ストーンヘンジの危機遺産登録判定をユネスコが延期。トンネル建設反対派は政府を提訴中
古代の巨石建造物ストーンヘンジを危機遺産リストに加えるかどうかの決定を、ユネスコが1年半延期したとアートニュースペーパー紙が報じた。同遺跡では、イギリス政府が承認したトンネル計画への反対運動が続いている。
ユネスコはこれまで、世界遺産であるストーンヘンジ近くのトンネル建設計画は同遺跡に深刻な悪影響を及ぼすとして、危機遺産(*1)リスト登録の可能性をイギリス政府に警告してきた。しかし、7月25日付けのアートニュースペーパーの記事によると、その決定を1年半延期したという。
*1 紛争や災害、都市開発や大規模工事などで、その価値が損なわれる重大な危機にさらされている世界遺産。
トンネル建設は幹線道路の交通渋滞を緩和するために計画されたもので、ストーンヘンジを管理するイングリッシュ・ヘリテージはこの再開発計画を支持。一方、考古学研究者やストーンヘンジ・アライアンスなどの世界遺産関連団体は、当初から反対運動を続けている。
2020年に当時の運輸大臣グラント・シャップスが承認した当初のトンネル計画は、反対派の提訴を経て、2021年に高等法院により却下された。その後、2023年に政府がプロジェクトを再承認したため、反対派もこの7月に再提訴を行い、現在係争中となっている。
ストーンヘンジ・アライアンスのパートナーであるトランスポート・アクション・ネットワークのディレクター、クリス・トッドはアートニュースペーパー紙の取材にこう答えている。
「(2020年に)再開発計画の却下を勧告した5人の検査官は、トンネル建設は『恒久的かつ不可逆的な損害をもたらす』としています」
しかし今回ユネスコは、トンネルと西端の開口部は現在のところ危機遺産への登録を正当化するほど「危険な状態」とは言えないとした。
建設プロジェクトを主導するイギリスの政府機関、ナショナル・ハイウェイはトンネルの危険性が誇張されすぎているとし、オンラインによる声明でこう述べている。
「トンネルがストーンヘンジの真下を通るという俗説が広まっていますが、これは事実ではありません。実際には、今ある道路よりも遺跡から遠いところに敷設される計画です」
ユネスコは2025年12月に再度アセスメントを行う予定。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews