アメリカでTikTok利用禁止の可能性。アーティストらは「アプリを知らない政治家の不当な判断」と反発
3月13日、アメリカ連邦議会下院は動画投稿アプリTikTokの国内での利用を禁止出来る法案を可決した。法案が施行されれば、TikTokをフィールドに活動するアーティストたちが打撃を受けることになる。
米中の溝が深まる中で、TikTokの使用禁止法案が可決
この20年間、MySpace、Tumblr、Facebook、YouTube、そして現在のX(旧Twitter)など、さまざまなソーシャルメディア・プラットフォームで栄枯盛衰が繰り広げられてきた。そんな中、アメリカ連邦議会下院は3月13日、正式名称「アメリカ国民を外国敵対勢力管理アプリケーションから保護する法律」を超党派で可決した。施行されれば、TikTokの親会社である中国のインターネット・テクノロジー企業バイトダンスは、180日以内にTikTokの議決権株式を売却しなければアメリカでのアプリ販売が禁止される。施行されるには、上院での可決と大統領の署名が必要となる。
TikTokは2012年に運営が開始された。北京に本社を置くバイトダンスはケイマン諸島に登記されているが、欧州各地やアメリカにもオフィスを構えている。アメリカの議員たちは、利用者の情報がアプリを通じて中国共産党に共有されるおそれがあると長らく主張してきた。
2024年1月の時点で、アメリカはTikTokのユーザー数で世界1位。約1億5000万人が同アプリを利用して動画コンテンツを作成、共有、エンゲージしている。その中で、何千人、何万人というクリエイターが、TikTokを通して新しい顧客やファンとつながりを持ち、キャリアをブーストさせてきた。
新法案の施行に向けての具体的なスケジュールはまだ決まっていないが、TikTokを利用する何人かのアーティストやクリエイティブな活動をするユーザーは、現在の思いとTikTokが与えた影響についてHyperallergicに語っている。
例えばテキサス在住のアニメーターで、「Pipapeep」という名のキャラクターの作者であるリガトーニ・ガリードは、投稿は収益化していないものの、収入の大半は、TikTokとInstagramからのキャラクターグッズショップサイトへのリダイレクトによるものだと明かした。
ガリードの小さなビジネスは、SNSでつながるファン「Pipa Pals」に支えられている。この先TikTokが禁止されれば、ビジネスは大きな打撃を受けるだろう。ガリードは、「TikTokがなくなった時の穴を補うためのバックアップ・プランを考えあぐねています。このアプリの全体像を理解していない政治家たちのせいで、アプリの利用が全面的に禁止になるのは本当に不当だと思います」と訴えた。
禁止される可能性があっても、TikTokで発信を続けたい
「アメリカには、TikTokを禁止することよりも、もっと差し迫った問題があります」
こう主張するのは、約8万6000人ものTikTokフォロワーを持つFungkiigrrlだ。彼女は、TikTokが利用できなくなれば観客とつながる別の方法を見つけるしかないと話す。最終的な目標は、技術的な干渉を受けずに自分の芸術を共有できる、主権を持った創造的な空間を作ることだという。
Hyperallergicの取材に応じたアーティストは全員、TikTokは素晴らしいツールだと評価し、利用禁止の可能性があろうともコンテンツを作り続けると話している。
4年ほど前からTikTokでプロジェクトやチュートリアルを公開している、電子・光学エフェクトアーティストでカリフォルニア芸術大学の非常勤教授のジョシュ・エリンソンは、また違った視点からTikTokの必要性を訴える。
TikTokの「有名で正確なディスカバビリティ・アルゴリズム」が、多くの教育的コンテンツやチュートリアルベースのコンテンツを後押ししているというのだ。TikTokの禁止によって、そのようなコンテンツが新たな視聴者を失うことは損失であると強調。「バイトダンス問題の内実は知りませんが、恐怖を煽り、反中感情を煽るような臭いがします」とエリンソンは言う。そして、「この件に関する議員の発言を聞く限り、議会は非常に感覚がずれているように思います。ソーシャルメディアのプラットフォームを、それを理解しない人たちのために失うのは悲しいことです」と続けた。
一方、バージニア州でPandaMiniaturesという名前で活動するミニチュア・アーティストのアマンダ・ケリーは、2020年にTikTokアカウントを作成したことが「アーティスト・キャリアの成長と成功において極めて重要でした」と語っている。ケリーはTikTokのクリエイター・プログラムに参加して作品の制作資金援助を受けているほか、これまで手掛けたジェネラル・ミルズやXBOX、ディズニーとの仕事を含めた全ての仕事を、TikTok経由で受けているという。彼女は次のように訴える。
「収入を失うことは、TikTokの禁止で受ける痛手のほんの一部に過ぎません。私が長年参加してきた、アーティストやミニチュア作家のオンライン・コミュニティへのアクセスも失うことになるのです。TikTokがなければ、アーティストは膨大なオーディエンスへの露出を失い、フォロワーとの直接的なエンゲージメントが減少するばかりでなく、コラボレーションや収益化の機会も制限されるのです」
ケリーはまた、バイトダンスのTikTokに関する利用規約が他のソーシャルメディアと比べて「際立って異なるようには見えない」と指摘している。