ノートルダムのステンドグラスを現代アートに? マクロン大統領の方針に、フランス国民が猛反発
フランス・パリを象徴する歴史的建造物の1つで、2019年4月の大火災で屋根と尖塔が崩落したノートルダム大聖堂。再建が進む同聖堂で、19世紀に設置されたステンドグラスに代わる新たなデザインを公募するマクロン大統領の方針に、12万5000人を超える反対署名が集まった。
問題となっているステンドグラスは、1859年に建築家のウジェーヌ・エマニュエル・ヴィオレ=ル=デュクが、当時荒廃していたノートルダム大聖堂の再生を行った際に設置されたもので、2019年の火災では幸い被害を免れていた。
しかし12月8日、エマニュエル・マクロン仏大統領は、このステンドグラスをノートルダムの修復過程を記録する新たな博物館へ移設し、大聖堂の南側にある7つのステンドグラスのうち、6つのデザインを現代アート作家から公募する方針を明らかにした。
マクロン大統領の方針は激しい反発を呼び、発表の翌々日にはオンラインでの反対署名が大きな広がりを見せた。
西洋美術史の専門メディア、La Tribune de l’Artは書簡を発表し、こう糾弾している。
「ステンドグラスは損壊を免れたにも関わらず、それを撤去することを正当化できるのか? 誰のものでもない大聖堂を改造する権限を国家元首に与えたのは誰なのか? エマニュエル・マクロンはパリのノートルダム大聖堂に『21世紀のシンボルを刻む』と説明しているが、少しは慎み深くしたほうがいい。21世紀の刻印は、すでに火災という形で刻まれているのだから」
何世紀もの歴史を持つノートルダム大聖堂に新たなデザインを導入しようとする計画が、フランス国民の怒りを買ったのは今回が初めてではない。
2019年の大火災では屋根の3分の2が焼失し、大聖堂のシンボルである尖塔も致命的な損傷を受けた。フランス文化省は、多数の寄付がフランス国内外から寄せられたことを受け、2022年に本格的な再建を開始。そこでは、中世の技術で加工・切断された約1500本のオーク材を用いた梁が屋根を支えるヴィオレ=ル=デュクの構想にほぼ忠実な再生が目指された。このときにもマクロン大統領は、19世紀の尖塔を「現代的な建築デザイン」にする新たな案をいったん公募したものの、猛反対を受けて撤回している。
大聖堂の内部はまだ火災の傷跡が目立つが、今年7月にパリで行われる夏季オリンピックに何百万人もの観客が押し寄せる頃には、屋根と尖塔の再建は完了している見込みだ。(翻訳:石井佳子)
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