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タイム誌が2022年「世界で最も影響力のある100人」を発表。選ばれたアーティストは誰?

5月23日、タイム誌は2022年の「世界で最も影響力のある100人」を発表。政治家や時代を反映する有名人といったいつもの顔ぶれに加えて、注目すべきアーティストたちが名を連ねている。

ダイ・インを行う写真家・活動家、ナン・ゴールディンと抗議者たち AP Photo/Seth Wenig

ウクライナのゼレンスキー大統領、女優のミシェル・ヨー、作家のサリー・ルーニーらと並んで100人に選ばれたのは、アーティストで活動家のナン・ゴールディンやフェイス・リンゴールドなどだ。例年通り、「アーティスト」「イノベーター」「タイタン(大物)」「リーダー」「アイコン」「パイオニア」の部門に分かれ、選出された人物の影響力を称える短い紹介文が、過去の受賞者から寄せられている。

アーティスト部門で選ばれたフェイス・リンゴールドは、「豊かな創造力と芸術的先見性の持ち主。強く深い精神性と何事にもひるまない姿勢で現代社会を描写してきた」と、ハーレム・スタジオ美術館(ニューヨーク)の館長でキュレーターのテルマ・ゴールデンから称賛されている。

91歳のリンゴールドは、彫刻、絵画、テキスタイルによる痛烈な作品が、近年再評価されている。21年にはサーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)での展覧会(米メリーランド州のグレンストーン美術館に巡回)のほか、ハーレム出身のアーティストとしては約40年ぶりとなる回顧展がニュー・ミュージアム(ニューヨーク)で開かれた。

また、建築家のフランシス・ケレはイノベーター部門で、建築と彫刻に携わるマヤ・リンはアイコン部門で選出されている。ブルキナファソ出身で、社会や環境の問題に対応する持続可能な建築を追求しているケレは、17年にサーペンタイン・パビリオンの設計を担当。また、22年には黒人として初めて、建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞した。ケレについて、ガーナ系イギリス人建築家のデビッド・アジャイは、「社会と環境のためになる場を形にすることに長年取り組んできた先駆者」とする紹介文を寄せた。

マヤ・リンは、作家のセレステ・イングの紹介文によると「長い間無視されてきた不都合な真実を明らかにする」作品が評価されたという。21年のインスタレーション《Ghost Forest(幽霊の森)》では、葉と樹皮を取り除いた49本の杉の木が、ニュージャージー州のパインバレンズ森林保護区からマディソン・スクエア・パークに移植された。リンは、公園を訪れた人々が枯れた木立の間で日光浴やピクニックを楽しむ様子を通して、人間がいかに簡単に環境破壊の現実に適応してしまうかを示している。

著名な詩人・エッセイストでアンドリュー・W・メロン財団の会長でもあるエリザベス・アレクサンダーは、タイタン部門での選出。劇作家のリン・ノッテージから、「米国の豊かな多様性を反映する場の創造に真摯に取り組んでいる。物理的なモニュメントの実現においても、人々が自らについて語ること(ナラティブ)においても、新しいあり方を提案している人物」と評された。アレクサンダーは慈善活動家でもあり、18年に財団の会長に就任して以来、プエルトリコの文化的エコシステムに1180万ドル、コロナ禍で打撃を受けた文化関係者への財政支援を行ったクリエイティブ・リビルド・ニューヨークに1億2500万ドルを助成している。

パイオニア部門で選ばれた写真家のナン・ゴールディンは、オピオイド系鎮痛剤が深刻な薬物中毒を引き起こしたと批判されている製薬会社、パーデュー・ファーマのオーナー、サックラー家からの資金援助を断ち切るよう、美術館に働きかけるキャンペーンを行ったことが評価された。ゴールディン自身もかつてオピオイドの中毒患者だったが、現在では回復している。

ゴールディンは活動家グループP.A.I.N.(Prescription Addiction Intervention Now、今こそ処方薬中毒に介入を)を設立し、18年以降メンバーとともに美術館で数十回におよぶ抗議行動を実施してきた。最もよく知られているのは、作り物の薬瓶などを床に散乱させた展示室に活動家が横たわるダイ・インだ。これが圧力となり、ニューヨークのメトロポリタン美術館や英国のテート美術館などが、サックラー家からの寄付を今後は受け入れない方針を次々と発表している。

サックラー家による鎮痛剤オキシコンチンの強引な売り込みを、著書『Empire of Pain(痛みの帝国)』で暴露したジャーナリストのパトリック・ラデン・キーフがゴールディンに寄せた紹介文には、次のように書かれている。「最近60億ドルの和解金支払いに合意したサックラー家に強烈なスポットライトを当てた。ゴールディンは新しい形のアクティビスムを開拓し、アート界に汚れた資金が注がれているという喫緊の問題に関する議論を盛り上げた」

タイム誌の2022年「最も影響力のある100人」のリストはこちら。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月24日に掲載されました。元記事はこちら

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