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ピカソの“ミューズ”、ドラ・マールの未公開作品がパリのオークションに出品

パブロ・ピカソのミューズと言われたフランスの写真家、ドラ・マール。その作品750点が6月にパリのオークションに出品される。1920年代から40年代にかけて撮影されたもので、これまで一度も一般公開されたことはない。

ドラ・マールが撮影したパブロ・ピカソのポートレート《Picasso dans un fauteuil en tronc d'olivier, Mougins(オリーブの木の肘掛け椅子に座るピカソ、ムージャンにて)》(1936) Courtesy Artcurial

出品作品の大半は、マールがピカソと過ごした10年間に撮影されたもの。パリの街角の人々から前衛芸術家仲間まで、被写体はさまざまだ。6月27日と28日、パリのアールキュリアルで2回のライブオークションが行われ、合計落札額は70万〜80万ユーロ(88万〜100万ドル)と予想されている。

マールといえば、何人もいたピカソの愛人の1人で、《泣く女》(1937)シリーズのモデルだったことが有名だ。それに比べ、本人の作品は最近まであまり知られていなかったが、2019年にポンピドゥー・センター(パリ)で行われた回顧展をきっかけに再評価されている。同展は、テート・モダン(ロンドン)やゲティ・センター(ロサンゼルス)にも巡回した。

オークションにかけられるネガやコンタクトシートは、1997年にマールが亡くなった後、遺品とともに相続された時のままの状態だった。アールキュリアル写真部門のアントワーヌ・ロマンはARTnewsの取材にメールで回答し、「近年になってマールの回顧展などが開催されるまで、作品は誰にも注目されないまま保管されていた」と説明している。

ロマンによると、1988年と99年にマールの遺品から絵画と写真がパリでオークションにかけられたことがあるという。なお、アールキュリアルは、今回相続人が遺品の一部を売却する理由を明らかにしていない。

出品作品の目玉は、屋外で椅子に座っているピカソのポートレート写真2枚で、1936年と37年に撮影されたものだ。そのほか、アンティーブの海辺でトップレスになったアーティストのヌーシュ・エリュアールや、パリとロンドンの街角の風景を捉えたモノクロ写真もある。予想落札価格は1点1500~3500ユーロ(1600~3800ドル)。

マールはパリに生まれ、幼少期をブエノスアイレスで過ごした。1920年代に写真を学ぶためパリに戻り、世界恐慌時代のヨーロッパの各都市を撮影している。30年代初頭にはパリに写真スタジオを設け、その後ピカソと出会った。

その作品は、ファッションや広告写真、スタジオ撮影のポートレート、街角の風景、ドキュメンタリー、シュルレアリスムのフォトモンタージュなど幅広い。また、ピカソがスペイン内戦の戦禍を描いた大作《ゲルニカ》の制作過程を撮影している。

今回のオークションの背景には、今まで光が当たらなかったシュルレアリスム作家への関心の高まりがある。シュルレアリスム運動の国際的な広がりを捉えた展覧会「Surrealism Beyond Borders(国境を越えるシュルレアリスム)」が、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)に続き現在テート・モダン(ロンドン)で開催中だが(8月29日まで)、ここでもマールの作品が展示されている。

また、マールの作家としてのキャリアについても、アーティストとミューズの関係をジェンダー・ポリティクスの観点から考察する研究者たちによって見直しが進められている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月27日に掲載されました。元記事はこちら

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