CTスキャンでポンペイ「逃亡者の庭」の犠牲者の職業が判明──携えていたのは「医療箱」
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火の惨状を今に伝えるポンペイの遺跡「逃亡者の庭」。そこに残された14人の犠牲者のうち、うずくまった男性の職業が最新研究によって明らかになった。

西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火の悲劇を生々しく伝える場所として、ポンペイでも特に有名な「逃亡者の庭」。そこに残された14人の犠牲者のうち、1人の職業が最新研究によって明らかになったと、Archaeology Newsが報じた。
「逃亡者の庭」は1960年代初頭、ポンペイ南端にある、かつてブドウ畑だった区画で発見された。硬化した火山性軽石の中には多数の空洞が残されており、研究者らの調査によって、これらが火砕流に襲われた人々の痕跡であることが判明した。空洞に石膏を流し込むと、地面に腕をついて起き上がろうとする者、うつ伏せに倒れた者、子どもをかばうように手を差し伸べた者など、14人の最期の姿が浮かび上がった。
2016年、「逃亡者の庭」の修復作業中に研究者たちは、うずくまる男性の石膏像の内部に長方形の箱が封じ込められていることを発見した。CTスキャン(コンピュータ断層撮影)による非侵襲的調査の結果、その箱は青銅の縁取りが施された木材または皮革などの有機素材で作られ、高度な錠前を備えていたことが分かった。さらに内部を詳しく調べたところ、粉末や化粧品をすり潰すための玄武岩製のすり板と、外科器具とみられる金属製器具6点が確認された。








これらの遺物から、犠牲者は当時「メディクス(medicus)」と呼ばれていた、現在の医師に相当する職業だったと考えられている。ポンペイでは200年以上にわたり発掘調査が続けられてきたが、犠牲者の職業を示す明確な証拠が見つかる例は極めて珍しい。
この医師は医療箱のほかに小さな布袋も携帯しており、中には銀貨4枚と青銅貨3枚が入っていた。青銅貨のうち1枚は、フラウィウス朝(西暦69〜96年)時代のものとみられる。こうした状況から、彼は医療道具を携えながら避難を試みる途中で、火砕流に巻き込まれた可能性が高い。
ポンペイ考古学公園のガブリエル・ズックトリーゲル館長は、同公園が発行する電子ジャーナルに掲載された論文で、次のように述べている。
「この男性は、災害を逃れた後も医師として活動を続け、人々を助けたいと考えていたのでしょう。だからこそ、医療器具を手放さなかったのです。噴火が彼の脱出を阻むその瞬間まで、道具は常にそばにありました。この発見は、古代都市ポンペイで最も心を揺さぶる、そして最も凄惨な場所の一つに関する知見に、新たな1ページを加えるものです。この場所は、ポンペイの日常生活を力強く伝える証言であると同時に、その人間らしい営みがいかに突然断ち切られたかを物語っています」
今後、研究チームはスキャンデータをもとに、この医師が携えていた医療セットを仮想的に再現する計画だという。

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「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

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Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

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