フリーズソウルリポート:RMも来た!? 110のギャラリーが参加し、盛況の幕開け
韓国・ソウルのCOEXコンベンションセンターで9月2日、フリーズソウルのプレビューが始まった。国際的フェア「フリーズ」のアジア初の開催となる今回、地元アート界の期待も大きい。2会場に世界中から110のギャラリーが出展。プレビューの6時間では見切れないほどのボリュームと見ごたえがあった。会期は5日まで。一般客の入場料金は7万ウォン(約7204円)で、フリーズソウルとキアフの両方が見られる。
2日は関係者やプレス、招待客のみのプレビュー日(一般客は3日から)。午後2時の開場に合わせてCOEXコンベンションセンターには大勢の人が詰めかけ、入り口は一時すし詰め状態に。アートコレクターの前澤友作やBTSのRM、かつて人気を博した韓流ドラマ「天国の階段」などで知られる女優のキム・テヒも来ていたとの情報もある。
これに先立つ1日夜は、日本の六本木にあたる漢南洞(ハンナムドン)が多くの関係者らでにぎわい、前夜祭のようだった。ペースギャラリーがふだん6時で閉めるところを10時まで延長するなど、最先端のギャラリーが夜遅くまで営業。サムソンのリウム美術館では招待制のパーティーが開かれ、多くの業界人で盛り上がった。
では、世界的なメガギャラリーからおなじみ日本のギャラリーまで、フリーズソウルの出展ブースを幅広く、以下に紹介する。
ブラム&ポー(ロサンゼルス、ニューヨーク、東京)
日本にも支店のあるブラム&ポーは、「はじめまして、フリーズ」の意味を込めたという。奈良美智、フリードリッヒ・クナスら大御所から若手までの幅広い所属作家をそろえていた。
アントニー・ゴームリーの彫刻に、トレーシー・エミンのネオン、リー・ウェイの平面作品が並んだゾーンは、写真に収める人が多かった。それぞれの質感や色彩が調和して美しかった。
人気を集めていたのは、アスカ・アナスタシア・オガワ(上写真)やアナ・パークら若手の女性作家の作品。「流行ではなく、作品の背後にある思想を知った上での評価」だとギャラリー側は説明する。米国への移住者が現在200万人を超える韓国では、海外に対する意識が高く、英語習得者が日本と比べて格段に多い。原文に直接アクセスするため、作品の理解の仕方も欧米的なアート愛好者が多いそうだ。
ククジェ・ギャラリー(ソウル、釜山)
ソウルのアートスポットのひとつ、三清洞にあるギャラリー。地元韓国と欧米の人気作家を取り混ぜて展示していた。上写真はジャン=ミシェル・オトニエルの立体作品《Noeud Sauvage(Wild Knot)》(2020)に韓国の巨匠、パク・ソボの抽象画《Ecriture No.071130》(07)、淡いタッチで風景を描いたキボン・リーの《Backside of the memory》(16)の組み合わせ。それぞれの優しい色彩が混ざり合い、癒しの空間が生まれていた。
印象的だったのは、韓国人アーティストのキュンガー・ハン《Needing Whisper,Needle Country/SMS Series in Camouflage/BigSmile K02-01-02》(上写真)。一見、抽象絵画のようだが、すべて北朝鮮に伝わる刺繍だ。制作に1000時間もかったという。
ガゴシアン(ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、ジュネーブ、バーゼル、ローマ、アテネ、香港、グシュタード)
明るい色彩とリズミカルなフィギュアが印象的な、米国のアーティスト、リック・ロウの作品が入り口で出迎えるのは、アートの帝王、ガゴシアンのブースだ。村上隆の最新のお花シリーズやダミアン・ハースト《Ashes to Ashes Dust to Dust》(2005)など、スーパーアーティストの展示の隣に、石田徹也の小品がある。有名、無名問わず、良いと思った作家の作品を集めて展示する懐の広さを感じた。
デイヴィッド・ツヴィルナー(ニューヨーク、ロンドン、パリ、香港)
通路側の目立つゾーンは、先日弊サイトでも紹介し、今ブレイク中の若手作家、オスカー・ムリーリョの大作1点を含む計4点が占めていた。内側には草間彌生やキャサリン・バーンハートの大作が展示され、明るく楽しい雰囲気。
ペロタン(パリ、香港、ニューヨーク、ソウル、東京、上海、ドバイ )
バハマで活動するコンセプチュアル・アーティスト、タバレス・ストラカンの個展を開いていた。一見宇宙をモチーフにした平面作品だが、近づくと、惑星一つひとつが雑誌などのコラージュで出来ていることに気が付く。ストラカンは、ロシアで宇宙飛行士の訓練に参加するほどの宇宙好きで、実際に作品を宇宙に打ち上げてもいる。色々な百科事典をバラバラにして1冊に再編集した作品もあり、学者さながらの情熱で活動している。
艸居(京都、東京、リスボン)
1960年代の平面作品から現在のセラミック作品まで、三島喜美代の50年にわたる作家業を小さなフロアで一気に振り返ってみせた。最も目を引いたのは、おなじみ「少年ジャンプ」をモチーフにした作品の巨大版。廃棄物を焼却して生まれる溶融スラグを使ったもので、300キロにもなる。世界に数個しか存在しない。プレビュー日に、すでに取り置き(売約済)の話が入っていた。
マリアン・イブラヒム(シカゴ、パリ )
若くパワフルなソマリア系フランス人、イブラヒムが手掛けるギャラリーで、黒人作家が多く在籍する。その中から今回は、代表的な作家アモアコ・ボアフォ、ピタ・ウカを特集していた。ほかに、このほど新たに所属した井田幸昌が、一面を使って彫刻と平面作品を展示。価格を問い合わせる客も散見され、注目度の高さを示した。
こちらは、ガーナ出身のアモアコ・ボアフォによる人物像。独特の素材感が印象的だ。すべて指で描いたものという。
パーセル(東京)
思わず立ち止まって見てしまう2.8メートルの超巨大な木彫は、若手彫刻家、森靖の作品。サモトラケのニケやマリリン・モンローら、古代から現代までの美を重層的に表現しているという。韓国では大作もよく売れるという。この作品は韓国や欧米の個人コレクターや美術館からすでに商談が入っており、同サイズの別作品を注文したいという声もあったという。
東京画廊B+TAP(東京)
榎倉康二の大作《FIGURE B-No.1》(1983)が圧巻だった。
小山登美夫ギャラリー(東京)
川島秀明や、気鋭の若手作家、倉田悟。彼らは韓国でも人気があり、ほぼ完売。
アントン・カーンギャラリー(ニューヨーク)
ギャラリーめぐりで疲れ果てた時にふと目に入ったのは、まるで今の自分を代弁するように座り込んでタバコをふかすニンジンの立体作品。韓国系米国人アーティスト、へイン・コーの《Sitting,Carrot,Smoking》(2022)だ。陶作品のように見えるが、ブロンズに油絵具で彩色したもの。ブースはキッチュでシュールな作品であふれていた。