フィンランド税関、4600万ドル相当のロシア美術押収品を返還。フランスは返却を保留中
4月8日、フィンランド外務省は税関当局が押収していた美術品の貨物3点をロシアに返還すると発表した。
税関責任者のハンヌ・シンコネンによると、総額4600万ドル相当の絵画と彫刻は、欧州の対ロシア制裁に違反した疑いで、フィンランドのヴァーリマー国境検問所で押収された。これらの美術品は、イタリアと日本からロシアの美術館に返却される途中だった。
フィンランド外務省は声明の中で、欧州連合(EU)が制裁の規則を改正し、特定の文化財を対象から除外したと述べている。法改正は4月9日に施行され、その後、税関当局が美術品の輸出許可を出した。声明によると、この規則変更は「正式な文化協力のもとで貸し出された文化財」にのみ適用されるという。免除の理由についてそれ以上詳しい説明はない。
押収されていた作品の多くはモスクワにある国立トレチャコフ美術館と国立東洋美術館の所蔵品で、イタリアの2つの展示施設に貸し出されていたもの。残りは日本の千葉市美術館からモスクワのプーシキン美術館に返還される作品だ。
ウクライナ侵攻後、ロシアはEUと米国から厳しい制裁を受けている。フィンランド外務省によると、EUの制裁リストには、「ぜいたく品」に分類された美術品も含まれていたという。
国際関係が急速に悪化する中、制裁によってロシアが欧州の美術館に貸し出している文化財の回収に問題が発生している。サンクトペテルブルクの国立エルミタージュ美術館は3月、ミラノとローマに貸し出していた有名作品数点の早期返却を要請。一方、スペイン、オーストリア、フランスの政府はロシアの美術館との関係を停止し、モスクワのクレムリン博物館で予定されていた展覧会への作品の貸し出しを取り消した。
ル・モンド紙の報道によると、フランスのロズリーヌ・バシュロ文化相は、ロシア関連文化イベントへの参加は、「欧州諸国の足並みの乱れとして解釈される恐れがあった」と声明で述べたという。
フランスの文化省は9日、パリのルイ・ヴィトン財団が開催していたモロゾフ・コレクション展に出品された少なくとも2点の絵画をフランスに留め置くと発表した。この超大型展は、19世紀から20世紀初頭に活躍したロシアの実業家で、フランスの前衛美術のコレクターでもあったイワン・モロゾフのコレクションを展示していた。
AFP通信によると、1点はロシアのオリガルヒ、ペトル・アヴェンが所有するもので、もう1点はウクライナのドニプロペトロフスク美術館の所蔵品だという。アヴェンはプーチン大統領との親しい関係で知られる銀行家で、現在、制裁対象となっている。同省は声明で、「所有者が資産凍結の対象である限り、作品がロシアに戻ることはないだろう」と述べている。
同声明はまた、ロシア人画家のバレンティン・セローフによる2点目の絵に関して、「安全に返却できる状況が整うまで」ウクライナへの輸送は控えるとした。また、この決定は「ウクライナ当局の要請によるもの」だと強調している。
4月に閉幕したモロゾフ・コレクション展の展示品の大半(約200点の絵画)は、モスクワの国立トレチャコフ美術館とプーシキン美術館、およびサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館の所蔵品だ。
西欧とロシア間の航空輸送が制限されているため、これらの作品は陸路での返却が予定されている。ただし、前述した2点のほか、同じく制裁対象となっているロシアのオリガルヒ、ヴィアチェスラフ・カントールに関連する3点目の絵画が、現在フランスで査定を受けている。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月11日に掲載されました。元記事はこちら。