クリスティーズ春のイブニングセールは250億円の売上! 予想落札価格超え続出で「市場復活の兆し」

クリスティーズ・ロンドンで20世紀・21世紀美術とシュルレアリスム作品のオークションが開催された。春のイブニングセールでは250億円の売上を記録し、出品された作品のうち94%が落札されたことから、アート市場が復活し始めていると同社の専門家は語った。

タマラ・ド・レンピッカの《Portrait du Docteur Boucard》は約約12億6000万円で落札された。Photo: PA Images via Getty Images
タマラ・ド・レンピッカの《Portrait du Docteur Boucard》は約12億6000万円で落札された。Photo: PA Images via Getty Images

オークションで必ず売れる「3つの条件」

マーケットに初めて出され、作品の質が高く、手頃な価格の作品は必ず売れる──。オークションハウスに所属する専門家がよく口にするこのフレーズが、カルト集団の唱えるマントラのように聞こえることがある。

3月5日にクリスティーズ・ロンドンで開催された20世紀・21世紀美術のイブニング・セールでは、9300万ポンド(約177億円)の予想最高売り上げに対して8210万ポンド(約156億円)という好調な結果を記録したことから、同オークションハウスで戦後美術と現代美術部門を率いるテッサ・ロードは前述のフレーズを絡めながら次のようにコメントした。

「高い強度を誇り、なおかつ手頃な価格で販売されていて、新しくマーケットに出品された作品にコレクターがよい反応を示してくれることは、シーズン半ばに開催されるオークションの特徴のひとつだと思います」

今回の結果をロードは適切に総括できていると言えるだろう。というのも、51点の出品作品のうち61%は、オークションに初めて出品された作品だったからだ(3月4日に開催されたサザビーズのオークションでも、出品作品の半分以上は一度も市場で取引されたことがないものだった)。オークションが始まる前に取り下げられた作品は4点、買い手がつかなかった作品は3点あった。

同イブニング・セールが終了したのちに、クリスティーズではシュルレアリスム作品を専門に扱う毎年恒例のオークション「The Art of the Surreal」が開催され、予想売り上げ額である3898万ポンド(約74億円)を大幅に上回る4800万ポンド(約91億円)超えの売り上げを達成した。これにより、3月5日に開催されたオークションの総売り上げ額はおよそ1億3010万ポンド(約248億円)を記録。また、今回のオークションの落札率は94%に達している。

ここからは、その結果をより詳細にレポートしていく(記載価格は、バイヤーズ・プレミアムおよびその他の手数料を含む)。

ほとんどが予想額超えの「20世紀および21世紀美術」

「20世紀および21世紀美術」に出品された作品のほとんどが、予想落札価格を上回る金額で落札されており、500万ポンド(約9億5300万円)の予想最高落札価格が付けられていたマイケル・アンドリュースの《School IV: Barracuda under Skipjack Tuna》(1978)は、同作家の作品としては最高額となる600万ポンド(約11億4300万円)超で落札された。また、ヴァシリー・カンディンスキーの水彩画《Schwarze Begleitung》(1923)は、数分間に及んだ競り合いの末、220万ポンド(約4億2000万円)で落札され、予想最高落札価格の2倍以上の値が付いている。ロードはオークションの様子をこう振り返る。

「会場は活気で満ちあふれていましたし、入札者の方々はのびのびとしているように見えました。オークションが始まると激しい競り合いが繰り広げられ、皆さんの興奮が伝わってきました」

イギリス人アーティストによる作品も好調な結果を残しており、180万ポンド(約3億4000万円)の予想最高落札価格が付けられていたルシアン・フロイドの《Mark the Collector》は160万ポンド(約3億円)で買い手が付いている。また、デイヴィッド・ホックニーの《Between Kilham and Langtoft》(2006)は予想最高落札価格600万ポンド(約11億4300万円)のところ510万ポンド(約9億7000万円)、フランク・アウアバッハの《Primrose Hill – Early Summer》(1981-1982)は予想最高落札価格300万ポンド(約5億7000万円)のところ240万ポンド(約4億6000万円)で落札されたほか、ブリジット・ライリーの《Daphne》(1988)は予想最高落札価格180万ポンド(約3億4200万円)に対して、130万ポンド(約2億5000万円)でハンマーが下ろされた。ロードはこれらの好調な結果について、こう評した。

「イギリスの現代アート作家がこれほどまでに精力的に取引されたのは素晴らしいことだと思います」

これ以外にも、タマラ・ド・レンピッカが1928年に制作した《Portrait du Docteur Boucard》が660万ポンド(約12億6000万円)で落札された。また、エゴン・シーレによるデッサン《Boy in a Sailor Suit》(1914)は、予想落札価格の2倍以上の330万ポンド(約6億3000万円)で買い手が付いている。

「シュルレアリスム」ではマグリット作品がまたもや高額落札

今年で開催25周年を迎えたシュルレアリスムのオークションでは、出品された25作品のほとんどが予想落札価格を上回る金額で落札されている。例えば、ルネ・マグリットの《無限の感謝》(1933)が1000万ポンド(約19億円)以上の値で買い手が付き、人々の目を引いた。また、ポール・デルヴォーの3作品は、合計1240万ポンド(約23億円)でハンマーが下ろされている。このオークションの落札率は96%。作品の取り下げはなく、買い手が付かなかったのは1点のみだった。

印象派と近代美術部門の副チェアマンを務めるオリバー・カミュは今回のシュルレアリスム・オークションは、過去一番の結果だったと喜びながら、こう振り返っている。

「作品が飛ぶように売れていきました。シュルレアリスムは20世紀の美術史上で最も重要な芸術運動で、潜在意識への扉を開き、他の芸術的技法とは全く異なる手法が用いられています。とはいえ、シュルレアリスムは依然として過小評価されることの多いジャンルでもあります。落札総額を見ると、平凡に見えるかもしれませんが、オークション全体を見れば非常に質が高かったのではないでしょうか」

カミュは、今回のオークションの結果は、販売を手がけた同僚なしでは実現できなかったと語り、こう続ける。

ロンドンや世界中の同僚たちと電話会議を、毎日のように、延々と繰り返していました。『最低入札金額のこと、あの人に伝えた?』、『正統派の派閥って何?』、『5年前に最安値で入札した人は誰か知ってる? じゃあ10年前は?』といった会話が繰り広げられていたんです。信じられませんよね」

シーズン半ばのオークションは、クリスティーズにとって満足のいく売り上げを達成できたのだろうか。カミュによれば「アートマーケットは復活の兆しを見せている」とのことだ。(翻訳:編集部)

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