サザビーズ現代美術オークション、出品数6割減も約30億円の売上。女性作家の高額落札が後押し

2月26日に開催されたサザビーズの現代美術オークション「コンテンポラリー・キュレーテッド」が開催された。昨年3月に開催された同オークションと比べて出品数は64%減少したものの、ジョアン・ミッチェルジョージ・コンドの作品が予想落札価格を大幅に上回り、好調な結果を残した。

約6億円で買い手が付いたジョアン・ミッチェルの油彩画。Photo: Courtesy of Sotheby's
約6億円で買い手が付いたジョアン・ミッチェルの油彩画。Photo: Courtesy of Sotheby's

サザビーズニューヨークで2月26日に開催された現代アートのオークション、「コンテンポラリー・キュレーテッド」では、昨年3月に開催された同オークションと比較して出品数が大幅に減少した。にもかかわらず、手数料込みで1988万ドル(約29億7200万円)の総売上を記録した。

今年のセールでは101のロットが出品されたが、そのうち21ロットは未落札、また、6件の出品取り下げがあったことから、落札率は73.3%となった。昨年3月に開催された同オークションでは、合計276ロットに対して45ロットが未落札、取り下げは22ロットで、落札率としては75.7%。手数料を差し引いた落札総額は、2570万ドル(現在の為替で約38億4000万円)だった。

昨年と比べて出品ロット数は64%減少したものの、半数以上(52%)の作品が手数料込みの予想最高落札価格を上回る金額で買い手が付き、落札価格の差は22.7%減に留まった。また、サザビーズの発表によれば40カ国以上から入札があり、入札者数は昨年と比較して11%増加したという。

US版ARTnewsは、ロット数の減少について出品者との関係悪化や最近行われた同社のレイオフの影響の有無を問い合わせたが、サザビーズのアシスタント・バイスプレジデント兼販売部門の責任者を務めるヘイリー・ストッダードは、オークション終了後も払拭することができなかった「不満の残る誤解」であるとして、こう語った。

「私たちは、今回のような小規模オークションを開催したいとずっと思っていました。実際に開催してみると、入札者のみなさまからは非常に好評でしたし、オークション参加者からもお褒めの言葉をいただきました。今年度は、少ない出品数で価値の高い作品を扱うオークションを開催するという方針を固めた当社にとって、こうした意見は励みになりますし、シーズン半ばのオークションを充実させていく上で、非常によい収穫だったと思います」

女性アーティストの売上が好調

ロサンゼルスで発生した壊滅的な火災、複数の地政学的な紛争、新たな関税への懸念、そして第二次トランプ政権における経済的不安の高まり、そしてアート市場の細分化が進むなか開催された今回のオークションにおいて、高水準の売上を確保できたのは確かに注目に値すると言える。

今回のオークションでは、ダイアン・アーバス、ヨゼフ・アルバース、ダミアン・ハーストKAWSロバート・ラウシェンバーグアンディ・ウォーホルクレス・オルデンバーグなど、定評のある作家の作品の結果は振るわなかった。他方、ルイーズ・ブルジョワ、オルガ・デ・アマラル、アニー・モリス、ファイアレイ・バエズなど、女性アーティストの作品は好調だった。

ここからは、その結果をより詳細にレポートしていく(記載価格は、バイヤーズ・プレミアムおよびその他の手数料を含む)。

セールのトップ成績を飾ったのは、ジョアン・ミッチェルが1985年に描いた無題の油彩。 この作品は予想落札価格が300万ドルから500万ドル(約4億5000万円〜7億5000万円)に対し、395万ドル(約6億円)で落札された。 この結果についてストッダードは、「シーズン半ばのセールとしては信じられないような価格」と評した。そのほかに注目すべきミッチェル作品は《Pastel》(1991)で、序盤の勢いに助けられ、20万ドルから30万ドル(約2500万円~3000万円)の予想落札額を上回る57万1500ドル(約8560万円)でハンマーが下ろされた。

ジョージ・コンド《Artist and Muse》(2015) Photo; Courtesy of Sotheby's
ジョージ・コンド《Artist and Muse》(2015) Photo: Courtesy of Sotheby's

また、百万ドル規模の売り上げを記録した2つのロットには、保証と取り消し不能の入札があり、いずれも予想落札額を超える好調な結果となった。一つはジョージ・コンドの《Artist and Muse》(2015)で、予想落札額100万ドルから150万ドル(約1億5000万円~2億2000万円)に対して、188万ドル(約2億8000万円)で落札された。また、ジャン・デュビュフェの高さ約2メートル×幅5メートルのアクリル彫刻《Echec à l'être》(1971)は、80万ドルから120万ドル(約1億2000万円~1億8000万円)の予想落札額に対して154万ドル(約2億3000万円)という結果だった。

オークションのハイライトとも言うべき盛り上がりを見せたのは、ルイーズ・ブルジョワの約1メートル50センチ×1メートル80センチの紙に描かれた作品《Are you in Orbit?》(2008)だ。ストッダードによれば、3人の入札者が4分以上にわたって激戦を繰り広げ、予想落札価格20万ドルから30万ドル(約2500万円~3000万円)の3倍以上となる92万ドル(1億4000万円)まで値を上げた。ストッダードは、 「オークション会場が興奮に包まれた瞬間でした」と振り返った。

オルガ・デ・アマラルによる羊毛と馬毛の彫刻《Hojarasca Barbas de piedra》(1973) Photo: Courtesy of Sotheby's
オルガ・デ・アマラルによる羊毛と馬毛の彫刻《Hojarasca Barbas de piedra》(1973) Photo: Courtesy of Sotheby's

「オルガ・デ・アマラルの重要性が見直されている」

コロンビアのテキスタイル・アーティストでありビジュアル・アーティストのオルガ・デ・アマラルによる羊毛と馬毛の彫刻《Hojarasca Barbas de piedra》(1973)を巡っても、激しい入札合戦が起きた。5人の入札者による競り合いの結果、予想落札額の上限12万ドル(約1800万円)を大幅に上回る44万4500万ドル(約6700万円)で決着。デ・アマラルは、2024年のヴェネチア・ビエンナーレやスミソニアン・アメリカン・アート・ミュージアムでの展覧会などに出品し、最近ではパリのカルティエ財団で個展を開催するなど注目が急上昇している。

デ・アマラルの結果についてストッダードはこう分析した。

「上手くいくことは分かっていました。展覧会での評価に市場が反応し、アーティストの人気が再び高まった例だと思います。ラテンアメリカ美術史だけでなく、国際的な美術史の中で、デ・アマラルの重要性が見直されているのです。彼女の周りには今、興奮が渦巻いています」

ほかに目立った動きを見せた女性アーティストは、アニー・モリスだ。高さ1メートル50センチのブロンズとスチールの立体作品《Bronze Stack 3, Cadmium Red》(2023)は、7万ドルから10万ドル(約1000万円~1500万円)の予想落札額に対して2倍以上となる22万8600ドル(3400万円)で落札された。ほか、ファイアレイ・バエスの紙にアクリルとインクで描かれた《Patterns of Resistance》(2015)も、4万ドルから6万ドル(約600万円~900万円)の予想落札額を上回る11万4300ドル(1710万円)で着地した。

今回のオークションでそのほか好調な結果だったのは、2月12日に84歳で死去したコンセプチュアル・アーティストのメル・ボヒナーのモノプリント《Blah Blah Blah》(2014)で、予想落札額1万ドルから1万5000ドル(約150万円~224万円)のところ5万7150ドル(860万円)だった。 (翻訳:編集部)

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