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著名建築家マルセル・ブロイヤーの別荘が改修・保存へ。レジデンスや教育、滞在プログラムに活用

バウハウス出身の著名なモダニズム建築家で、家具デザイナーとしても知られるマルセル・ブロイヤーの夏の別荘が、トラスト方式で保存・活用されることになった。場所は、美しい海岸線が残るマサチューセッツ州のケープコッド。

バウハウスで学び、後年はアメリカに渡って建築家として活躍したマルセル・ブロイヤー。Photo: Oscar White/Corbis/VCG via Getty Images

ドイツのワイマールで美術や建築・デザインの総合教育を行ったバウハウスに最年少の18歳で入学したマルセル・ブロイヤーは、その後、建築家、家具デザイナーとして国際的な評価を確立。代表作には、伝統的な職人技と工業的な手法や素材を組み合わせたチェスカチェアや、昨年サザビーズが購入したマンハッタンのブロイヤービル(旧ホイットニー美術館)などがある。

そのマルセル・ブロイヤーがマサチューセッツ州東部の半島、ケープコッドのウェルフリート近郊に建てた自邸が、ほぼ1年にわたる資金調達と交渉を経て、7月末にケープコッド・モダン・ハウス・トラスト(以下、CCMHT)に売却された。これにより、所有権はブロイヤーの息子のトーマスからCCMHTに移転されたことになるが、昨年発表されたプレスリリースによると、購入価格は200万ドル(現在の為替レートで約2億9000万円)で、少なくとも140万ドル(約2億円)を寄付で賄う必要があった。

建築家で大工の技術を持つピーター・マクマホンが2007年に設立したCCMHTは、ケープコッドにある近代建築の事例収集、保存、修復のために活動を続けている。これまで、ケープコッド国立海浜公園(国立公園局)から貸与されている4軒の修復を行った実績があり、ブロイヤー邸は初の取得物件となる。

1948年に着工されたブロイヤーの屋敷は、ケープコッドの先端地区にある100軒近いモダニズム住宅の1つで、住居部分のほか、広いスタジオや暗室用の小さな離れもある。特筆すべきは、アートコレクションや家具類、アートやデザインに関する約200冊の蔵書といった資産もCCMHTが入手した中に含まれていることだ。

プレスリリースによると、ブロイヤーはアレクサンダー・カルダーパウル・クレー、ヨゼフ・アルバース、ヘルベルト・バイヤーの作品や、コスタンティーノ・ニヴォラのブロンズ彫刻などを所蔵。また、自らがデザインした家具のほか、この邸宅のために特注されたテーブル、ソファ、ラグなどもある。

ケープコッドのブロイヤー邸では、修復工事が完了次第、近代建築の保存活動に関わるアーティストや建築家、学生、研究者を対象とした年次フェローシップなどが開始される予定。また、レジデンスや教育だけでなく、このモダニズム建築をレンタルして1週間滞在できるプログラムの実施計画もある。CCMHTの担当者は、この件の第一報を伝えたアートニュースペーパー紙にこう語った。

「時間はかかりましたが、寄付をしていただいた皆さんともに貴重な物件を守ることができました。修復作業は直ちに開始されます」

アートニュースペーパーによると、建物の状態は「良好とは言えない」が、ブロイヤーが制作した家具とともに、生前と同じまま残されているという。

1981年に亡くなったブロイヤーの墓はCCMHTが所有することになった邸宅の私道脇にあり、その遺灰は、妻のコニーやコニーの妹夫婦の遺灰と並んで、日本人彫刻家の流政之が手がけた石板の下に眠っている。(翻訳:石井佳子)

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