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脱税で逮捕された「NYアートシーンの女王」に捧ぐ! ヴァンパイア・ウィークエンドが新作を発表

ヴァンパイア・ウィークエンドの最新アルバム『Only God Was Above Us』が4月5日にリリースされる。それに先だって発表されたシングルの一曲が、かつて「アートシーンの女王」と称されたメアリー・ブーンを題材にしており、古きよきニューヨークの姿を慈しんでいるような曲に仕上がっている。

1999年に自身のギャラリーで撮影されたメアリー・ブーン。Photo: Getty Images

アメリカのオルタナティブ・ロックバンド、ヴァンパイア・ウィークエンドは新曲「Mary Boone」で、虚偽の納税申告書を提出し、脱税したことから2年半の実刑判決を受けたニューヨークのギャラリスト、メアリー・ブーンについて歌っている。メアリー・ブーンはバーバラ・クルーガーからアイ・ウェイウェイまで、さまざまなアーティストの知名度を高めた功績で知られるが、同曲はそれを称えるというよりも、古きよきニューヨークを悼んでいるように聞こえる。

3月28日にリリースされたこのシングルは、ブーンが営んでいたギャラリーとそれにまつわる個人的な財政を巡るスキャンダルには部分的にしか触れておらず、彼女の名前は韻を踏むためだけにしか使われていない。ブーンの名前は、ボーカルのエズラ・クーニグが優しく歌うコーラスに繰り返し登場し、次のように続く。

「ぼくは部屋の暗がりにいる。メアリー・ブーン、誰かを愛する気持ちがどうかあなたに芽生えますように」

ブーンが自身のギャラリーを立ち上げたのは1977年のこと。その後は、アーティストたちの街として盛り上がっていたソーホーの中でも屈指のディーラーとしての地位を確立した。そして2019年に閉廊に追い込まれるまで、ジュリアン・シュナーベルやエリック・フィッシュル、ロス・ブレックナー、そしてジャン=ミシェル・バスキアなどの重要な展覧会を多数開催してきた

しかし、彼女が築き上げてきた地位と名声は、脱税による有罪判決であっけなく崩れ落ちることとなる。彼女は2009〜2011年にかけて300万ドル(当時の為替で約3億3000万円)を脱税したとして2018年に有罪を認め、2年半の懲役刑が言い渡された。しかし、新型コロナウイルスの感染者数が刑務所内で爆発的に増加したことから2020年に釈放された。

ヴァンパイア・ウィークエンドによる「Mary Boone」は、5年ぶり5作目となる新アルバム『Only God Was Above Us』に収録されている。LPから発表されたシングルは、マンハッタンの過去に広く根ざしている世代交代について歌っているように聞こえる。アルバムのジャケットに使われているのは、落書きだらけの横転したニューヨークの地下鉄車両と、その中で戯れる人々の様子を収めたスティーブン・シーゲルの1988年の写真だ。

ボーカルのクーニグは、ニューヨーク・タイムズのインタビューでこう語っている

「奇妙で曖昧な思い出、写真、その時々で主流とされていた考え、そして大切に受け継がれている家族の歴史。そんなニューヨークの雰囲気をこのアルバムに込めました」(翻訳:編集部)

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