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年末年始に見たいアートイベントTOP10: マーク・マンダースに李禹煥、巳年にちなんだ作品や新年企画も!

毎週末におすすめの展覧会を紹介するこの連載は、年末年始の合併号でお届けする。来年の干支、巳(へび)のパワーをもらえそうな博物館展や、家族みんなで楽しめる「色彩」にフォーカスした大規模展など、2025年、素敵な「アート始め」を楽しめる展覧会をラインナップした。中には年末年始期間に閉廊・閉館している施設があるため基本情報を確認してほしい。

カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ(ポーラ美術館)より、小泉智貴(Tomo Koizumi)

1. 李禹煥 合間の遊作(カスヤの森現代美術館)

「合間」だからこその自由な創作

李禹煥は哲学的な思考に基づくミニマルな表現や「もの派」を代表する美術家として、現在世界的に注目されている。

本展では、日本とフランスにアトリエを構え、国内外での大規模な展覧会の準備や作品制作に多忙な日々を過ごす束の間、思いつくままに制作された作品を展示する。本展のタイトル「合間の遊作」にあるように、普段の展覧会では見る事の出来ない遊び心を感じさせる多様な作品を新作の立体作品を交えて展示する。

李禹煥 合間の遊作
会期:11月23日(土)〜 2025年2月23日(日)
場所:カスヤの森現代美術館(神奈川県横須賀市平作7-12-13)
時間:10:00〜17:30(入館は17:00まで)
休館日:月火水、12月23日〜1月3日


2. ウラ・フォン・ブランデンブルク 「CHORSINGSPIEL」(エスパス ルイ・ヴィトン大阪)

Ulla von Brandenburg, Singspiel (2009).
© Ulla von Brandenburg

古典の舞台とアートの融合

1974年、ドイツのカールスルーエに生まれ、現在パリを拠点に活動するアーティスト、ウラ・フォン・ブランデンブルクの個展。ドイツのハンブルク美術大学に進学する前に舞台美術を学んだ彼女の創作は演劇の世界に強い影響を受けており、映像やドローイング、壁画、オブジェ、インスタレーションなどの作品は、より大きな舞台空間の延長、あるいはその一要素として捉えることができる。

本展は、フォンダシオン・ルイ・ヴィトンの所蔵コレクションから日本初公開となる2つのビデオインスタレーションを紹介する。18世紀後半のドイツで上演されていたオペラの形式を参照したという《Singspiel》(2009)は、フォン・ブランデンブルク自身が歌う2曲に合わせてさまざまな年齢層の人々が集う家族の食事風景が映し出される。同じくモノクロ映像の《Chorspiel》(2010)は、パフォーマンス、演劇、絵画それぞれに特徴的な表現が活人画の形式で融合されており、さらにギリシャ悲劇のコロス(合唱隊)の要素も加わる。いずれの作品も、フォン・ブランデンブルクの多面的な作品世界を存分に感じられることだろう。

ウラ・フォン・ブランデンブルク 「CHORSINGSPIEL」
会期:11月27日(水)〜2025年5月11日(日)
場所:エスパス ルイ・ヴィトン大阪(大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-8-16 ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋 5F)
時間:12:00〜20:00
休館日:1月1日


3. 原田裕規:ホーム・ポート(広島市現代美術館)

Photo: Katsura Muramatsu
Photo: Katsura Muramatsu
Photo: Katsura Muramatsu

原田裕規のこれまでを紹介する里帰り展

原田裕規は、社会の中で広く知られる視覚文化を題材とするプロジェクトからその活動をスタートし、近年では、日本からハワイへ渡った移民を調査し、日系アメリカ人の混成文化を題材にした映像作品を制作している。

本展では、ラッセンの作品を元にしたタイトルと同名の作品《ホーム・ポート》が展示される。また、原田が現時点の集大成とする新作の平面作品に加えて、これまでに制作された代表的な映像、インスタレーション、パフォーマンス作品と10代の大半を過ごした広島時代の初期絵画などを紹介する。

原田裕規:ホーム・ポート
会期:11月30日(土)〜2025年2月9日(日)
場所:広島市現代美術館(広島県広島市南区比治山公園1-1)
時間:10:00〜17:00
休館日:月曜(祝日は翌平日)、12月27日〜1月1日


4. 佐内正史 「写真がいってかえってきた」 (book obscura)

最新写真集から7作品を披露

写真家、佐内正史の写真集『写真がいってかえってきた The photo, coming home』の刊行を記念した写真展。

佐内は全ての写真集をオリジナルプリント入稿しており、新作制作の中では「プリント作業の途中、写真が家に帰ってきた感じがした」と話している。本展では写真集に掲載された作品7枚を展示販売し、写真集を同時に販売する。会場で、観賞者は佐内が得た感覚を追体験することになるだろう。

