ARTnewsJAPAN

「モアイ像を返せ」キャンペーンで大英博物館のインスタが大炎上。専門家も「事実上の検閲」と批判

チリのインフルエンサーがインスタグラム上で展開した、大英博物館が所蔵するモアイ像の返還キャンペーンに多くが賛同した。今、それに対する博物館側の対応に批判が起こっている。

大英博物館で展示されるモアイ像「ホアハカナナイア」。Photo: Getty Images

モアイ像の故郷であるイースター島は、チリ沖3701キロに位置する孤島で、島全体が国立公園(ラパ・ヌイ国立公園)になっている。モアイ像は1400年から1650年にかけて、島に住みついたポリネシア人たちが部族の指導者や神格化された祖先を称えるために制作したと考えられている。一般的に島で産出される凝灰岩で作られており、多くのものは高さ3.5メートル、重さ20トン程度だが、最大級のものは20メートル、重さが90トンにもなる。現在、島には制作中に放置されたものも含め約900体が確認されているが、数体は世界各地の博物館に所蔵されている。

そのうちの一つが、大英博物館だ。同館には大小2体のモアイ像が展示されており、大きなものは高さ約2.4メートル、重さ約4.2トンで、玄武岩でつくられた珍しいタイプだ。現地語で「失われた・盗まれた友人」という意味の「ホアハカナナイア」と呼ばれている。1868年に艦船HMSトパーズの船長リチャード・パウエル提督が現地の許可を得ず持ち去ったとされ、ホアハカナナイアは小さなモアイ像「ハヴァ」とともにヴィクトリア女王に贈られた。1869年、女王は2体を大英博物館に寄贈した。

この2体をイースター島に返還するべきという声は、これまでにも何度か起こっていた。しかし今年1月31日、100万人のフォロワーを持つチリのインフルエンサー、マイク・ミルフォートがインスタグラムとティックトック上でモアイ像の返還キャンペーンを開始。フォロワーに、「モアイを返せ」というコメントを大英博物館のSNSアカウントに投稿するよう呼びかけたところ、大英博物館のコメント欄がこのメッセージであふれ返ったことから、同館は投稿欄を閉鎖するという対応をとった。

美術館の脱植民地化およびデジタル関連のコンサルタントとして活動するフレイア・サミュエルはアートニュースぺーパーの取材に対し、博物館の対応は「事実上の検閲にあたる」と語り、「ソーシャルメディアは、一般の人々が本当にモアイ像の本国送還に関心があることを示すための強力な手段です」と批判した。

この件について大英博物館の広報担当者は、コメント欄を無効化したのは青少年慈善団体と共有されたある投稿を問題視したためと主張し、「私たちは討論を歓迎します。しかし、特に青少年が関係する場合は保護上の配慮の必要性を優先する必要がありました」と説明。また、モアイ像の返還については、1963年に制定された大英博物館法を引き合いに出し、同館が所蔵品を撤去することは違法になるとも述べた。

大英博物館のソーシャルメディアにまつわるトラブルは、今回がはじめてではない。2020年、ジョージ・フロイドの死をきっかけに再燃した「ブラック・ライブズ・マター」運動に連帯した人々が、X(旧ツイッター)で博物館にイギリス植民地時代の略奪品を所蔵することについて説明するよう求めたところ、同館はコメント欄を閉鎖している。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい