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  • 2024.07.31

その長さ8時間超! ウォーホルはなぜ、実験的サイレント映画《エンパイア》を制作したのか

アンディ・ウォーホルの最もよく知られた映画作品の1つ、《エンパイア》の制作60周年を記念する上映がエンパイア・ステート・ビルで行われた。8時間を超えるこのサイレント映画で、ウォーホルは何を試みたのだろうか。

アンディ・ウォーホルのサイレント映画《Empire》より。Photo: Courtesy Museum of Modern Art

1964年7月25日の夜、アンディ・ウォーホルと映像作家のジョナス・メカスはタイム・ライフ・ビルの44階に陣取り、6時間あまりにわたってエンパイア・ステート・ビルにカメラを向けた。

1200フィートリールに収められたフィルムは、アールデコ様式の代表的建築であるこの超高層ビルが日没に浮かび上がり、夜のとばりの中で光り輝くさまを8時間にわたって定点からスローモーションで映し続けるモノクロのサイレント映画《エンパイア》として完成した。ニューヨークの象徴的なモニュメントであるエンパイア・ステート・ビルを題材とするウォーホルの挑戦的な作品は、クロード・モネがルーアンで1つの建造物を描き続けた連作《ルーアン大聖堂》に匹敵する業績と言えるだろう。

《エンパイア》制作60周年を記念し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)アンディ・ウォーホル美術館およびエンパイア・ステート・ビル展望台の協力の下、7月25日から28日の3日間、この作品をエンパイア・ステート・ビルの80階で上映。展望台への来場者は自由に鑑賞することができた。もちろん、どこで見ても作品の価値は変わらないが、この場所で見ることができるのは貴重な機会だ。

上映は午前9時から真夜中までだったが、決まった時間帯がベストということはない。展望台からマンハッタン全体が見渡せる晴れた日には、ウォーホルが映画を撮影した場所を見つけることができたかもしれないし、日が暮れた後は、ロマンチックでありながらよそよそしさを感じさせるニューヨークの相反する面を捉えたモノクロの映像がより味わい深いものになっただろう。

MoMAの映画部門チーフキュレーターであるラジェンドラ・ロイは、声明で次のように述べている。

「どこか神秘的で人を感動させるエンパイア・ステート・ビルを捉えたアンディ・ウォーホルの《エンパイア》は、ニューヨークのアーティストや映画製作者の偉大な革新性を示す記念碑的作品です。MoMAの重要なコレクションでもあるこの作品は、我われの映画体験のあり方を一変させました。時間の流れや動き、ドラマといった全ての表現要素に新たな意味を与えたのが《エンパイア》なのです」

ウォーホルが制作した映画の多くがそうであるように、《エンパイア》にはストーリーがない。それは、映画鑑賞における実験として、あるいはウォーホルの言う「時間が過ぎていくのを見る」場として機能するものなのだ。それはまた、ニューヨークの過ぎ去った日々の記録でもある。映画が撮影された1964年、クイーンズでのニューヨーク万博開催を記念して、エンパイア・ステート・ビルの上層30階分が初めて投光照明でライトアップされた。歴史上の一瞬の出来事ではあったが、光り輝く王冠に彩られた世界でただ1つの超高層ビルを目撃した人は、「空からシャンデリアが吊るされている」と言ったという。

制作50周年にあたる2014年に、当時91歳だったジョナス・メカスはある建築専門誌から取材を受けた。公開時は賛否両論に分かれ、退屈だという酷評もあった映画に、なぜウォーホルは何時間も費やしたのかと尋ねられたメカスはこう答えている。

「エンパイア・ステート・ビル自体がその原因だ。それに、映像が単調だからといって気を抜いてはいけない。2時間経つと投光器が夜を切り裂くように輝きを放つから」(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

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