佐内正史 「写真がいってかえってきた」
会期:12月12日(木)〜 2025年1月20日(月)
場所:book obscura ブックオブスキュラ(東京都三鷹市井の頭4-21-5 #103)
時間:12:00〜19:00
休館日:火水、12月27日〜2025年1月3日


5. evala 現われる場 消滅する像(NTTインターコミュニケーション・センター [ICC])

evala《Sprout “fizz”》 2024年 Photo: Yutaro Yamaguchi 写真提供:SbYE
evala《Embryo》 2024年 Photo: Yutaro Yamaguchi 写真提供:SbYE
《大きな耳をもったキツネ》2013-14年 撮影:木奥恵三

evalaが作り出す新たな知覚体験

音楽家、サウンド・アーティストとして活躍するevalaの現時点における集大成となる展覧会。作家の活動史においても重要な作品《大きな耳をもったキツネ》を制作、発表したICCを会場に開催する。

本展では新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」シリーズの新作や、《大きな耳をもったキツネ》、そこから発展し多くの国々で発表されてきた作品、さらに最も大きな展示室を全室使用した新作大型インスタレーション《ebb tide》のほか、複数の新作を展示する。

evala 現われる場 消滅する像
会期:12月14日(土)〜2025年3月9日(日)
場所:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC](東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4F)
時間:11:00〜18:00(入館は30分前まで)
休館日:月曜(祝休日の場合は翌平日)12月28日〜1月3日、2月9日


6. カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ(ポーラ美術館)

ジャン・フォートリエ、ルーチョ・フォンタナ、ジャン=ポール・リオペル、 ヘレン・フランケンサーラー ※初公開作品 ジャン=ポール・リオペル《果肉》1950年(右から二番目)
川人綾
山本太郎《羽衣バルーン》2014年 作家蔵
杉本博司「Opticks」シリーズ © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi 全10 点を前期・後期に分けて展示。 前期:2024年12月14日(土)~2025年2月26日(水) 後期:2025年2月27日(木)~5月18日(日)
草間彌生《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光》2020年 作家蔵 ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts

色彩の変遷を辿るダイナミックな旅

近代から現代までの美術家たちが獲得してきた「色彩」とその表現に注目し、色彩論や色を表現する素材との関係にふれながら、色彩の役割についてあらためて考察する。油絵具を駆使し、さまざまな色彩で視覚世界を再構築した19世紀の印象派や新印象派をはじめ、20世紀のフォーヴィスムの絵画や抽象絵画、そして色彩の影響力によって観る者の身体感覚をゆさぶる現代アートにいたる近現代の色彩の歴史を、おもに絵画や彫刻、インスタレーションによって読み直す。アンリ・マティス杉本博司ゲルハルト・リヒターらのポーラ美術館の名品を中心に、11点の初公開作品も。また、川人綾、流麻二果、小泉智貴ら現代のアーティストが新作を発表する。

カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ
会期:12月14日(土)〜2025年5月18日(日)
場所:ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
時間:9:00〜17:00(入場は30分前まで)
休館日:無休


7. マーク・マンダース 「Silent Studio」(ギャラリー小柳)

Mark Manders, Nightfall Scene, 2024

崩れゆく彫刻の緊張感。マーク・マンダースのアトリエを覗く

ベルギーを拠点とし、国際的に評価を集める美術家、マーク・マンダース。1980 年代後半より、彫刻や家具、日用品や建築部材などを「想像上の」部屋に、緻密に練られた配置図に基づいて配するインスタレーションを制作する。

本展では、ギャラリーの空間を半透明の薄いビニールで囲い、アーティストのスタジオを立ち上がらせる。ハイライトは展示空間の中央に配される《Bonewhite Clay Head with Two Ropes》(2018-2024)。乾燥してひび割れたかのような彫刻が作業台の上にロープで留められ、今にも崩れそうな緊張感や、作業の途中であるかのような印象を与えつつ、静かなスタジオに漂う作家の気配、あるいは長い不在を感じさせる。新作を含む9点を公開。

マーク・マンダース 「Silent Studio」
会期:12月18日(水)〜2025年3月8日(土)
場所:ギャラリー小柳(東京都中央区銀座 1-7-5 小柳ビル 9F)
時間:12:00〜19:00
休館日:日月祝、12月28日〜1月6日


8. 「Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」(大阪中之島美術館)

