ARTnewsJAPAN

「男子禁制」のアート展示は違法? 女性の飲酒を禁じた歴史を逆手に取る作品を来館者が提訴

オーストラリア・タスマニア州にある私設美術館、ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー(以下、Mona)が設置した男子禁制のインスタレーションは法律違反だとする訴訟が起こされた。

タスマニアのホバートにあるミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニューのインスタレーション、《レディース・ラウンジ》の展示風景。Photo: Courtesy Mona

アーティストのカーシャ・ケイシェル(Kirsha Kaechele)によるインスタレーション《レディース・ラウンジ》は、オーストラリアにおける歴史の一側面を題材としている。同国では1960年代半ばまで、女性がパブで飲酒することが禁止されていた。そのため、店側は女性を完全にシャットアウトするか、隠し部屋のようなところで法外な闇料金を取っていたという。

ケイシェルのインスタレーションには、こうしたジェンダー・ギャップや偽善を浮き彫りにしようという意図がある。女性客だけが入ることのできる豪華なしつらえの部屋にはピカソやシドニー・ノーランなどの有名作品が展示され、男性バトラーが入室者にシャンパンをサービスする。

ケイシェルはBBCの取材に、この部屋は「男性が支配する世界は奇妙で支離滅裂であるという観点を提示し、それをリセットするために必要な空間」だと答えた。

しかし、これに意義を唱えた来館者がいる。ニューサウスウェールズ州に住むジェイソン・ラウは、昨年4月に同館を訪れ、入場料として35豪ドル(当時の為替レートで約3150円)を支払った。しかし、《レディース・ラウンジ》を見られなかったのは州の反差別法に違反するとしてMonaを提訴した。

Monaは、この展示に差別的な部分があることを認めつつ、ラウは意図されたとおりに作品を「体験」したと反論。地元紙のマーキュリーが伝えるところによると、美術館側の弁護人であるキャサリン・スコットは、「所定の属性により不利な立場にある、または特別なニーズを持つ人々に対する機会均等を促進するため」であれば、州法は差別を設けることを認めていると弁論した。

これに対しラウは、その点は「積極的差別」についてのもので、「消極的差別」(*1)を認めるものではないとし、ラウンジを閉鎖するか、男性の入室を認めるか、さもなくば男性の入場料を女性より安くすべきだと主張している。


*1 存在する不平等状態を是正すべきなのにしないという不作為による差別。

リチャード・グルーバー副判事による判断の期日は未定だが、ケイシェルは必要であれば最高裁に上訴する意向を示している。彼女は、《レディース・ラウンジ》の閉鎖は作品の意義をさらに高めるだけだとしてBBCにこう語った。

「アートの観点からすれば、閉鎖に追い込まれること自体が強力なメッセージになります」(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい