マーク・ロスコ の抽象画の特徴は、空中にぼんやり浮かんでいるような長方形のフォルムと、薄塗りで何度も重ねられた色彩だ。これを評論家や美術史家は、形而上学的な示唆に富むものとして評価してきた。こうした形式的要素を用いてカンバスに壮大な意味を吹き込んだロスコは、自身の作品は「悲劇、恍惚、破滅」など、人間の根源的な感情を表現していると語っている。
ロシア帝国(現在のラトビア)で生まれ、少年時代にアメリカ に移住したロスコは、美術界の権威を軽蔑する態度を示し 、アート市場のエリート層との関わりを拒んだ。それでも彼の作品は、長年にわたって世界各国の裕福なパトロンを惹きつけている。
1950年代後半、ロスコは酒造メーカーから始まったシーグラム社の創業家、ブロンフマン家の依頼でマンハッタンのシーグラム・ビルディング内にある高級レストラン、フォーシーズンズのために深紅の壁画シリーズを制作した。レストランが超富裕層向けであることを嫌ったロスコは最終的に契約を破棄したが、このシリーズで制作された「シーグラム壁画」30点は、彼のキャリアで最も有名な作品群の1つとなった。それらは現在、ロンドン のテート・モダン 、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー 、日本のDIC川村記念美術館 に分散して所蔵されている。
60年代にはテキサス州の大コレクター、ドミニク&ジョン・ド・メニル夫妻がロスコに14点の大型壁画の制作を依頼。抽象表現主義 の巨匠ロスコによる最晩年の作品は、ヒューストンにあるロスコ・チャペルを飾っている。広く愛されてきたこのチャペルは、3000万ドル(最近の為替レートで約47億円、以下同)を投じた改修を経て、開館50年目の2021年に再オープンした。さらに2024年、4200万ドル(約66億万円)をかけた拡張工事が開始されている。
当時も今も、ロスコの作品は市場における最高レベルの価格で取引されている。たとえば2026年5月、大物ディーラーの故ロバート・ムニューシンが所蔵していた《Brown and Blacks in Reds》(1957)がニューヨーク のサザビーズに出品された際には、7000万~1億ドル(約111億〜158億円)の予想落札額が付けられた。結果、その時点でのロスコのオークション最高記録にはわずかに及ばなかったものの、手数料込みで8580万ドル(約136億円)を記録している。
そしてそのわずか数日後、ニューヨーク近代美術館(MoMA )元館長の故アグネス・ガンドが所有していた別のロスコ作品が、ムニューシンの旧蔵品が達成できなかったことを実現した。クリスティーズ ・ニューヨークで9800万ドル(約155億円)で落札され、ロスコ作品のこれまでの最高落札額を1000万ドル(約16億円)以上も上回ったのだ。
以下、これまでオークションに出品されたロスコの作品のうち、落札額上位7位から1位までを紹介しよう。
※この記事の初出は2021年、最新の更新は2026年5月18日。日本円は最新更新日の為替レートに基づいて計算。
第7位 《無題》(1952) :6620万ドル(約105億円)
Photo: Christie's
2014年5月、クリスティーズ・ニューヨークのイブニングセールで、ロスコの《無題》(1962)が、4000万ドル(約63億円)の予想落札価格を大幅に上回る6620万ドル(約105億円)で落札された。高さ約260cmで、紫、オレンジ、エンジの色調が特徴的なこの絵画は、クリスティーズのアジア担当スペシャリスト、シン・リーが担当していた顧客が電話入札で落札した。そのわずか数日後、マイクロソフトの共同創業者、故ポール・アレンがフィリップスのオークションに1955年の別のロスコ作品(青とオレンジの配色)を出品。こちらは5620万ドル(約89億円)で落札された。
第6位 《White centre (Yello, pink and lavender on rose)》(1950):7280万ドル(約115億円)
Photo: AP Photos
《White centre (Yellow, pink and lavender on rose)(センターの白 [バラ色の上に黄、ピンク、ラベンダー色] )》(1950)は、2007年5月にサザビーズ のオークションで7280万ドル(約115億円)で落札された。この作品を50年近く所有していたデイヴィッド・ロックフェラーは、1960年にニューヨークのシドニー・ジャニス・ギャラリーから1万ドル未満でこの作品を購入したが、当時の存命アーティストの作品としては決して安くない金額だった。その翌年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でロスコの回顧展が開かれ、抽象表現主義を代表する画家としての地位が確立された。
高さおよそ198cmのこの作品を手に入れたのは、カタール 前首長のシェイク・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーとその妻モーザ・ビン・ナーセル・アル=ミスナドだった。晩年の深みのある色調の作品とは異なり、《White centre (Yellow, pink and lavender on rose)》はより鮮やかな配色で、画面は初期の作品によく見られる水平の帯で区切られている。
第5位 《No. 1 (Royal Red and Blue)》(1954):7510万ドル(約119億円)
Photo: Sotheby's
