アートで祝うパリオリンピック──開催期間中に見ておきたいフランスの9つの展覧会

パリオリンピックが開幕する。「芸術の都」が舞台とあって、パリをはじめフランス中の美術館がアートでオリンピックの開催を祝福している。その中から、開催期間中に見ておきたい9つの展覧会を紹介しよう。

エドガー・ドガ《Course de gentlemen, Avant le départ》(1862)Photo: Adrien Didierjean/©RMN-Grand Palais (Musee D’Orsay)

ついにパリオリンピックが開幕する。これを機に、フランスの美術館では「文化オリンピアード」と題し、スポーツを広く扱う展覧会が開催されている。例えば、ヴェルサイユ宮殿では馬をテーマとした作品が展示され、アルル国際写真フェスティバルでは写真がメインの展示が行われている。また、パリやリールではスポーツとファッションに焦点を当てた企画もある。ここでは、2024年のオリンピック(7月26日〜8月11日)とパラリンピック(8月28日〜9月8日)開催期間中に必見の、9つの展覧会を紹介する。

1. パンテオン(パリ)

1988年ソウルパラリンピックでの優勝者。Photo: Copyright © Collections du Musée national du Sport, Nice.

パリでパラリンピックが開催されるのは今年が初。これを記念して、Centre des Monuments Nationaux(フランス文化財センター)では、オリンピックの「傍ら」(古代ギリシャ語で「パラ」)で行われてきた協議会の歴史を紹介する。パンテオンの管理者であるバーバラ・ウォルファーは、「ここパンテオンで、『パラリンピックの歴史:スポーツの統合から社会的包摂へ(Paralympic History: From Integration in Sport to Social Inclusion)(1948–2024)』と題した展示を開催したいと思ったのは、ここが共和制の地であり、ルイ・ブライユをはじめこの壁の中に眠る多くの女性と男性が平等のために戦ったからです」と説明する。

この展示は、記事、ポスター、写真、スポーツ用具を組み合わせ、4つの「瞬間」から構成される。一つ目は1948年、神経科医ルートヴィヒ・グットマンはストーク・マンデビル病院で、第二次世界大戦で負傷した退役軍人によるストーク・マンデビル競技会と呼ばれるスポーツ大会を開始した。二つ目は1960年、ローマで車椅子の選手による初の「パラオリンピック」競技会が開催された(のちに視覚障がいをもつ競技者も参加するようになった)。3つ目の瞬間は1989年、聴覚障害のある選手が一部の競技会に参加できるようになり、新たな転機を迎えた。そして最後は2012年以降、「スーパーヒューマンに会おう」といったスローガンには、競技者のより強い誇りが反映されている。手話や触覚で楽しめるものなど、様々な状態への配慮がなされたこの展示は、アクセシビリティのモデルともなるだろう。(9月29日まで)

2. マルモッタン・モネ美術館(パリ)

トーマス・イーキンス《The Biglin Brothers Racing》(1872)Photo: ©National Gallery of Art, Washington, D.C.

マルモッタン・モネ美術館では、「あなたも! 芸術家とスポーツ(En Jeu! Artists and Sport)」と題した展覧会を開催中。画家、写真家、版画家、彫刻家の目を通して、1870年から1930年の間にスポーツがどのように国際化、現代化され、女性にも身近なものになっていったかを紹介している。展覧会の説明によると、スポーツは最初、エリート層の趣味としてイギリスからフランスに伝わったという。ハラルド・ギアシングとマルセル・グロメールによる絵画はサッカーとラグビーへの関心の高まりを記録したもので、神経学者ポール・リシェの教育用絆創膏は、激しい運動が身体に及ぼす影響に疑問を投げかけている。また、主にフランスの教育者ピエール・ド・クーベルタンの尽力により、1896年に近代オリンピックが開始されたときのゲームやトーナメントを告知するポスターや新聞も展示されている。展覧会では、女性が観客から競技者へと移行した経緯にも言及。1920年代の女子テニス界に君臨したフランスのテニス選手、スザンヌ・ランランのメダルのいくつかは、ゲームをする2人の若い女性を描いたモーリス・ドニの二連画と対比して展示されている。(9月1日まで)

3. ルーブル美術館(パリ)

