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オリンピックにアート競技!? ファレル・ウィリアムスがその復活を呼びかけ

2024年パリ オリンピックの開会式が世界中で物議を醸しているが、開会式前日のあるイベントでオリンピックの芸術競技復活が提唱された。呼びかけたのは、ミュージシャンでファッションデザイナーのファレル・ウィリアムスだ。

パリオリンピック2024に向けて化粧直しされたイエナ橋のアラブの騎手像と、エッフェル塔に取り付けられた五輪。Photo: Geoffroy Van Der Hasselt/AFP via Getty Images

2024年パリ オリンピック開会式前夜の7月25日、ルイ・ヴィトン主催のイベントには各界の著名人がキラ星のごとく集まった。その場で同ブランドのメンズ・クリエイティブ・ディレクター、ファレル・ウィリアムス明らかにしたのは、2028年ロサンゼルス大会での芸術競技復活を望んでいるということだった。突拍子もないことを言い出したように思えるかもしれないが、1912年から1948年まで近代オリンピックに芸術競技があったことをご存知の方もいるだろう。

古代のオリンピックは、神々の父ゼウス神に捧げる古代ギリシャの宗教的な運動競技祭として始まった。短距離競や円盤投げなど、近代オリンピック競技のモデルとなったものもあるが、古代の祭典では最後に100頭の牛が生贄にされたという。古代オリンピックは紀元前776年から紀元後393年まで4年ごとに行われていたが、キリスト教をローマ帝国の国教と定めたテオドシウス帝は、これを異教の祝祭であるとして禁止した。

オリンピックを復活させたのは、古代の競技祭典を知って感銘を受けたフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵で、1896年にアテネで近代オリンピックの第1回大会が開催された。また、古代ギリシャでは芸術とスポーツは密接に結びついていたため、近代オリンピックにも芸術が不可欠だとクーベルタンは考えた。芸術競技は1912年のストックホルム大会から導入されたが、当初スウェーデンの芸術界からは判定や評価の公正性に対し懸念の声が上がったという。

芸術競技には、建築、彫刻、絵画、音楽、文学の5部門があり、1912年から1948年まで、スポーツに着想を得た独創性のある作品に合計151個のメダルが授与された。しかし、スポーツに関連した作品の提出という条件は、オリンピックの参加国や規模が拡大し、国際的な大イベントとなるにつれ、芸術競技の一貫性と対象範囲に問題を生じさせるようになる。

それに加え、1948年ロンドン大会後の国際オリンピック委員会(IOC)総会では、芸術競技にはプロの出場者が多いためオリンピックのアマチュアリズムに反するという意見も出された。IOCは1952年のヘルシンキ大会でも芸術競技の開催を試みたが、主催者側の拒否に遭い、芸術競技の歴史はここに幕を閉じた。芸術競技で授与された151個のメダルは正式なオリンピック記録から抹消され、現在は各国のメダル数にカウントされていない。

ウィリアムズは、彼やその賛同者がオリンピックの芸術競技実施についてどんな構想を持っているのかには触れなかった。しかし、芸術競技を復活させる取り組みには途方もないエネルギーが必要なだけでなく、各分野で活躍する関係者の支援も不可欠だ。

一方、全米の大学・大学院卒業者を対象に最近行われた労働市場調査によると、美術専攻の卒業生は他分野に比べて失業率が高く、低賃金であることが明らかになっている。そうした環境をふまえると、オリンピックの場は芸術分野に目を向けさせる大きなインパクトをもたらし、芸術に携わる人々の状況を良い方向へと変化させるきっかけになるかもしれない。(翻訳:石井佳子)

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