「歴史を風化させてはいけない」──所有者の子孫がナチスが略奪した美術品をルーブル美術館に寄付
略奪美術品の所有者を特定するフランスの国家組織によって、ナチスに略奪された絵画作品2点の所有者が判明した。元所有者の遺族はこの知らせを受け、1950年代から2点の作品の保管を任されていたルーブル美術館に寄付したという。
17世紀に制作された絵画2点の所有者の子孫が専門家の調査によって判明したのちに、ルーブル美術館にこのほど寄付された。
ニュース専門チャンネルのフランス24によると、フロリス・ファン・スコーテンの《Still-Life with Ham》とピーター・ビノワの《Food, Fruit and Glass on a Table》はルーブル美術館の北欧コレクションに含まれており、ナチス・ドイツから回収されフランスに返還された略奪美術品を管理するフランスの国家機関「National Museum Recuperation(NMR)」の下で保管されていた。いずれの作品も、1950年代から同館に展示されている。
これらの絵画は、マチルド・ジャヴァルが所有していたパリ中心部の邸宅から1944年にナチスによって略奪されており、終戦後にジャヴァルは一族の美術品の返還を政府に要求していた。ルーブル美術館によると、ジャヴァルの要求の証拠は手紙に記されていたというが、絵画の正当な所有者に関する情報が不足していたことから、絵画は返却できなかったという。これに加えて、ジャヴァルの名前と住所の書き間違いも混乱を招いたようだ。
ヴァン・シューテンとビノワの絵画がジャヴァルの48人の子孫に返還された後、権利者の多くとその子供や孫たちが、ナチスに支配されていたフランスを詳しく紹介する展示の開幕を前に6月4日に美術館に集まった。
ファン・スコーテンやビノワの絵画を含む、NMRが保管していた6つの作品の正当な所有者の子孫を特定する調査は、フランス文化省と系図専門家の国家組織が2015年に結んだ協定によって行われた。フランスの日刊紙フィガロによると、この調査は無償で実施されたという。
ルーブル美術館に収蔵されている作品でNMRに登録されているものは1610点にのぼり、そのうちの791点は絵画作品だ。これらは、第二次世界大戦中にフランスに住むユダヤ人家庭から略奪された約10万点の遺品の一部だ。終戦後は、およそ6万点がフランスに返還され、4万5000点が持ち主のもとに戻った。残された1万5000点の大半は国によって売却され、ルーブル美術館などの国立美術館が2200点の保管を任されている。
「歴史を風化させないための取り組みであり、行動を起こすことの大切さを常に想起させるもの」と、ルーブル美術館館長のローランス・デ・カールは今回の寄付についてAFP通信に語る。(翻訳:編集部)
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