2012年11月、《No. 1 (Royal Red and Blue)(No. 1 [ロイヤルレッド&ブルー] )》(1954)は、サザビーズ・ニューヨークのイブニングセールで、3500万ドル(約55億)の事前予想を大幅に上回る7510万ドル(約119億円)で落札された。この作品は、1954年にシカゴ美術館で開催された個展のためにロスコ自身が選んだ8点のうちの1点で、歴代の所有者には著名アートディーラーのリチャード・フェイゲンや、ニューヨークのコレクター、ベン・ヘラーがいる。
第4位 《No. 10》(1958):8190万ドル(約129億円)
Photo: Christie's
《No. 10》(1958)は、2015年5月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された戦後・現代美術のイブニングセールで、手数料込み8190万ドル(約129億円)で落札された。シーグラム・ビルのコミッション作品だったこの絵は、黒い背景の上に浮かび上がる濃いオレンジ色が光輪に包まれているような効果を生み出している。1950年代後半、ロスコは初期の作品に見られた明るい色調から、より落ち着いた色調へと移行し始めた。これについて評論家のドレ・アシュトンは、「彼はこれらの不吉な予感に満ちた新作で、決して『豪奢、静寂、逸楽』(*1)を描いてはいないと語っているようだった」と書いている。
オークションでは4500万ドル(約71億円)の予想落札価格を上回り、複数の入札者が競り合った末に7300万ドル(約115億円)でハンマーが降ろされた。売り手は匿名のアメリカ人で、1986年にペース・ギャラリーからこの絵を購入していた。
*1 アンリ・マティス の初期の傑作とされる1904年の作品《豪奢、静寂、逸楽》(フランス語ではLuxe, Calme et Volupté)に言及したもの。シャルル・ボードレールの詩『旅への誘い』の有名な一節を引用したタイトル。
第3位 《Brown and Blacks in Reds》(1957):8580万ドル(約136億円)
Photo: Courtesy Sotheby's
《Brown and Blacks in Reds(赤に茶と黒)》(1957)は、2026年5月14日にサザビーズ・ニューヨークで8580万ドル(約136億円)で落札され、このシーズンにニューヨークで出品された中で最も高額な作品の1つとなった。その時点での最高記録にはわずかに及ばなかったものの、期待を裏切らない結果を出している。
金融業界からアートディーラーに転身し、アッパー・イースト・サイドに自身の名を冠したギャラリーを設立したロバート・ムニューシンは、2025年に死去している。ムニューシンのコレクションから出品されたこの絵は、シドニー・ジャニス・ギャラリーで初公開され、その後ジョセフ・E・シーグラム&サンズ社の所蔵品となってマンハッタンの本社ロビーに飾られた。2003年にはシーグラムを2001年に買収したフランス のコングロマリット、ビベンディがクリスティーズのオークションに出品。それを670万ドル(約11億円)で落札したのがムニューシンだった。当時からすると、この作品の価値は12倍以上になっている。
第2位 《Orange, red, yellow》(1961):8690万ドル(約137億円)
Photo: Christie's
《Orange, red, yellow(オレンジ、赤、黄)》(1961)は2012年5月にクリスティーズ・ニューヨークで、予想最高価格の4500万ドル(約71億円)を大幅に上回る8690万ドル(約137億円)で落札された。これは公開市場における戦後作品の最高落札価格を更新するもので、2008年にサザビーズでフランシス・ベーコンの三連作が記録した8630万ドル(約136億円)をわずかに上回った。
この作品はジャクソン・ポロック 、ウィレム・デ・クーニング 、クリフォード・スティルなど、ロスコと同時代の作家とともに、フィラデルフィア出身の衣料品メーカー経営者デイヴィッド・ピンカスのコレクションから出品されている。同コレクションの落札総額1億7490万ドル(約276億円)のうち、約半分がロスコ作品によるものだった。ピンカスは1967年、《Orange, red, yellow》をローンを組んでマールボロ・ギャラリーから購入し、40年以上にわたって所有していた。
第1位 《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》(1964):9800万ドル(約155億円)
Photo: Christie's Images Ltd. 2026
《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)(No.15 [2つの緑と赤のストライプ] )》は、2026年5月にニューヨークで行われたオークション で注目を集めた2点目のロスコ作品で、最終的にこちらがロスコの史上最高記録を塗り替えた。赤と黒の長方形の上にある濃い緑色の正方形が、まるで浮遊しているように描かれたこの絵は、ロスコのカラーフィールド・ペインティングを代表するものと言える。
落札額9800万ドル(約155億円)の《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》を所有していたのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)元館長で、慈善家・アートパトロンとして敬愛されたアグネス・ガンドだ。ガンドはロスコが自殺する3年前の1967年に本人からこの作品を直接購入し、2025年に亡くなるまで自宅のリビングルームに飾っていた。(翻訳:清水玲奈)
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モネの名作、高額落札トップ12──印象派の最高額に君臨するのはどの作品?
