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「芸術を理解していない金持ちの典型例」──豪の大富豪が自身の肖像画の撤去を美術館に要求

オーストラリアの長者番付ナンバーワンの実業家、ジーナ・ラインハートが、オーストラリア国立美術館に展示されているビンセント・ナマジラによる自身の肖像画を撤去するよう美術館に要求した。その理由は明らかにされていないが、芸術のあるべき姿を理解しようとしない金持ちの典型例だと非難の声が上がっている。

ビンセント・ナマジラが手がけた肖像画。ジーナ・ラインハートを描いたものは下段左から3番目。Photo: ©Vincent Namatjira/Copyright Agency/Photo Iwantja Arts/Courtesy of the Artist and Iwantja Arts

オーストラリアで最も多くの資産を保有する実業家のジーナ・ラインハートが、キャンベラにあるオーストラリア国立美術館に対して、アボリジニのアーティスト、ビンセント・ナマジラが手がけたラインハートの肖像画を撤去するよう求めた。

同館への寄付者でもあるラインハートがなぜ絵画の撤去を求めたのか、その真意は明らかになっていないが、少なくとも彼女がナマジラによる肖像画を好意的に受け取っていないことは確かだろう。ピンク色の肌と誇張された顎肉、そしてへの字になった唇としかめっ面のラインハートの肖像画を、ガーディアンとシドニー・モーニング・ヘラルドの両紙は、「お世辞にも美しいとは言えない」と評している。

この作品は、アデレードの南オーストラリア美術館から巡回してきたナマジラの回顧展「Australia in Colour」の出品作の一つ。オーストラリアで人気を博しており、人々から愛されているナマジラは、オーストラリアの権威ある肖像画の公募展、アーチボルド賞を2020年に先住民族として初めて受賞している

鉱山業で財を築き、現在はハンコック・プロスペクティングの会長を務めているラインハートは、物議を醸す発言によって、何度か全国紙の一面を飾っている。2022年にネットボール選手がハンコック・プロスペクティングのロゴをユニフォームに入れることを拒否したことから、ネットボール・オーストラリアへの資金提供を止めると表明したことは、その一例だ。

シドニー・モーニング・ヘラルドによると、ラインハートはオーストラリア国立美術館長を務めるニック・ミッツェビッチと、会長のライアン・ストークスにナマジラの肖像画を撤去するよう4月に要請したという。だが、彼女の申し出を同館は拒否しており、「当館の収蔵作品や展示作品に対してご意見がありましたら、お気軽にお知らせください」と、シドニー・モーニング・ヘラルドに声明を寄せている。

シドニー・モーニング・ヘラルドによると、ハンコック・プロスペクティングの経営陣は、国立美術館が「中国共産党の言いなりになっている」と不満を漏らしていたというが、これが撤去要請の理由とは考えにくい。なぜならラインハート自身は、エネルギー供給や国防の観点において中国政府をオーストラリア政府よりも高く評価しているのだ。

今回ラインハートがとった行動は、芸術のあるべき姿をビリオネアが理解しようとしない典型例のように多くの人々に映っているようだ。オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙は、彼女の行動を次のように酷評している

「開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。ラインハートは金、権力、そして影響力のすべてを欲しており、それ以外のものには何一つ興味がないように思える。誇り高きオーストラリア人であると彼女は延々と述べているが、冗談や皮肉が通じるような人間ではない。本当に誇り高きオーストラリア人なのであれば、そういった心の余裕があってもいいはずだ」(翻訳:編集部)

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