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  • 2024.03.21

アンディ・ウォーホル財団が写真家に示談金を支払い和解。300万円は「訴訟費用のほんの一部」

アメリカ連邦最高裁判所で争われていたアンディ・ウォーホル美術財団と写真家リン・ゴールドスミスの裁判が、和解の形で解決したことが3月15日にニューヨーク連邦地方裁判所に提出された書類で明らかになった。

1981年、リン・ゴールドスミスが撮影したプリンスのポートレート。Photo: Lynn Goldsmith/Corbis/VCG via Getty Images

この訴訟は、写真家のリン・ゴールドスミスが1981年にニューズウィーク誌のために撮影したプリンスのポートレートをベースに、アンディ・ウォーホルが「プリンス・シリーズ」を制作したことが、著作権の侵害にあたるか「フェアユース」であるかが焦点となっていた。

結局、ニューズウィーク誌がゴールドスミスによるプリンスの写真を使用することはなかったが、ゴールドスミスは将来の使用のためにライセンスを保持した。その3年後、ヴァニティ・フェア誌がアルバム『パープル・レイン』で一躍スーパースターとなったプリンスを特集するにあたり、アンディ・ウォーホルに作品制作を依頼。ウォーホルは、ゴールドスミスの写真を使ったスクリーンプリントを制作し、同誌はゴールドスミスに写真使用料として400ドル(現在の為替で約6万円)を支払った。

問題はここからだ。ウォーホルはその後、ゴールドスミスの写真を使って15点の作品を制作。これが「プリンス・シリーズ」と呼ばれるものだ。そして2016年にプリンスが亡くなったとき、ヴァニティ・フェア誌を含む様々な雑誌を保有するコンデナスト社はプリンスを追悼するスペシャルエディションを出版し、その表紙にウォーホルによるプリンスの版画を使用した。アンディ・ウォーホル美術財団(以下ウォーホル財団)は、その使用料として1万ドル(同・約150万円)を受け取ったが、ゴールドスミス側には何も支払われなかった。彼女は、この件および「プリンス・シリーズ」は著作権侵害にあたるのではないかと同財団に伝えたが、逆に彼女は同財団に訴えられることとなった。

この裁判は、学術、報道、解説などについて知的財産を限定的に流用することを認める規定「フェアユース(公正使用)」のアメリカにおける定義に大きな影響を与えることから、アート界で大きな注目を集めた。

アンディ・ウォーホルがヴァニティ・フェア誌に掲載したリン・ゴールドスミスの写真をもとにしたプリンスのシルクスクリーン。Photo: Via Appellate Court Document

「フェアユース」は、その国の表現の自由の状況を示す一種のバロメーターとなっている。かつてジェフ・クーンズやリチャード・プリンスなど、他の著作からの流用で作品を制作する大物アーティストが関わった訴訟では、この原則に基づく弁護が行われ、裁判官は、新しいアートワークが適切にオリジナルから「変容」しているかどうか、つまり、1994年に最高裁が確立した判例に従って、「新しい表現、意味、メッセージ」をもつ新しい作品に改変しているかどうかが判断の基準となっている。

2023年5月18日、最高裁はゴールドスミスを7対2で支持。ウォーホルの作品が著作権を侵害しているとの判断を下した。当時、ソニア・ソトマイヨール判事は意見書の中で、「この写真家のオリジナル作品は、他の写真家の作品と同様に、有名アーティストに対しても著作権保護の権利がある」とコメントした。

興味深いのは、この判決が美学的な観点からではなく、商業上の懸念によって決定されたことだ。つまり2016年に表紙に用いられた作品は、そもそもゴールドスミスのオリジナル写真と同じく商業目的、つまり、雑誌で使用する画像のライセンス供与を目的としているため、ここではフェアユースは抗弁にならないとされたのだ。一方、「プリンス・シリーズ 」については裁定が下されなかった。

「プリンス・シリーズ 」について、ゴールドスミス側は、「そのオリジナルの創作物に関するいかなる請求についても、時効がすでに満了していた」ため、創作物に関する救済を求めなかったという。そのためウォーホル財団は、オリジナル・シリーズに関する救済の請求を取り下げることにも同意した。しかし同財団は、「プリンス・シリーズはフェアユースであり、最高裁の見解はそれを損なうものではない」と主張している。

2024年3月15日、マンハッタンにある連邦地方裁判所に提出された書類によると、ウォーホル財団は訴訟を取り下げ、ゴールドスミス側に2016年の使用料1万250ドル(約154万円)と弁護士費用を含む2万1000ドル(約316万円)を支払うことに同意したという

ウォーホル財団の法的代理人であるレイサム&ワトキンスは判決について、「この訴訟が収束し、今後は新進気鋭のアーティストを支援する活動に邁進できることをうれしく思う」とコメントした。

ゴールドスミスは判決後インスタグラムに、「(受け取る金額は)訴訟にかかった莫大な費用のほんの一部に過ぎない」と投稿。さらに彼女は、自身の「GoFundMe」への寄付を呼びかけ、「もし、訴訟費用と同等の寄付が集まれば、私はその資金を使って、自分の作品を守らなければならない立場にあるクリエーターたちの訴訟基金を立ち上げたい」と続けた。(翻訳:編集部)

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