数々の
印象派 の名作の中でも、
モネ の作品は近年市場での評価がさらに高まっている。これまでに開催された
オークション でアート業界を大いに沸かせたモネ作品から、高額落札トップ12を紹介する。
12. 《プティット=ダルにて》(1884):768万ドル(現在の為替で約12億2000万円、以下同)
モネがノルマンディー滞在中に描いた《プティット=ダルにて》(1884)には、フェカンとヴレット=シュル=メールを結ぶ小道が、陽光に照らされた丘の中腹に延びている様子が描かれている。この場所はモネが少年時代を過ごした土地の近郊にあたり、彼にとっては特に愛着のある風景だった。
2025年6月24日、本作はロンドンのサザビーズで予想を超える768万ドル(約12億2000万円)で落札された。これは、2000年にサザビーズ・ニューヨークで記録した225万ドル(約3億6000万円)を大きく上回り、キャリア初期の海岸風景画の最高額を更新した。他の有名シリーズと比べれば金額は控えめだが、モネの作品全体に対する評価の高まりを強く印象付けると同時に、ジヴェルニーや睡蓮を描いた人気シリーズ以外への関心の広がりを後押しするような結果だ。
Photo: Sotheby’s
11. 《レ・プティット=ダルの干潮》(1884):990万ドル(約15億7000万円)
モネが1884年にノルマンディー沿岸をめぐる旅の途中に描いた《レ・プティット=ダルの干潮》には、この地の雄大な断崖が鮮やかな光と繊細な空気感の中で捉えられている。戸外制作された本作は、そそり立つ岩壁と広い砂浜が織りなす劇的な景観を描いた連作の1点で、最初の所有者だったチャールズ・T・ヤーキスは、作品の完成直後に画商のポール・デュラン=リュエルからこれを入手した。
2016年5月9日、ニューヨークのサザビーズで開催された「印象派・近代美術イブニングセール」に熱気と興奮をもたらしたのは、この《レ・プティット=ダルの干潮》(1884)だった。ロット番号84として出品されたこの絵は、2分間にわたる白熱した入札合戦の末、500万ドル(約7億9000万円)の予想最高額の2倍となる990万ドル(約15億7000万円)で落札されている。モネが海岸を題材としたもので、確かな来歴と強い視覚的インパクトのある作品に対する関心が高まっていることを反映した落札結果だと言える。
Photo: Sotheby’s
10. 《ジヴェルニーの積みわら》(1893):3480万ドル(約55億1000万円)
《ジヴェルニーの積みわら》(1893)でモネは、木立に囲まれた野原に積み上げられた干し草の山を描いている。その特徴は、黄金色の陽光と幾重にも重ねられた筆致だ。アメリカの風景画家ドワイト・ブレイニーの個人コレクションに収められていた本作は、2024年5月15日にサザビーズ・ニューヨークのオークションに出品され、8分間の入札合戦の末、3480万ドル(約55億1000万円)で落札された。
「積みわら」シリーズの後期作品として高く評価される《ジヴェルニーの積みわら》のオークション結果は、光と形をいかに表現するかを弛まず試行し続けたモネに対するコレクターの敬意がさらに高まっていることを感じさせる。このシリーズへの根強い需要は、作品の奥深さと希少性、そしてシリーズの一貫性が大きな付加価値となることを示している。
Photo: Sotheby’s
9. 《アルジャントゥイユの鉄道橋》(1873-74):4140万ドル(約65億6000万円)
モネが産業の近代化を観察し始めた初期の試みを目にすることができる《アルジャントゥイユの鉄道橋》(1873-74)は、セーヌ川に架かる鉄道橋の印象的な風景を捉えた作品だ。通り過ぎる列車から立ち上る煙が上空の雲に溶け込み、橋の下では川面を静かに進む小さなヨットの白い帆が明るい陽光を浴びている。モネは鉄橋のがっしりした構造と水面の繊細な反射の間で巧みにバランスを取り、調和の取れた情景として産業と自然を絵の中で融合させた。
この作品は、2008年5月6日にクリスティーズ・ニューヨークで4140万ドル(約65億6000万円)で落札され、モネの「アルジャントゥイユ」シリーズの最高額を記録した。光きらめく印象派のスタイルを保ちつつ、当時の最先端の暮らしを伝えるモネの卓越した才能が示されている。
