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アジアのアート市場、新時代の到来なるか? フリーズ・ソウルの成功から考える

2022年、大手オークションハウスのサザビーズは、2023年に東京と上海にギャラリーをオープンさせ、24年には、香港に大規模な拠点を設けることを発表した。また、今年1月12日からシンガポールのアートSG、そして7月には日本で東京現代という、2つの国際的アートフェアがアジアで初開催される。こうしたアジア注力の流れについて、22年に開催された「フリーズ・ソウル」の成功から考えていく。

Photo: Let's Studio. Courtesy Frieze and Let's Studio.

イギリス発祥の世界的アートフェア、「フリーズ」がアジアで初めて開催したフリーズ・ソウルは、2022年9月2日~5日、韓国ソウルの江南(カンナム)にある「COEXコンベンションセンター」で、地元のアートフェア、「キアフ・ソウル」と共同開催された。350ギャラリーが出展し、4日間の開催期間中、7万人以上が来場。年代も様々なアートファンが訪れ、韓国のアートシーンの幅広さを感じさせた。

シルバーレンズ・ギャラリーの展示風景。Photo: Lets Studio. Courtesy Lets Studio and Frieze.

世界中の美術館が注目、億単位の作品が続々と売れる

フリーズ・ソウルには、ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA:ロサンゼルス) M+(香港)ニューヨーク近代美術館(MoMA:ニューヨーク)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、テート(ロンドンなど)、 国立国際美術館(大阪)、X美術館(北京)など、世界の名だたる美術館の代表が訪れている。そのことからも、世界中のアートシーンから熱い視線を注がれたフェアだったと言えるだろう。

作品の売れ行きも非常に好調だった。改めて、主要ギャラリーの売れ行きを振り返ってみよう。

グザヴィエ・ハフケンススターリング・ルビーの個展を開催したが、プレビューで完売。価格は37万5千ドル~47万5千ドル(約5千万円~6千万円)だった。ハウザー&ワースジョージ・コンドの新作を280万ドル(約3億7千万円)で売り、ラシッド・ジョンソンの作品は55万ドル(約7千万円)で日本の私立美術館が購入した。タデウス・ロパックでは、ゲオルク・バゼリッツの絵画に120万ユーロ(約1億7千万円)、アントニー・ゴームリーの彫刻に50万ポンド(約8千万円)の値がついた。ソウルのギャラリー、Jason Haamでは、ウルス・フィッシャーの絵画をソウルの個人コレクターが120万ドル(約1億6千万円)で購入。同じくソウルのKukje Galleryは、パク・ソボ の絵画を49万ドルから55万ドル(約6千500万円~約7千万円)、アレクサンダー・カルダーの作品を25万~30万ドル(約3千万円~4千万円)で販売した。

ペロタンの展示風景。Photo: Lets Studio. Courtesy Lets Studio and Frieze.

アートファンのため「だけではない」アートフェアを

フリーズ・ソウルの成功を支えたものとは何か。その理由やフェアがソウルの街にもたらした影響などについて、今回ディレクターを務めたパトリック・リーにインタビューした。

──フリーズ・ソウルは、パートナー企業のPRブースや、ソウルの人気カフェを設置するなど、アートに限らない自由で楽しい雰囲気を作り出しているのが特徴的でした。アート好き以外にも足を運んでもらいたいという意識だったのでしょうか。  

今年のフリーズ・ソウルの7万人の来場者の中には、コレクターやアーティスト、美術愛好家はもちろん、政治家や業界のリーダー、ポップスターや俳優など、実にさまざまな方たちがいました。このような多様な来場者にも楽しんでいただける場を提供し、クリエイティブの多様性を促進したいというのが、私たちとパートナー企業の願いでした。

──フリーズ・ソウルにK-POPアイドルのメンバーが来たとSNSで盛り上がっていましたが、そのせいか若い観客が多かった印象です。今回の特徴を教えてください。また、K-POPアイドルがアートフェアに積極的に参加することで、アート業界にとってメリットがあるとすれば、どのようなことでしょうか。  

韓国、特にソウルは、若いコレクターのシーンが盛り上がっていると思います。BTSRMや、BIGBANGのG-DRAGONのようなK-POPアイドルをフェアに迎えることができ、とても嬉しく思っています。このような文化人がアートについて発信することで、新しい観客に現代アートを好きになってもらえる機会が生まれます。そして、現代アートはポップカルチャーのさまざまな側面が相互に関連して生まれているということを、改めて思い起こさせてくれるのです。

出版物コーナー。Photo: Lets Studio. Courtesy Lets Studio and Frieze.

──フリーズ・ソウルは、ソウルの街にどのような影響を与えましたか?

今年は、ソウルの代表的な現代アートフェアである「キアフ」と提携しました。それぞれのフェアに新しい観客やコレクターを呼び込むことができ、双方にとって有益だったと思います。ソウルにはもともと強いギャラリー文化があり、ここ数年、アジアのコンテンポラリーアートの主要な拠点となっていますが、フリーズ・ソウルが成功することによって、その文化をさらに世界に広げるきっかけが作れたと自負しています。 

フリーズ・ソウル2022ホールCの展示風景。Photo: Lets Studio. Courtesy Lets Studio and Frieze.

地元アートシーンの歓迎と、コレクターの熱意

ソウルで初の世界的なアートフェア。参加ギャラリーはどういう感想を持ったのだろうか。

フェアに合わせてソウル漢南洞にリニューアルオープンした、ペースギャラリーの社長兼CEOのマーク・グリムシャーは、「2017年にソウルにギャラリーをオープンして以来、同地でのアートシーンの隆盛を体験していますが、ここで増え続けるアートファンは、幅広く、多様性に富んでいます。 地元のアートシーンはフリーズを熱狂的に歓迎しています。フェアでは機関投資家や、美術館や財団など購入者の層も幅広く、好調なセールスを記録しました」と感想を語る。

そのほか、デビッドツヴィルナーのシニアパートナー、クリストファー・ダメリオは、「初日の活気には驚きました。数年ぶりに再会した韓国の既存のコレクターに加えて、新しい若い世代のコレクターが多く参加していたのが印象的です。韓国の重要なコレクターコミュニティーだけでなく、韓国以外からのクライアントも沢山訪れました」、 タデウス・ロパックの創設者、ザビエル・ハフケンスは「フリーズ・ソウルでのデビューは成功でした。シンガポールや韓国からの新しいコレクターに大勢出会い、皆さん私たちの仕事に興味を持って、熱心に作品を見てくれました」と、いずれも手ごたえを感じているようだ。

フリーズ・ソウル成功の要因は、フリーズ側の、既存のアートファン以外の観客を取り込む工夫と、開催地である韓国のアートシーンの熱さと多彩さにあるようだ。第2回のフリーズ・ソウルは、アートSG(2023年1月12〜15日)や東京現代(2023年7月6〜9日)の開催後となる2023年9月6日から9日の日程で行われる。その時、アジアのアートマーケットの勢力図はどのように変わっているのか、楽しみだ。

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