「都市をアートや写真とつなぎたい」アーティストコレクティブTOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHの実践

東京・有楽町を拠点とするアーティストコレクティブ「TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH」(以下、TPR)の活動が近年活発化している。都市や社会とアートを結ぶプロジェクトから海外のコレクティブや研究機関との連携まで──TPRの主要メンバー4人が拠点となるYAU STUDIOに集まり、個人と社会を往還しながらコレクティブが活動する意義を語る。

変化していく「東京」を捉えるために

──TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH(以下、TPR)はどんなきっかけで始まることになったコレクティブなんでしょうか。

小山泰介(以下、小山) ぼくが4年間のヨーロッパ滞在を経て、2017年の末に日本に帰ってきたことがひとつのきっかけでした。当時は2年後に東京五輪の開催を控えていたこともあり、せっかく日本へ帰ってきたのだから変化していく東京の状況を捉えられるようなプロジェクトを立ち上げられないかと考えていたんです。

いろいろな人に会って話すなかで、キュレーターの山峰純也くんからコレクティブにした方が面白いんじゃないかとアドバイスを受け、まずはふたりでTPRを立ち上げることになりました。TPRとして最初の大きな作品制作は、2019年から2021年まで3年間かけて行った、13人のアーティストに東京を表現してもらうプロジェクトですね。ぼくと山峰くんでアーティストをキュレーションするだけではなく、東京都写真美術館の伊藤貴弘くんなどさらにキュレーターを立ててアーティストを選定していきました。

TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH ファウンダー・ディレクター/写真家 小山泰介

築山礁太(以下、築山) ぼくはそのタイミングでTPRに参画することになりました。もともと小山さんの活動はチェックしていましたし、TPRのローンチイベントにも足を運んでいたんですが、突然伊藤さんから連絡が来てプロジェクトに参加することになったんです。

山本華(以下、山本) 私はそのプロジェクトの終わりごろから小山さんと話すようになりましたよね。その当時わたしは、コロナ禍の下北沢で、飲食店を20時に退店せざるを得なかった人々によって自然発生的につくられた駅前ロータリーでの飲み文化を追いかけながら、写真とテキストを発表していました。なので、そのタイミングは「東京」に関わる作品をつくっていた時期でもありました。

小山 他方で、秋雨さんは写真家の顧剣亨くんから面白いキュレーターがいるから会ってほしいと言われて紹介されたことを覚えています。

金秋雨(以下、秋雨) 私は大学で写真や映像を研究していましたし、TPRの存在も当時から知っていました。私自身としても美術館に属さないインディペンデントなキュレーションのあり方を模索していたので、声をかけてもらったのはありがたかったです。

TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH キュレーター 金秋雨

若い写真家と社会をつないでいく

──展示などのプロジェクトに携わるなかで、徐々にメンバーも増え活動の体制が整ってきた、と。いまは有楽町に拠点を置いて活動されていますよね。

小山 2020年に三菱地所の方から相談を受けて有楽町のリサーチを行うことになり、2022年からは「有楽町アートアーバニズムYAU」という街づくりとアーティストを結ぶパイロットプログラムに参画しています。TPRは明確なメンバーシップ制をとっているわけではないのですが、2022年にYAUがオープンしてからは主にこの4人で企画を考えたり制作を進めたりすることが多いです。

山本 活動を進めていくなかで改めて「都市の多角的なリサーチ」「現代写真表現の実践的な探究」「写真文化の発展的な研究」「ボーダレスな文化交流とコミュニティ醸成」「領域横断的な教育プログラムの実践」「未来へ向けたアーカイブ構築」という6つのミッションも定めましたね。

小山 TPRを立ち上げたとき、写真業界が閉ざされていて外部の人や新しい人に出会いづらい感覚があったんです。だから異なる表現領域の方との交流や、ECAL(ローザンヌ州立美術学校)やオランダ大使館、スイス大使館など海外の機関とのプロジェクトも増えています。同時に、アーカイブの構築も重要だと思っています。とくにいまぼくらが生きている2020年代はオリンピックも行われましたし、50年後など未来から確実に振り返られる時代でもあると感じています。将来誰かがこの時代の写真表現を知りたいと思った時のためにも、きちんと現代の活動を伝えられるよう、TPRとして活動をパッケージしておきたいんです。

──とくにこの数年は多くのプロジェクトに取り組まれていますが、TPRの活動が広がっている実感はありますか?

