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NYのギャラリーが相次いで閉鎖した2024年。これからは「混沌を原動力に変える力が重要」

2024年、ニューヨークでは、資金不足に悩まされ、新人アーティストの育成を担っていたギャラリーや気鋭の展示スペースの閉鎖が相次いだ。業界関係者によると、アートマーケットから資金が流出していることから、規模の小さいギャラリーや新進ギャラリーが競争力を維持できなくなっているという。

Photo: Getty Images

ニューヨーク市内のギャラリーにとって2024年は、昨年から始まった地殻変動の影響を引き続き受けた年だったと言えるだろう。昨年は、チェルシーに拠点を置く楽観的なアートディーラーたちが、シックなダウンタウン・エリアへの拡大、あるいは環境の変化(そして石畳で作られた通り)を求めてロウアー・マンハッタンに移転するといった動きを見せ、トライベッカが注目された

また、アート業界の一部の人々にとって2024年は、昨年よりも暗い年だったという印象を残したことだろう。これまで、刺激的な新人アーティストの育成や気鋭のアートプロジェクトの醸成といった役割を担ってきたチャイナタウンやローワー・イースト・サイドでは、シモーネ・スーバルヘレナ・アンラターの2ギャラリーが閉鎖を決めたことで、大きな損失を被った。こうしたなかスーバルは、1999年にインターンを経験し、2000〜2003年までスタッフとして働いていたポーラ・クーパー・ギャラリーに戻ることを自身のギャラリー閉鎖から2カ月後に発表した

ポーラ・クーパー率いるギャラリーでシニア・ディレクターの職に就くというスーバルの決断は、昨年、JTTギャラリーの創業者であるジャスミン・ツーが自身のギャラリーを閉じた後、リッソン・ギャラリーのディレクターに就任したことや、ギャラリストのデヴィッド・ルイスが、ハウザー&ワースにシニア・ディレクターとして転職したことと通ずるものがある。

こうしたなか、現代美術を扱うギャラリーの創業者であるアントン・スヴィヤツキーは、「アートマーケットにとって非常に厳しい1年でしたし、企業活動を行うためのコストはこれまでにないほど高騰しました」と2024年を振り返り、ギャラリーが苦境に立たされている理由の一つは、支援者不足が関係していると語った。

また、マイアミに拠点を置く美術商のニーナ・ジョンソンは、支援者が減少した理由についてアート・バーゼル・マイアミの開催直前にアートネットニュースに寄せた記事に次のように記している

「ここ1年でギャラリーが閉廊していく様子をみて私は、アート市場の成長に伴い、バイヤーが増えた一方でパトロンの数が減っていることに気づいた」

また、スヴィヤツキーは「ダウンタウンの様子は明らかに変わってきています」とUS版ARTnewsに語り、こう続ける。

「展示スペースを創業するにあたって、金銭的なリスクを負うことを拒む人が増えています。展示スペースを経営するのであれば、パトロンの存在は不可欠です。とはいえ、安定した業績が上げられないなか、血みどろになりながらも2024年を生き延びることができたのであれば、当面は大丈夫だろうという声が周囲では上がっています」

今年に入ってから、フォクシー・プロダクションやクィア・ソーツ、デリジャック・ハンリー・ギャラリーが閉廊しており、ダウンタウンのアートシーンが縮小していることは明白だ。しかし、ローワー・イーストサイドにはスタジオや短期間の展示を開催できるポップアップスペース、ソヴェリン・ハウスのような文化施設、写真スタジオ、そしてファッションスタジオなどがあり、界隈の多様なアートシーンに貢献していると、フォーリン・アンド・ドメスティックの創業者であるアレクサンダー・モーリスは語る。

「ギャラリーの閉廊はダウンタウン・ニューヨークに限られた話ではなく、世界各国で起きています。ローワー・イーストサイドのアートシーンにはギャラリー以外の施設があるので、閉廊が相次いだからといって、この界隈が突如として消えてなくなるとは思っていません。アートシーンの幅は広いのです」

モーリスの言うとおり、2024年は多くのギャラリーが各地で閉廊している。ミッチェル・イネス・アンド・ナッシュはチェルシーのスペースを6月に閉鎖し、従来のギャラリー事業から「プロジェクトごとのアドバイザリー」事業への移行を決めた。これ以外にも、26年間事業を展開してきたカイム&リードは昨年末に閉鎖し、ロンドンのマールボロ・ギャラリーは80年の歴史に幕を閉じることを4月に発表した。

「ある程度の規模に到達すると、事業を持続させるためには多額の資金が必要だという現実が突きつけられます」と語るのは、チャイナタウンのヘンリー・ストリートにギャラリーを構えるディーラーのデイヴィッド・フィアマンだ。「アートマーケットから資金が流出しているので、規模の小さいギャラリーや新進ギャラリーにとっては、市場内で競争を続けていくことが難しくなっているのです」

それでも、ローワー・イーストサイドのダウンタウン地区は活況を呈しており、手ごろな家賃のおかげで、画期的な展示スペースが少ない予算で運営できるため、アート界全体からも一目置かれる存在となっているとフィアマンは語る。

「特にこの秋は、ローワー・イーストサイドやヘンリー・ストリート沿いに多くの人々が訪れていました」

この界隈は、ニューヨーク・マガジンの美術評論家、ジェリー・サルツが注目しているほか、メトロポリタン美術館館長のマックス・ホラインがよく訪れているという。

フィアマンは「ギャラリーが長続きしないことはしばしばありますし、閉廊にはさまざまな事情や理由があります」と言う。「とはいえ、何か新しいことに取り組みたいと意気込んでいる人が常にいるこの状況は、頼もしいことだと思います。世の中の動きを見て、人々は混沌を原動力に行動している。これが今の時代を生き残るための唯一の方法かもしれません」

この言葉を励みに、2025年に訪れるであろう無秩序さを喜んで迎え入れよう。(翻訳:編集部)

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