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ブリティッシュ・カウンシルが380億円の負債。近現代アートコレクション9000点の半分を売却検討

イギリスの国際文化交流機関、ブリティッシュ・カウンシルが1億9700万ポンド(約380億円)の債務を抱え、デイヴィッド・ホックニールシアン・フロイドらの作品を含んだ約9000点のコレクションの一部売却を検討している。

ブリティッシュ・カウンシルのロンドン本部。Photo: Wikimedia Commons

ブリティッシュ・カウンシルは、国際的な文化および教育機会の提供を目的にイギリスで1934年に設立された非営利の公益団体。現在は、日本(東京)を含む世界100カ国に拠点を持っている。このほど同機関が1億9700万ポンド(約380億円)の債務を抱え、アートコレクションの一部を手放すことを検討していることが明らかになった。

同機関のコレクションは20・21世紀のイギリス美術に焦点を当てたもので、デイヴィッド・ホックニールシアン・フロイドジョン・アコムフラヘンリー・ムーアアニッシュ・カプーアダミアン・ハーストら著名な作家の作品を含む約9000点におよぶ。常設展示スペースは持っておらず、常時約20パーセントの作品が国内外に貸し出されている。

ブリティッシュ・カウンシルの収入の約85パーセントは、英語教育や試験運営、パートナーシップ契約から得ている。残りの約15パーセントはイギリス外務・英連邦・開発省(DFID)から拠出される資金で賄われていた。

しかし同機関はパンデミック期間中に資金繰りが悪化し、DFIDから2億5000万ポンド(約482億円)の緊急融資を受けたが、その大部分がまだ返済できていない。アート・ニュースペーパーの報道によると、同機関は融資に対する利子として毎年約1400万ポンド(約27億円)を支払わねばならず、DFIDにローンの軽減と、2024年から2025年にかけて受けた1億6300万ポンド(約314億円)の補助金交付を2026年以降も継続するよう要請したという。

この財政危機に際して、スコット・マクドナルドCEOはガーディアン紙の取材に対し、予算を2億5000万ポンド(約482億円)削減するために、数百人規模の人員削減や、最大40カ国での活動停止を検討していると話した。また、政府に対して、融資の帳消しと引き換えに2億ポンド(約385億円)相当のアートコレクションを引き渡すことも考えているという。これに対してイギリス政府は、「ブリティッシュ・カウンシルの財政が回復し次第、融資の回収を行う方針には変わりはない」としている。

だが、同機関のコレクションの約50パーセントは法律上の制限によって売却ができない。ザ・タイムズ紙によると、マクドナルドは最近開催された議会特別委員会で、「制限のない50パーセントのうち、売却可能なものを検討している」と述べたという。

具体的にどの作品を売却する可能性があるかについて、同機関の広報担当者は、まだ決定はしていないとした上で、「ブリティッシュ・カウンシルの後退は、世界での影響力をめぐる競争においてイギリスは打撃を受けることとなります。資産の見直しを含めて、長期的な財政の持続可能性を確保するために必要なあらゆる措置を講じています」と説明した。

同機関が財政危機への対処に奔走する一方で、1月15日、イギリス政府は、文化や教育、スポーツなどのソフトパワーを使い、同国の国際的な地位向上と経済成長を促進するための組織「ソフトパワー」委員会の設立を発表した。文化芸術を他国に紹介するという点でブリティッシュ・カウンシルと重複する部分があり、明確さに欠ける施策に一部批判の声もある。アートニュースペーパーの取材に対して匿名のアート関係者は、「この国の芸術の危機的状況にこそ、私たちは目を向けるべきです。ソフトパワーは間接的に作用するものであり、数値化するのは困難です。結局のところ、『ソフトパワー』の戦略的目標とは何なのでしょうか?」と話した。(翻訳:編集部)

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