吉川静子《m433 宇宙の織りもの―光りつつ 3》1991–1993 年、吉川静子とヨゼフ・ミ
ューラー・ブロックマン財団蔵、Copyright and courtesy of the Shizuko Yoshikawa and
Josef Müller-Brockmann Foundation
吉川静子《m780 lebensplus16》2011/2012 年、吉川静子とヨゼフ・ミューラー・ブロッ
クマン財団蔵、Copyright and courtesy of the Shizuko Yoshikawa and Josef Müller-
Brockmann Foundation
《スイス自動車クラブ子供を守れ!》1953 年、サントリーポスターコレクション(大阪
中之島美術館寄託)©Museum für GestaltungZurich, Switzerland

ミューラー=ブロックマンと吉川が織りなすデザインとアートの軌跡

スイスを代表するグラフィックデザイナー、タイポグラファーであるヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914 – 1996)と、そのパートナーであり芸術家の吉川静子(1934 – 2019)。チューリッヒを拠点として芸術活動、教育活動に従事した二人の軌跡と作品を紹介する、世界初の大規模な回顧展。

吉川の作品は「コンクリート・アート」の流れを組む初期作品から瞬間性や空気感をテーマに据えた「色影」シリーズ、宇宙や太陽など自然界のエネルギーをテーマにした「宇宙の織りもの」「ローマ」シリーズなど、約130点がスイスから来日し、日本初お披露目。ミューラー=ブロックマンのグラフィック作品は、フォトコラージュなどの技法を取り入れたポスター、「グリッドシステム」が実践された『ノイエ・グラフィーク』誌など、約60点が並ぶ。1月2日~4日は新年企画として「猫型おみくじ」の配布も。

「Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」
会期:12月21日(土)〜 2025年3月2日(日)
場所:大阪中之島美術館5階展示室(大阪府大阪市北区中之島4-3-1)
時間:10:00〜17:00(入館は30分前まで)
休館日:月曜(1月13日、2月24日は除く)、12月31日、1月1日、1月14日、2月25日


9. ミンヒ・キム + イェイン・リー 「NEURO HARD」(CON_)

現代を映し出す気鋭の韓国アーティストの二人展

ともに韓国出身の、ミンヒ・キムとイェイン・リーによる2人展。ミンヒ・キムはデジタルペインティングや油絵などの技法を駆使して、「歪んだ身体と誇張された女性性を持つ、アニメやビデオゲームの少女キャラクター」といった大衆文化の古いイメージに新たなインスピレーションを与える。

ウィーンを拠点に制作するイェイン・リーは、廃棄された日用品をインスタレーションや彫刻、パフォーマンスの一部として再利用し、現代の消費文化、経済、そしてそれを支える政治的ダイナミクスを取り巻く両義性を探求。その作品は、成長と崩壊を対比させながら、常に成長し続ける未完成のネットワークシステムとして身体を具現化している。

ミンヒ・キム + イェイン・リー 「NEURO HARD」
会期:11月27日(水)〜2025年1月15日(日)
場所:CON_(東京都中央区日本橋馬喰町2丁目2-14 まるかビル 4F)
時間:14:00〜19:00(入場は30分前まで)
休館日:月火水祝(2月11日は除く)12月22日~1月7日


10. 「博物館に初もうで」(東京国立博物館)

胆松に白蛇(だんまつにしろへび) 渓斎英泉筆 江戸時代・19世紀
重要文化財 十二神将立像(巳神)(じゅうにしんしょうりゅうぞう ししん) 京都・浄瑠璃寺伝来 鎌倉時代・13世紀
ナーガ上のブッダ坐像(なーがじょうのぶっだざぞう) タイ・ロッブリー出土 アンコール時代・12~13世紀 三木榮氏寄贈

ヘビたちのパワーを浴びながら、新年の訪れを感じる

22年目となるお正月の恒例企画。2025年の巳年にちなんで、「ヘビ~なパワ~を巳(み)たいの蛇(じゃ)!」と銘打ち、ヘビにまつわる古今東西の絵画や彫刻、工芸品を紹介する。

瞑想するブッダを、ヘビの王ナーガが傘となり雨風から守ったという伝説に基づいた仏像「ナーガ上のブッダ坐像」や、重要文化財の「十二神将立像(巳神)」など51点。大きな口やにょろにょろとした動きなど独特のインパクトと変化自在の活躍を見せるヘビの、美しさや迫力、面白さ、可愛らしさなど、さまざまな魅力に迫る。国宝である長谷川等伯筆「松林図屛風」をはじめとする正月を寿ぐ吉祥作品の数々も公開。1月2日・3日には、本館前での和太鼓や獅子舞など、新春イベントも。

「博物館に初もうで」
会期:2025年1月2日(木)〜 1月26日(日)
場所:東京都国立博物館(東京都台東区上野公園13-9)
時間:9:30〜17:00(金土と1月12日は20:00まで、入館は30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)12月23日~1月1日

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