築山 TPRをきっかけに自分の作品を知ってもらうことも増えましたし、なにより両親や親戚に何をやっているか話しやすくなりました(笑)。これまでは個人の制作について話すしかなかったので……。

小山 ちゃんと社会とつながってるんだよ、と(笑)。

秋雨 TPRやYAUがあることで、いろいろな人と話す機会も増えました。デベロッパーをはじめ企業で働いている人々のなかには私たちと同じようなことを考えている人もいるかもしれないけれど、アカデミアやアートの世界の中にいると話すチャンスが少ない。多くの人と話せることで、リアリティのある活動を続けられている気がします。

小山 社会との接続は当初から重視していました。とくに若い写真家にとっては、コミッションワークが社会とつながる機会でもある。いまは写真専門のギャラリーやメディアも減っているし、アートフェアで写真が大々的に扱われる機会も少ない。TPRをプラットフォームとして機能させることで20代の若い写真家をもっと社会とつなげたかったんです。

実際に三菱地所の新卒採用者向け写真集を企画したときも、これから社会人になる人たちと近い世代にあたる20代の作家だけを起用しました。歴史的に見ても、PROVOKE[編注:1968年に美術評論家の多木浩二と写真家の中平卓馬が中心となり創刊された同人誌/コレクティブ]の作家達がコミッションワークで実は企業の写真を撮っていたり、バブル期には海外の写真家が企業のパンフレットを撮影する機会もあったと聞きます。

築山 まさにぼくも、最初に連絡をいただいたときは学校を卒業してから何をすべきか悩んでいる時期でもありました。だからメッセージを見てビックリして、そのとき食べていたアイスを落としちゃって(笑)。それくらい救われた気分になったことを覚えています。

TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH アシスタントディレクター/写真家 築山礁太

コミッションワークこそ純度が求められる

──TPRの特徴のひとつは、都市をフィールドとして活動を展開している点にあります。これまでどんなプロジェクトに取り組まれてきたのでしょうか?

小山 2020年から続いている「YURAKUCHO ART SIGHT PROJECT」では場のリサーチから展示まで同じエリアでおこなうことをコンセプトとして、アーティストが有楽町で行ったリサーチをもとに制作した作品を有楽町や丸の内の仮囲いやビルファサードにインストールしています。また有楽町駅の前を走るKK線がこれから新しい公共空間へと変化していくのですが、1950年前後から近代まで記録されたアーカイブ写真のリサーチと現在から未来まで定点観測的に撮影していくプロジェクトも行っています。

有楽町以外のエリアだと、東京湾に浮かぶ猿島で行われる芸術祭「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2022」では8名のアーティストと横須賀で3カ月間リサーチを行ったうえで作品を発表したほか、2023年の「東京クリエイティブサロン」では「100 WINDOWS」と題し24組のアーティストが制作した120点を超える作品を都内各所で展示しました。今年は教育機関とも連携しながら横浜でのリサーチプロジェクトも始動する予定です。

YURAKUCHO ART SIGHT PROJECT Vol.2 | INTERFACE_YURAKUCHO, Shin-Tokyo Building, 2021 ©TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEACRH

秋雨 キュレーションする立場としてもチャレンジになるプロジェクトが多いし、とくにコミッションワークは写真家にとっても貴重な機会になります。学校の課題だと正解不正解が決められる一方で責任は問われないけれど、コミッションワークは責任も生じるしわかりやすい正解もない。

