1日24作品を1年にわたりリリース。ジェネラティブアートで温帯雨林再生を目指すプロジェクトがスタート

近年、デジタルアートを地球環境の改善に活かそうという試みが増えている。そのための新たな取り組みが、このほどアイルランドで発表された。1年間にわたって実行されるプロジェクトの内容を見ていこう。

ジョン・ジェラード「crystalline work (arctic)」シリーズより《3.5.10.0》。同シリーズでは、「アーキタイプ(原型)」と呼ばれる棒状の結晶でさまざまな形が生成される。Photo: Courtesy Feral File

1日24点のジェネラティブアートを1年にわたってリリース

アイルランドのアーティスト、ジョン・ジェラードが、自国の温帯雨林再生を支援するジェネラティブアートを制作した。2020年に設立されたデジタルアートプラットフォーム、フェラル・ファイルを通して提供されるのは、「crystalline work(クリスタリン・ワーク)」と題されたシリーズ。今後1年間にわたり、1日あたり24点のデジタルアートコレクションがリリースされることが6月18日に発表された。ジェラードはこう語る。

「まず言いたいのは、これは実験的なものであるということです。北極の浮桟橋を舞台とした仮想世界の中で、2024年の夏至から2025年の夏至まで毎日24点の作品をロボットが制作し続けます。このロボットは表面の色がミリ秒ごとに刻々と変化するので、プリズム・ロボットと名付けました。作品には、20年前にインターネットで見つけたJavaScript(ジャバスクリプト)の氷生成アルゴリズムが用いられています」

ジェラードはこのプロジェクトを「グローバル・データ・パフォーマンス」と呼んでいる。その具体的な意味を尋ねたところ、「ブラウザを通じて地球上の誰もがアクセスできるパブリックアート作品」という答えが返ってきた。

フェラル・ファイルのウェブサイトでは、ロボットが絶え間なくアルゴリズムを実行し、「棒状結晶」を組み立てる様子をリアルタイムで映し出す動画を見ることができる。フェラル・ファイルの発表によると、完成した結晶は「トークン化されたWebGL(ウェブ・グラフィクス・ライブラリ)内のユニークでダイナミックな3Dアート作品」となり、同プラットフォームのオンラインギャラリーに追加される。

来年の夏至までに制作される8760点のアート作品は、イーサリアムのブロックチェーン上でトークン化され、1点100ドル(約1万6000円)または0.026ETHで販売される。発表によると、「コレクターがフェラル・ファイルのアプリを使用して複数の作品をつなぎ合わせ、長尺のパフォーマンスを作成することもできる」という。

ちなみに、「これまで互いにつながりのなかったアーティスト、キュレーター、コレクターを結びつけ、新しい収集体験を提供する」ことを掲げるフェラル・ファイルでは、これまでもレフィーク・アナドール、ルー・ヤン、リック・シルヴァ、0xDEAFBEEFといったデジタルアーティストの展示が行われている。

作品からの収益で失われた温帯雨林の復活に貢献

ジェラードの「crystalline work」シリーズから得られる利益の25%は、アイルランド西部のコネマラ地方で失われた16平方キロの温帯雨林を再生するために活動している慈善団体、ホームツリーに寄付される。ロボットが日々作り出す作品は、アイルランドに1日33本の木を植える資金に相当する。

ホームツリーのマット・スミスCEOは、こう語る。

「ジョンが環境保全活動に関わってくれるのには大きな意義があります。この作品はきっと、将来にわたって長く記憶されることでしょう。私たちは3年前から一緒に仕事をしていますが、彼はいつも私たちの想像を超える新しいデジタルアートの戦略を提案してくれます。今回も、いつもと同様、とても意欲的なアプローチを取り入れながら、それを見事に実現しました。ジョンはユニークなマインドを持ったすばらしい人物で、個人的にも彼のアートが大好きです。気候危機や生物多様性の損失について造詣の深い彼とのコラボレーションは、とても楽しいものです」

各作品には、ブラウザ上でインタラクティブな音楽制作ができるプラットフォームを提供するTone.js社と共同制作された「アニュアル・ジェネラティブ・サウンドトラック」が付属している。ジェラードはそれについてこう説明した。

「サウンドトラックはチベットで行われるような音浴から影響を受けていて、夏は音が高く、冬は低くなります。しかしこれは、いわゆるメディアを用いた作品ではなく、データによる作品です。録音された要素は一切なく、コードから生まれる音が重ね合わされてできています」

ジェラードは、生成された4000ピクセルの棒状結晶の格子を「アーキタイプ(原型)」と呼ぶ。これが全ての作品に埋め込まれており、エクスポートして紙にプリントすることができる。また、各作品にはそれぞれ固有の結晶配列の3Dモデルも埋め込まれているので、「エクスポートして3Dプリントや仮想世界の構築に使用することも可能」だという。

フェラル・ファイルの共同創業者、ケイシー・リースは声明でジェラードをこう評価している。

「何十年も前から、ジョンはアートの境界を押し広げようと挑戦し続けています。中でも今回の『crystalline work』は最も野心的で、我われの思考を刺激する作品と言えるでしょう。その着想からシミュレーションの仕上がり、そしてアイルランドの温帯雨林再生への貢献に至るまで、非常によく考えられた作品です」(翻訳:清水玲奈)

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