アテネ、アンティフォンの画家による赤像の鉢(内側)、紀元前490年頃。Photo: Photo Christian Larrieu/© RMN-Grand Palais (musée du Louvre)

ルーブル美術館で開催中の展覧会「オリンピズム:現代の発明、古代の遺産(Olympism: Modern Invention, Ancient Legacy)」は、古代のスポーツ競技をもとに、ピエール・ド・クーベルタンが1896年にオリンピックを復活させた背景を探っている。しかし、展覧会の焦点はクーベルタン自身ではなく、あまり知られていない2人の人物。一人は、マラソン競技を発明し、この種目の優勝者に贈られる最初のカップをデザインしたフランスの文献学者ミシェル・ブレアル。そして二人目は、1896年のオリンピックの公式画家であったスイスのエミール・ジリエロンだ。主任学芸員のヴィオレーヌ・ジャンメは、「ここに展示されている象徴的な作品は、オリンピックの記念アルバムの表紙として使われ、のちにポスターとしても使用されたものです。この作品には、ジリエロンがルーブル美術館を訪れた際に展示されていた子どもの石棺が描かれています」と説明する。展覧会の最後を飾るのは、1924年夏季オリンピックの芸術競技で金メダルを獲得したコンスタンティノス・ディミトリアディスによる彫刻《 Finnish Discus Thrower(フィンランドの円盤投げ選手)》。(9月16日まで)

4. ラ・ヴィレット公園(パリ)

ENSAベルサイユ - フランス乗馬連盟によるパビリオン。Photo: ©Pauliner Gauer / Sipa Press – Ministère de la Culture

フランス文化省は今回の「文化オリンピアード」実施に際し、900万ユーロ(約15億円)を投資しているが、うち100万ユーロ(約1億6700万円)がラ・ヴィレット公園での屋外展示「アルキ・フォリー」に割かれている。この展示は、1980年にこの公園に設置されたベルナール・チュミ設計の26の赤い構造物「Follies」と対話するように、建築学生20人が設計および建設した20のパビリオンで構成されている。各パビリオンは異なるスポーツ連盟を表現しており、たとえばENSA パリ・マラケが支援したフランス・フェンシング連盟のためのパビリオンは、フォイルの形を想起させる曲線が特徴的。オリンピックとパラリンピック閉幕後は、これらのパビリオンを解体したのち、各連盟の敷地に移設される予定だ。(8月28日から9月3日まで開館)

5. ガリエラ宮殿(パリ)

ジャンドロン=フェリーによるビーチシューズ。1870年頃。Photo : ©J. Ferry Cordonnier/Courtesy Palais Galliera, Musée de la Mode de la Ville de Paris

パリ市立美術館ネットワークに含まれる14施設の1つであるガリエラ美術館では、「ファッション・イン・モーション(La Mode en mouvement)#2」が開催されている。「ファッション・イン・モーション」はスポーツを含む身体、ファッション、動きのつながりを探る3部作で、今回は2つ目。ここでは、18世紀から現代までの衣服を中心に200点が展示され、テニス、ゴルフ、乗馬などのウェアが長年にわたってどのように専門化されてきたかを辿っている。海辺のセクションでは、美術館が所蔵する水着やビーチアクセサリーの素晴らしいコレクションをじっくりと鑑賞できるほか、日焼け、美、ヌードに対する私たちの認識が何世紀にもわたりどのように変化してきたかを明らかにしている。(2025年1月5日まで)

6. ヴェルサイユ宮殿(ヴェルサイユ)

カール・ジラルデ《Queen Victoria's Visit to the Queen's Hamlet at Petit Trianon, 21 August》(1855)Photo: © Palace of Versailles, Dist. RMN / © Christophe Fouin

馬術、近代五種、パラ馬術が開催されるヴェルサイユ宮殿では、馬と馬術をテーマにした展覧会が開催中。ルイ14世の邸宅であったこの宮殿を象徴する各ギャラリーには、合計300点以上の作品が展示され、たとえばピエール・オート・ギャラリーは王家の馬を描いた「馬の万神殿」に変身している。クリメ・サルは、4本足の英雄である軍馬と、騎士道を体現する娯楽馬という2つの像を扱っており、グラス・ギャラリーには、最近再発見され、フランスでも初公開となるユストゥス・ステルマンスによる17世紀の肖像画が展示されている。この作品に描かれるのは、優美な白い牝馬に乗った7歳のレオポルド・デ・メディチ。レオナルド・ダ・ヴィンチやその師であるアンドレア・デル・ヴェロッキオなどの芸術家たちは、科学者よりも早く馬の解剖学を研究し始め、馬術が獣医学の先駆けだった。ドーフィネの部屋では、馬の美しさや魂をとらえた作品や、ユニコーンやケンタウロスなどを描いた作品を鑑賞できる。展示の最後は、馬が自動車や電車に取って代わられたことについて言及している。(11月3日まで)

