IKEAのバッグの中にゴッホ作品!? 盗まれた名作が3年半の月日を経て無事返還される
3年半前の3月30日にオランダの美術館から盗まれたゴッホ作品《春のヌエネンの牧師館の庭》(1884)が、警察と私立探偵による捜査を経て無事に返還された。作品の引き渡し時に用いられたのが、多くの人々が愛用するあのブルーのバッグだった。
IKEAのバッグは、その大きさと耐久性、そして安さから、一家に一枚あると便利なアイテムだ。実際に愛用している人も多いだろう。しかし最近、そんなアイテムが思いもよらぬ事件に巻き込まれた。3年半前のフィンセント・ファン・ゴッホの誕生日にオランダのシンガーラーレン美術館から盗まれたゴッホ作品《春のヌエネンの牧師館の庭》(1884年)が、このバッグに入れられた状態で返還されたのだ。
作品が盗まれた2020年3月当時、オランダのシンガーラーレン美術館はコロナ禍で休館中だった。そこに強盗が押し入り、フローニンゲン美術館からシンガーラーレン美術館に貸し出されていた《春のヌエネンの牧師館の庭》を持ち去ったのだ。監視カメラには、美術館のガラス戸をハンマーで破り、ゴッホを持ち去る何者かの姿が映っており、ガーディアン紙はこの様子を公開していた。
この窃盗については、2021年3月、オランダ人の男がユトレヒト近郊の小さな町バーンにある自宅で、同じくオランダにあるホッフェ・ファン・アーデン美術館から美術品を窃盗した罪、および、別の美術品強盗に関連して逮捕されている。男は強盗の罪で懲役8年を言い渡された。
その後、オランダの美術を専門とする私立探偵のアーサー・ブランドが作品のありかを突き止め、犯人側に作品を返還するよう交渉。そして、ついに先週末、オランダ警察とも連携して、アムステルダム中心部にあるアムステルフェルト広場で作品の引き渡しに成功した。その時、作品が入れられていたのが真っ青なIKEAバッグだった。このニュースを最初に報じたアートニュースペーパーによると、引き渡しに際して犯人側から出された交換条件は、ある囚人の釈放だったという。
ブランドは9月12日、今回の成果を興奮気味に報告する動画を自身のインスタグラムに投稿。フローニンゲン美術館のアンドレアス・ブリューム館長に作品を渡せる喜びを語ると同時に、捜査に携わったオランダの警察官たちと祝杯をあげる予定だと話している。
《春のヌエネンの牧師館の庭》は、ゴッホがフランスで芸術的ブレイクを果たす2年前に制作された貴重な作品で、教会を背景に、庭に佇む人物が描かれている。ゴッホがオランダの都市ヌエネンに住んでいた短い期間に制作されたもので、当時、ゴッホの父親は小教区の牧師を務めていた。この絵は、フローニンゲン美術館が所蔵する唯一のゴッホ作品でもある。一方、2020年の盗難事件の後、この作品の正式な所有者は保険会社となっている。しかし同美術館は最初に買い戻す権利を有しており、フローニンゲン美術館は「作品を正しい場所で再び公開するために、この権利を行使する」予定だ。
回収されたゴッホの絵は「比較的良好な状態」というが、フローニンゲン美術館の声明によると、今後数カ月のうちに傷の状態を「科学的に調査」するとしているが、現時点ではこの絵をいつ展示に戻せるかの見通しは立っておらず、場合によっては修復に数カ月を要する可能性があると発表している。ブリューム館長は、声明で次のように述べている。
「フローニンゲン美術館として、作品が返還されたことに心から安堵しています。現在この作品は、ゴッホ美術館で保管されています。美術館の全スタッフ、フローニンゲン市民、そして美術館来訪者を代表して、今回の返還に貢献してくれたすべての人に感謝します。そしてアーサー・ブランドの活躍に拍手を送ります」
from ARTnews