ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞はシモーヌ・リーとソニア・ボイス、黒人女性が躍進
ヴェネチア・ビエンナーレの最高賞、金獅子賞が発表された。メイン展示部門はシモーヌ・リー、国別パビリオン部門は英国代表のソニア・ボイスが選ばれた。金獅子賞を黒人女性が受賞するのは、両部門とも今回が初めてだ。
チェチリア・アレマーニのキュレーションによるメイン展示では、シモーヌ・リーの金獅子賞のほか、「将来有望な若手アーティスト」に贈られる銀賞をアリ・シェリが受賞。特別表彰にはシュビナイ・アショーナとリン・ハーシュマン・リーソンが選ばれた。
ソニア・ボイスが金獅子賞を受賞した英国館は、エマ・リッジウェイがキュレーションを手がけている。国別パビリオンではジネブ・セディラによるフランス館と、アカイェ・ケルネンとコリン・セカジュゴの作品を展示したウガンダ館が特別表彰を受けた。
今年のヴェネチア・ビエンナーレに米国代表としても参加しているリーは、高さ約5メートルの彫刻《Brick House(レンガの家)》(2019)が評価されての受賞。目のない黒人女性が建築物と一体化しているように見えるこの彫刻は、以前、アレマーニがチーフキュレーターを務めるニューヨークのハイライン公園で展示されている。西アフリカのバタマリバ建築やマスガム族の住居の様式を取り入れる一方、ミシシッピ州ナチェスにある母親像を模した外観のレストラン、マミーズ・カップボードを連想させるものでもある。
《Brick House》はベルキス・アヨンの作品に囲まれて、目立つ位置に展示されている。「The Milk of Dreams(ミルク・オブ・ドリームス)」と題されたメイン展示のアルセナーレ会場で来場者が最初に目にする作品であり、シュルレアリスムの復興という展覧会全体のテーマとのゆるやかな関連を感じさせる。
審査員長を務めたのは、ホイットニー美術館のキュレーター、エイドリアン・エドワーズ。エドワーズが読み上げた審査員団の声明では、リーの受賞理由について「厳密なリサーチと確かな技量で完成度が高く、力強い説得力のある記念碑的な彫刻」であることを評価したと説明されている。
リーは受賞スピーチで、ビエンナーレ会期中に米国館で共同イベントを行う予定のラシダ・バンブレーや、アーティストのロレイン・オグラディなど、自らの「対話相手」と呼ぶ人々に敬意を表す言葉を述べている。
ボイスの英国館も同様に、黒人女性を中心とした企画で、特に英国の音楽史に多大な貢献をしながらもメインストリームから認められていない女性ミュージシャンに焦点を当てた。1980年代の英国におけるブラック・アーツ・ムーブメントで頭角を現したボイスは、ビデオ、彫刻、アーカイブ資料の展示を通じ、世代もバラバラで音楽スタイルも異なる5人の黒人女性ミュージシャンの歌声を伝えている。
審査員団は声明の中で、「ソニア・ボイスの作品は、音を通して歴史のもうひとつの読み方を提示した」と評価している。
ボイスは涙ながらのスピーチで、2015年のヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示に自分の作品を選んだキュレーター、故オクウィ・エンヴェゾーを含む多くの人物に謝意を表した。また、まだ評価されていない多くの人々の系譜の中に自分がいることにも触れ、次のように述べている。
「私たちは、たとえばジネブ(フランス館の代表アーティスト)の作品に見られるような、長い物語があることを忘れてはなりません。ここで展示されている人たちよりも、もっと長い系譜があることを忘れてはいけないんです」
特別表彰を受けたシェリの作品は、スーダンを流れるナイル川にあるメロウェダムを通して、過去と現在をつなぐ線を描き出すビデオインスタレーション《Of Men and Gods and Mud(人と神と泥について)》(2022)」だ。ダムを、何世紀も前の芸術作品に見られる生き物のように表現したこの作品を、審査員団は「進歩や理性の論理から解放された、もうひとつの物語を切り拓いた作品」と評した。
また、ビエンナーレの開幕に先立ち、メイン展示に出展している2人の女性アーティスト、カタリーナ・フリッチュ(Katharina Fritsch)とセシリア・ビクーニャ(Cecilia Vicuña)に栄えある金獅子賞生涯功労賞が授与された。
ドイツ出身のフリッチュの受賞理由についてアレマーニは、オブジェや動物、人物を忠実に、また不気味さを感じさせる過剰な大きさで表現した作品が称賛されたと声明で述べている。チリ出身のビジュアルアーティストで詩人のビクーニャについては、「先住民の伝統と非西洋的な認識論に対する深い敬愛のもとに行われた」幅広い活動を評価したと述べた。金獅子賞生涯功労賞は通常、中堅または長いキャリアのあるアーティスト1人に贈られる。2人のアーティストが同時受賞するのは2013年以来のことだ。
今年の審査員団は、エドワーズ審査員長のほか下記4人の計5人で構成されている。ロレンツォ・ジュスティ(イタリアのベルガモ近現代美術館〈GAMeC〉館長)。ジュリエッタ・ゴンザレス(ブラジルのイニョチン〈ブルマジーニョ〉のアーティスティック・ディレクター)。ボナバンチュール・ソー・べジェン・ンディクン(ベルリンのSAVVY コンテンポラリー創設者、オランダのソンスベーク20→24のアーティスティック・ディレクター、ベルリンの世界文化の家〈HKW〉次期館長)。スザンヌ・フェファー(フランクフルト現代美術館〈MMK〉館長)。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月23日に掲載されました。元記事はこちら。