小山 コミッションワークは仕事だからクライアントから言われたものをつくるという姿勢ではなく、普段の作品よりもむしろ強い作家性が求められるものだと思っています。仕事だからこそ純度の高い表現が求められている。

築山 ぼくが三菱地所の新卒者向けパンフレットで作品を撮ったときも、それまで温めていたアイデアに挑戦する機会になりました。以前はクライアントが欲しそうなものをどう撮るか考えがちだったんですが、こちらから積極的に提案できる機会も増えました。

TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH リサーチャー/アーティスト 山本華

活動の継続で都市も変わっていく

──フィールドを広げていくことで、関わる人もフィードバックを得られる機会も増えそうです。活動が広がっている実感はありますか?

小山 たとえば仮囲いで展示を行うプロジェクトは当初条例による制約が大きくて壁面の1/3までしか写真を掲出できないと言われていたんですが、活動を続けるなかで街からも受け入れられるようになり、翌年からは全面的に展示を行えるようになりました。ぼくらの活動を通じて街と人びとの姿が少しづつ変わっていく感覚もありますし、つながりが増えることでTPRにできることがどんどん増えていく実感もあります。

秋雨 ただ展示を実施して終わりではなく、プロジェクトを振り返るイベントを行ったり、アーカイブや制作プロセスを展示する場をつくっていることも活動の広がりにつながるものです。一般的に美術館やギャラリーの形式だと、作品とリサーチや制作のプロセスを並行して展示することは考慮すべきことも多く難しいですから。

自分のキュレーションの考え方としても、一回の展示で完結させるのではなく、10〜20年と長いスパンでプロジェクトを捉えたいんです。脱大学・美術館の場を増やしていきたいし、今後は海外のコミュニティとのつながりも強化していきたいですね。TPRみたいな団体がもっと増えたらいいのにと思います。

TOKYO CREATIVE SALON 2023 - Archiving as Progressive Vol.02 | 100 WINDOWS, YAU STUDIO, 2023 ©TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEACRH

山本 私たちはそれぞれ異なるコミュニティに属しているからこそ、写真やアート以外の領域ともつながりを生みやすい状況にありますが、今後はコラボレーションだけでなく自分たちのプロジェクトも増やしていけるといいですよね。

秋雨 さまざまなプロジェクトを同時並行で進められることがコレクティブの面白さでもありますからね。有楽町など限られたエリアでクイックに行うイベントもあれば、昨年から実施している東アジア写真交流会のようにじっくり時間をかけて行う企画もあるなど、異なる速度感をもっているのが活動の広がりを生んでいます。

小山 ここ数年はホワイトキューブの中だけで表現することに面白みをあまり感じていなかったけれど、屋外でのプロジェクトをたくさんやってきた経験をふまえて、今後は美術館などでも展示する機会をつくっていきたいです。TPRはリサーチや作品を発表しながら写真の研究やアーカイブもするし、外部に伝えていく活動も並行して行っていて、異なる角度から都市や社会とアートや写真をつなごうとしています。さまざまなフィールドで実践してきたことを美術館の中に持ち込むことで、さらに多くの方々に観てもらえる機会を増やしていきたいです。

TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH

「都市の多角的なリサーチ」、「現代写真の実践的な探求」、「写真文化の発展的な研究」などをミッションとして、未だ見ぬ都市と社会と人びとの姿を可視化し、見出されたヴィジョンを未来へ受け継ぐことを目的としたアーティスト・コレクティブ。2018年の設立以来、広く写真・映像表現に携わる人々との有機的かつ水平的な協働を通じて、アートプロジェクトやリサーチプロジェクト、企業・行政との共同プロジェクトやコミッションワーク、国際的な文化交流、教育プログラムや研究会など、多角的な活動を展開している。

Photo: Shintaro Yoshimatsu Text/Edit: Shunta Ishigami

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