答。彼は現在、ギリシャのコルフ島にあるイオニアン大学で、ユネスコのための違法古遺物密売調査の責任者を務めている。

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