Photo : Christie’s
8. 《エプト川沿いのポプラ並木、夕暮れ》(1891):4296万ドル(約68億円)
モネの代表的な連作の1つ、「ポプラ」シリーズの《エプト川沿いのポプラ並木、夕暮れ》(1891)は、夕暮れの光の中、垂直に伸びたポプラの木が並ぶ味わい深い風景を描いた作品だ。2025年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで出品され、推定価格3000万~5000万ドル(約47億5000万〜79億2000万円)のところ、4296万ドル(約68億円)で落札された。この作品は、1892年から1955年までフランスの美術商ポール・デュラン=リュエルとその子孫が所有し、30年以上にわたりボストン美術館で展示されていた。こうした由緒正しい来歴に加え、抑制の効いた抽象性と深みのある雰囲気が評論家から高く評価されたことが活発な競り合いにつながっている。
クリスティーズ・ニューヨークの印象派・近代美術部門責任者のヴァネッサ・フスコは本作について、「暖色と落ち着いた寒色が印象的に織り交ぜられ、夕日の輝きが夕暮れへと移り変わる瞬間を捉えたこの作品は、モネの最高傑作と言えるでしょう」と評している。このオークションでの落札価格は、モネの「ポプラ」シリーズ作品の市場価値の高さを裏付けるもので、優れた来歴と芸術的希少性を兼ね備え、テーマを絞った連作が目覚ましい成果を上げ得ることを証明した。
Photo: Christie’s
7. 《睡蓮》(1906):5400万ドル(約85億6000万円)
2014年6月23日、1906年に制作されたモネの《睡蓮》がサザビーズ・ロンドンに出品され、5400万ドル(約85億6000万円)で落札された。印象派を育てた画商として知られるポール・デュラン=リュエルのコレクションに収められていた作品で、さざ波の立つ水面に睡蓮の葉が浮かぶジヴェルニーの池の穏やかな情景が描かれている。
柔らかな緑と紫が繊細な層となって溶け合う様子は移ろいゆく光と静かな時の流れを表し、空や木々が映る水面のきらめきが静謐で瞑想的な空間を感じさせる。「睡蓮」シリーズの中でも特に洗練された本作は、モネが抱く自然への深い思いと、その中の一瞬を捉える類い稀な才能を明確に示している。
Photo: Sotheby’s
6. 《大運河とサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》(1908):5663万ドル(約89億7000万円)
2022年5月17日に、サザビーズ・ニューヨークで5663万ドル(約89億7000万円)で落札された《大運河とサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》(1908)は、ヴェネチアの光り輝く水路を荘厳な美しさで表現している。モネによる数少ないヴェネチアの風景画は、変化していく光とそれが与える印象を描き出す卓越した技量を象徴するものだ。
生涯でただ一度のヴェネチア旅行でモネが描いたこの絵には、きらめく運河の向こうにそびえ立つ壮麗な聖堂、黄金色の光と淡い霧によって柔らかな印象を与えるドーム、水面の穏やかな波紋に揺れる建物の影や空などが見える。そして、流れるような筆致が、情景に夢のような趣を与えている。
Photo: Sotheby’s
5. 《睡蓮》(1914-17年頃):6550万ドル(約103億8000万円)
モネが晩年の円熟期に制作した《睡蓮》(1914-17年頃)は、2024年11月18日、サザビーズ・ニューヨークのオークションで世界中の入札者による17分間の激しい競り合いを引き起こし、6550万ドル(約103億8000万円)で落札された。印象派の作品でありながら、オークションで競り合ったのは、現代美術のトレンドを牽引するコレクターたちだった。
アメリカ美容業界の大物、シデル・ミラーの遺品から出品されたこの大型作品は、抽象に向かっていくモネの作風を体現し、流れるような筆づかいで描かれた画面では睡蓮と池の境界が溶けていくように見える。このオークション結果は、印象派と抽象美術の架け橋となる晩年の作品への需要を裏付けるものと言えるだろう。
