1000円弱で買った胸像が4億円超? 倉庫のドアストッパーにされていた芸術作品の意外な価値に動揺広がる
かつてたった5ポンド(約900円)で購入され、その後スコットランドの倉庫に約25年間放置されていたフランスの著名アーティストによる大理石の胸像が、LAのJ・ポール・ゲティ美術館及びパリのルーブル美術館での展示を経て、オークションに出品される可能性が出てきた。予想価格は250万ポンド(約4億6000万円)。
サザビーズによると、この彫刻は1728年にフランス人アーティストのエドメ・ブシャルドンによって制作された。ブシャルドン作品はベルサイユ宮殿の庭園全体に点在しており、J・ポール・ゲッティ美術館はブシャルドンの功績を「創意工夫と完璧さを追求し、ルイ15世の治世に関連する傑作の多くを完成させた」と評している。
信じ難いのは、この作品が1930年にスコットランド・ハイランド地方のバリントア地方議会によって、わずか5ポンド(約900円)で購入されたという事実だ。当時は購入後、本作を展示しようと考えていたようだが、どういうわけか「他の廃棄された議会道具と一緒に」保管庫に放置されることとなった。
これを掘り出したのは、バリントアとほど近い港町インバーゴードンの元地域市議会議員で、現在はハイランド市議会議員を務めるマキシン・スミス。25年前、行方不明の儀式用ローブと鎖を探すため同僚と一緒に保管庫をあさっていたとき、この胸像を発見したという。しかし本作は、その後再び忘れ去れることに。
スミスはガーディアン紙の取材に対し、「ローブと鎖を見つけた時、保管庫のドアストッパー代わりに使われていた小さな白い大理石の彫刻に目が止まりました。私が発見しなければ、容易に捨てられていた可能性もあります」と語っている。
インバーゴードン市議会がこの彫刻の価値を調べるためにサザビーズに協力を求めたところ、サザビーズは調査に基づき、「非常に収集価値が高く、市場性がある作品」であると評価。同時に、250万ポンド(約4億6000万円)以上で本作の購入に意欲を見せている人物も見つけたと報告した。この人物は、インバーゴードンで一般公開できる博物館クオリティのレプリカ制作代も支払う意思を見せているという。そうすれば、同市の人々もこの作品を(レプリカではあるが)楽しむことができる。
これはインバーゴードン市議会には願ってもない話だ。この売却が決まれば、その収益を地域のための様々なプロジェクト予算に充てることができる。そこでハイランド市議会委員会は今週の月曜日、売却に関する公開協議を開催することを決議した。売却に賛成しているスミスはこう見解を述べる。
「正直、本作がハイランド地方のインヴァネス博物館に展示されていても誰の得にもなりません。インヴァネス博物館以外に、莫大な保険費用をかけずに本作を展示できる場所などないのです。加えて、(本作を売却できれば)インバーゴードンにある社会的に恵まれない地域のための資金に充てることができます」
しかし中には、スコットランド以外の誰かの手にこの彫刻が渡ることを危惧する人々もいる。美術史家のベンドール・グロブナーもその一人で、同氏はBBCラジオ・スコットランドに以下のように語っている。
「偶然とはいえ、本作は無償でハイランド市議会の手に渡った芸術作品です。市議会は本作をスコットランド外の誰かに高値で売却することしか考えていないようですが、インヴァネス博物館やスコットランド国立近代美術館、スコットランド国立博物館に貸せない理由はないはずです」
こうした芸術作品の販売に関する公開協議は、2015年コミュニティエンパワーメント(スコットランド)法に基づいて義務付けられており、最短でも8 週間の開催が求められる。
from ARTnews