7. アルル国際写真フェスティバル(アルル)

1956年メルボルンオリンピック、陸上110mハードル競技。Photo : Courtesy International Olympic Committee (IOC)

オリンピックの影響は、南フランスで毎年開催される「アルル国際写真フェスティバル」にまで及んでいる。アルル県立美術館では「スポーツの試練(Le Sport à l’épreuve)」展を開催し、スポーツと写真の相互作用を打ち出した展示を行なっている。近代オリンピックが始まった19世紀後半以来、この2つは多くの点でともに進化してきた。試合や競技を宣伝し、記憶に残るパフォーマンスを捉えるには、画像が常に最良の方法だったからだ。北京で開催された2008年夏季オリンピックでホッケー選手を捉えたエレーヌ・トブラーの写真は、スピード感と敏捷性を伝え、ローター・ジェックの《固定バーの技》(1936年)からは、走り高跳びの臨場感が伝わってくる。この展覧会は、スイスのローザンヌにあるオリンピック美術館とエリゼ写真美術館の常設コレクションから選ばれている。(9月29日まで)

8. マルセイユの複数会場(マルセイユ)

トーマス・トゥドゥ《Graals》(2017)Photo : ©Thomas Tudoux/Production : Centre d’art contemporain de Pontmain & la Crypte d’Orsay/Collection de l'artiste

マルセイユを訪れるのに今年の夏ほど適したシーズンはないかもしれない。美術評論家でキュレーターのジャン=マルク・ユイトレルは、マルセイユ市内の3カ所に100人のアーティストによる350点の作品を集めた「偉業と傑作(Des explores, des chefs-d’œuvre)」と題した3部作の展覧会を企画している。マルセイユ現代美術センター(FRAC Sud)で行われている展示「栄光の時(L’Heure de gloire)」(12月22日まで)には、エクス=アン=プロヴァンスの美術学校の学生12人の作品が含まれ、ヨーロッパ地中海文明博物館の展示「戦利品と遺物(Trophées et reliques)」では、スポーツを信仰体系の一つと捉え、アスリートを芸術家または神として崇拝するという考えを紹介している。そして、現代美術館の「コレクションの絵画(Tableaux d’une collection)」展では、厳選された絵画、写真、ドローイングを通じて、芸術とスポーツの関係を探求している。(9月8日まで)

9. トリポスタル(リール)

「Textimoov!」展の展示風景。Photo: Photo Maxime Dufour

リール=フランドル駅の隣にあるトリポスタルに入ると、「Textimoov!」展がいかに野心的であるかがわかるだろう。本展は、革新的なテキスタイルデザイナーへのオマージュとして2006年に開始された「Futurotextiles」プロジェクトの第6弾。約6000平方メートルのスペースを占めるこの展示では、スポーツと運動に関連するテキスタイル業界の最新トレンドが紹介され、特にフランスを代表するデザイナー(ティエリー・ミュグレー、マリーン・セル、ピエール・カルダンなど)と、マリアンナ・ラドレイ、グザヴィエ・ブリソー、トム・ファン・デル・ボルグといった気鋭デザイナーに光を当てている。ハイライトには、ステファン・アシュプールが手がけた今年のフランスオリンピックチームのユニフォームのデザインや、スポーツにヒントを得たオートクチュールを紹介。また、ニットウェアを専門とするブリソーのデザインを通して、訪問者は月や火星への仮想旅行を楽しむことができる。また、世界第3位の環境汚染産業と言われる繊維産業の廃棄物の削減を目的としたリサイクルとアップサイクルのセクションも。キュレーターのキャロライン・デイビッドは、「衣類、健康、輸送、防衛、宇宙……繊維は私たちの日常生活のあらゆるところに存在し、可能性の限界を押し広げています」と語る。(9月29日まで)

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