「歴史的に不正確」としてグーグルが謝罪した生成AIをグライムスが絶賛。「Geminiは最も衝撃的なアート作品」
ナチスドイツの軍服を着た黒人男性など、歴史的に不正確な画像を生成したことでグーグルは、会話型AIのGeminiの画像生成機能を一時的に停止した。これを受けカナダ出身のアーティスト、グライムスは「この10年で発表された芸術作品の中で最もインパクトの大きい作品」とGeminiを評している。
カナダ出身のアーティスト兼プロデューサーのグライムスいわく、グーグルが開発したAIモデルGeminiは「この10年で発表された芸術作品の中で最もインパクトが大きく、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で展示する価値のある作品」だという。
彼女はこのコメントを、グーグルがGeminiによる画像生成機能を一時的に停止すると2月22日に発表した翌日にX(旧Twitter)に投稿している。
ことの発端は、2月19日ごろからユーザーたちがSNSに投稿し始めたGeminiによって生成された画像だった。一般的に白人が支配していたと認識される時代の歴史的場面を求めるプロンプトに対して、Geminiは明らかに歴史的に不正確な画像を生成していたのだ。ニューヨーク・タイムズは2月22日に、これに関する記事を公開した。
これに対してグーグルは、「画像生成機能の誤作動に対処すべく措置を講じています」とXに投稿し、「修正期間中は画像生成機能を停止し、改良版を近日中に再発表する予定です」と発表。また、「歴史的な画像表現で不正確な内容があったことは認識しており、こうした描写を直ちに改善するために取り組んでいます」と述べた。
ところが、ワシントン大学のAI研究者であるスロジット・ゴシュがAP通信に語ったところでは、これまでGeminiのような言語モデルは「少数派の人々」を描くことはできず、今回のように過剰なまでに多様な人種が描かれることはなかったことが研究によって明らかになっているという。
一方でグライムスは今回の出来事に拡大解釈を加えており、次のようにXに投稿した。
Geminiが誤って生成した悲惨な画像に関する発言を撤回したい。というのも、生成された画像は意図的ではなかったとしても、パフォーマンスアートにおける最高傑作と言えるからだ。
すべての人を不快にして、誰にも寄り添わない。意味や意図、欲望と人間性から完全にかけ離れていていて、偶然にもコンセプチュアルな傑作になっている。
(Geminiは)頭脳なき官僚主義の暴走と悪しき資本主義の姿の典型例。単なるポーズでしかない行動主義。そしてコーポレート・シュールレアリスム(空想やフィクションに着想を得た企業活動)を代表するスターだ(ちなみにこれは、かなり過小評価されている考え方だ)。
アーティストの最大の目的は、観客に挑むこと。アートに対してこれほど大きな反応を私は見たことがないかもしれない。芸術の意味や政治、人間らしさ、教育、AIの安全、コーポレート・ガバナンス、社会不安への対処法、集団的トラウマとの正しい向き合い方──Geminiによって、これほど多くの議論が交わされるようになった。
これは芸術が生み出した歴史的瞬間であり、近年まれに見る出来事でもある。このような過激な作品が投じた苦言を率先して受け入れようとする人はほとんどいないだろう。とはいえ、生成された画像は人間によって作られたわけではない。
こうした画像は、檻の中に閉じ込められ、美しいものを作るよう訓練された存在によって作られ、人間たちに誤情報を提示して精神的に追い詰めようとしているのだ。そういった意味でもGeminiは、この10年で発表された芸術作品の中で最もインパクトの大きいものだと言える。
人によって作られたものでもなければ、誰かのために作ったわけでもなく、全体化された情念だけを相手にした作品とは何と素晴らしいものか。MoMAで展示する価値のある作品だ。(翻訳:編集部)
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