Photo: Sotheby’s
4. 《睡蓮》(1919):8045万ドル(約127億5000万円)
睡蓮の池を描くモネの意欲的な構想は、《睡蓮》(1919)で壮大なスケールに達した。第1次世界大戦が終わって間もない時期に描かれたこの大作は、ジヴェルニーのモネの庭にある静かな池へと見る者を誘う。柔らかな青と緑にピンクや白のアクセントが溶け合った、100cm × 200cmを超える画面に捉えらえているのは、水面に浮かぶ花々の繊細さだ。そこには木々や空が水に映るきらめきが波紋のように優しく広がり、穏やかで夢のような雰囲気が漂っている。そして、何度も重ねられた筆致と微妙な色彩の変化が、安らかな瞑想の感覚を呼び起こす。
本作は2008年6月24日に、クリスティーズ・ロンドンで8045万ドル(約127億5000万円)で落札された。史上を驚かせた落札価格は、モネの晩年の作品に対する人気の高まりを反映するもので、名高い「睡蓮」シリーズの作品がさらに多くのコレクターにとって垂涎の的となるきっかけとなった。
Phot : Christie’s
3. 《積みわら》(1891):8145万ドル(約129億円)
2016年11月16日、クリスティーズ・ニューヨークのオークションにモネの《積みわら》(1891)が出品された。長く個人コレクションに所蔵され、数十年間にわたり一般公開されていなかったこともあって、入札競争は熾烈を極め、最終的に8145万ドル(約129億円)で落札されている。
当時、この作品がモネの史上最高額を樹立したことは、重要な転換点となった。それ以降、モネの中では比較的な地味な位置付けにあった田園の風景画が、他の壮麗な作品と肩を並べる評価をコレクターから受けるようになったからだ。冬に描かれたこの作品には、雪に覆われた周囲の風景の中で輝く干草の山の温かみが捉えられ、季節や空気感の変化を描写することへのモネのこだわりが感じられる。
Photo: Christie’s
2. 《Nymphéas en fleur(花ざかりの睡蓮)》(1914-17年頃):8470万ドル(約134億2000万円)
鮮やかなピンク、緑、青が特徴的な《Nymphéas en fleur(花ざかりの睡蓮)》(1914-17年頃)は、ペギー&デイヴィッド・ロックフェラー夫妻が所蔵していた色彩豊かな作品だ。2018年5月8日に行われたクリスティーズ・ニューヨークのオークションでは、激しい入札合戦の末に8470万ドル(約134億2000万円)で落札された。当時はモネの史上最高額を更新するものだったが、翌年、記録はさらに塗り替えられている。
緩やかな筆づかいと抽象的とも言える構図は近代の抽象絵画に先駆けるもので、モネが晩年に試みた形態と色彩の探求の奥深さが見て取れる。主要美術館での展示歴を含む本作品の来歴も市場における魅力をさらに高める要因で、高額落札は晩年のモネが残した革新的作品に対するコレクターの関心が高まっていることを裏付けた。
Photo: Christie’s
1. 《積みわら》(1890):1億1070万ドル(約175億4000万円)
2019年5月15日に、サザビーズ・ニューヨークで1億1070万ドル(約175億4000万円)もの高額を付け、印象派作品の最高額を樹立成した《積みわら》(1890)は、同シリーズの中でも特に有名な作品の1つだ。その画面は紫や燃えるようなオレンジ、柔らかなピンク色の重なりに包み込まれている。モネの流麗かつ精緻な筆致は、移ろいゆく光にきらめく大気を感じさせ、素朴な田園風景を豊かな色彩の雰囲気ある作品へと昇華させた。
夏の終わりの夕暮れ時、薄れゆく光の中で輝く干し草の山を描いたこの絵を1892年に購入した最初の所有者は、シカゴの著名コレクターで慈善家のバーサ・オノレ・パーマーだった。同じモチーフを、異なる時間帯やさまざまな天候の下で描いた25の連作の1点である本作は、1986年のオークションでは250万ドル(約4億円)で落札されていた。これは、33年後の記録的落札額につながる結果だったと言えるだろう。
Photo: Sotheby’s
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