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犬が死んだふりをするパフォーマンスアートが「動物虐待」とSNSで大炎上。美術館側は再演を断念

5月23日、メキシコシティにあるルフィーノ・タマヨ美術館で生きた犬が演じるパフォーマンスが行われ、その様子がSNSで拡散されると、「動物虐待だ」と非難が殺到。政治家まで登場する騒ぎになった。

ルフィーノ・タマヨ美術館。Photo: Adrian Monroy/Medios Y Media/Getty Images

メキシコシティでトップクラスの美術館のひとつであるルフィーノ・タマヨ美術館で5月23日、デンマーク出身のアーティスト、ニーナ・ベイエの個展「Casts」の関連企画として、彼女の代表的なパフォーマンス《Tragedy(悲劇)》(2011)が上演された。この作品は、訓練された犬たちが絨毯の上に横たわり、トレーナーが合図を出すまでの短い間、死んだふりをするというもの。

しかし、その様子を撮影した動画がソーシャルメディアで拡散されると、多くのユーザーがベイエのパフォーマンスを即座に非難。あるXユーザーは、「犬はストレスを感じて喉が乾いている。こんな虐待は許されない」と投稿し、それに対して2000以上の「いいね!」が集まった。パフォーマンスする犬たちにはトレーナーが付いていたが、群衆に溶け込んでいたためソーシャルメディアで見る限りその存在が確認できなかった可能性はある。

この騒動はメキシコの政治家たちにも波及した。メキシコシティのマルティ・バルトレス知事は、「動物愛好家として、私はこのような出来事を非難します」とXに投稿し、メキシコの環境権を監督する団体であるPAOTに調査を開始するよう促した。PAOTは先週末、実際にタマヨ美術館の調査を開始すると発表した。

タマヨ美術館のマガリ・アリオラ館長とベイエは、5月25日に声明を発表し、動物虐待は非難するべきものだが、《Tragedy》は動物虐待を助長するものではないと理解を求めた。また、同作品をはじめとするベイエの展示作品は、人間がいかに自然界を「支配」しようとしているかを浮き彫りにするものだと述べた。

さらにタマヨ美術館は、定期的に犬が飼い主と一緒に入館できる日を設けており、「メキシコ・シティで唯一、犬が来館者の一員として見なされ、尊厳と敬意を持って扱われる美術館」であると主張した。

しかしこの声明によって騒ぎが収束することはなく、5月26日、美術館は再び声明を出し、PAOTの調査に従ってベイエの展覧会が開催されている間は《Tragedy》を上演することはないと公表した。

《Tragedy》は、現在ヘルシンキとフランスのボルドーの美術館で開催されている展覧会や、2011年のアート・バーゼル、グラスゴー・スカルプチャー・スタジオ、ニューヨークのメトロ・ピクチャーズ・ギャラリーでも上演されたが、今回のような論争を巻き起こすことはなかった。

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