メキシコの略奪文化財を売却。政府の返還要請にオークション側は「盗品の証拠なし」と主張
2024年3月28日、コロラド州に拠点を置くオークションハウス、アルテミス・ギャラリーでメキシコから略奪されたとされる遺物が25点出品された。これに対してメキシコ政府は返還を求めていたが、オークションハウス側は盗難品や違法品であると判断されたものは一つもないと語っている。
コロラド州のオークションハウスが、メキシコ当局からの売却中止の要請があったにもかかわらず、複数のマヤの遺物を売却したことが明らかになった。
メキシコの文化大臣、アレハンドラ・フラウスト・ゲレーロは、コロラド州ルイビルに拠点を置くアルテミス・ギャラリーが「メキシコ文化に属する作品」を販売しているとX(旧:Twitter)に投稿し、オークションハウスに販売中止を要求した。フラウストはハッシュタグ「My Heritage Is Not for Sale(私の文化は売り物ではない)」を付けた上で、「国の文化に値段をつけることほど不道徳なことはない」とコメントしていた。
メキシコの大統領夫人、ベアトリス・グティエレス・ミュラーも、3月28日に開催されたこのオークションについてXで遺憾の意を表明している。彼女は、アルテミス・ギャラリーが販売している遺物は「私たちの領土から違法に盗まれたもの」と記し、「mipatrimonionosevende(私の文化は売り物ではない)」というハッシュタグを加えていた。
芸術系のウェブメディア「Artnet News」によると、メキシコが販売中止を求めた25点の遺物のうち、16点は落札されたという。また、オークションハウスとギャラリーのウェブサイトでは、最低落札価格に達していないものの、一部は現在も購入できるようだ。これらには、マヤ時代に作られた一対のイヤフレア、紀元前550〜900年頃に制作されたとされる、漆喰でできたマヤの女性王族の肖像画、マヤ神話に伝わる太陽神、キニチ・アハウの頭部がついた翡翠のペンダント、紀元前1200〜1450年頃に作られたとされる多色陶器の大きな壺などが含まれる。
アルテミス・ギャラリーの共同エグゼクティブ・ディレクターを務めるボブ・ドッジはARTnews US版に対して次のような声明を発表している。
「主要な博物館やオークションハウスのすべては、盗難品であると判明した品物を出品しています。これは、金儲けに対する貪欲さや文化的遺産に対する無頓着さ、法を犯したいといった理由からではありません。こうした業界には悪人も多く、私たちのようにまっとうな活動を続けているオークションハウスはだまされることがたまにあります」
法に則って行われた取り引き
エジプトの作品2点を含む、のちに略奪品と判明した作品をアルテミス・ギャラリーが販売したことを最初に報じたのは、地元紙の『デンバー・ポスト』だ。これを受け、ドッジは、そのうちの1点には1920年代からの来歴を示す書類があり「合法に取り引きされた作品だった」が、贋作であることが判明したと語っている。
またドッジによると、アルテミス・ギャラリーは過去10年の間でメキシコ政府関係者から「10件以上の申し立て」を受け取っているという。
「どの遺物も盗品であり、その重要性からもとの場所に戻るべきだとメキシコ政府は考えているようです。これらの申し立ては、連邦捜査局(FBI)と米移民・関税執行局(HSI/ICE)によって審査されましたが、盗難品や違法品であると判断されたものは一つもありません」
ドッジはまた、メキシコ領事館の職員が5度にわたってオークションハウスを訪れ、遺物の本国送還を要求してきたと付け加えた。ドッジはこれを違法行為だと主張し「Their Heritage Is Not For Sale(彼らの文化は売り物ではない)」というキャンペーンを実施。すると、メキシコから不快なメールが大量に送られてきたという。
アルテミス・ギャラリーに掲載された声明とドッジの声明は、出所が明確化された美術品の販売を認めるという、1970年のユネスコ条約が制定された後に施行されたアメリカの法律を強調している。「アメリカ文化財保護法第2600条、第14章に基づき、すべての作品は合法的に売買されているものであり、説明通りの商品が届かなければ返金を保証しています」
倫理的な問題に問われた際にドッジは、象牙の販売を禁止する国や州の法律を引き合いに出して、こう語っている。
「私はゾウを無意味に殺すことは否定していますが、1万年以上前に絶滅したマンモスの象牙の輸入を禁止したからといって、ゾウの個体数が増えたとは思えません。しかし、私たちは依然としてこの法律を一言一句守っているのです」
オークションハウスや美術館に対して行われている「私の文化は売り物ではない」キャンペーンがドライブとなり、2018年以降、15カ国から1万3500点以上の考古学的・歴史的遺物の返還に成功している。一方、メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)の考古学者や関係者によると、メキシコにおける遺産保護分は、資金削減や労働力不足といった要因による打撃を受けていることから、遺物の略奪や盗難を防ぐことができないのだという。
メキシコ当局がアメリカのオークションハウスに対してメキシコの美術品の販売を停止するよう求めることは、今後も続くだろう。INAHは過去に、ARTnews US版にこう語っている。
「自国の美術品を返還するよう求め続け、明記し個にとって神聖な物品の取り引きを阻止するために声を上げ続けることは、政府の義務です」(翻訳:編集部)
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