マーク・ロスコの高額落札作品トップ7──オークションを沸かせた名作を振り返る

抽象表現主義を代表するマーク・ロスコの作品2点が、2026年5月のオークションシーズンに史上1位と3位の金額で相次いで落札された。瞑想的な空間を生み出す色彩とフォルムで人気の高いロスコ絵画の中から、オークション記録を樹立した象徴的な7作品を紹介する。

マーク・ロスコ《Orange, Red, Yellow》(1956) Photo: AP Photo/Alastair Grant

マーク・ロスコの抽象画の特徴は、空中にぼんやり浮かんでいるような長方形のフォルムと、薄塗りで何度も重ねられた色彩だ。これを評論家や美術史家は、形而上学的な示唆に富むものとして評価してきた。こうした形式的要素を用いてカンバスに壮大な意味を吹き込んだロスコは、自身の作品は「悲劇、恍惚、破滅」など、人間の根源的な感情を表現していると語っている。

ロシア帝国(現在のラトビア)で生まれ、少年時代にアメリカに移住したロスコは、美術界の権威を軽蔑する態度を示し、アート市場のエリート層との関わりを拒んだ。それでも彼の作品は、長年にわたって世界各国の裕福なパトロンを惹きつけている。

1950年代後半、ロスコは酒造メーカーから始まったシーグラム社の創業家、ブロンフマン家の依頼でマンハッタンのシーグラム・ビルディング内にある高級レストラン、フォーシーズンズのために深紅の壁画シリーズを制作した。レストランが超富裕層向けであることを嫌ったロスコは最終的に契約を破棄したが、このシリーズで制作された「シーグラム壁画」30点は、彼のキャリアで最も有名な作品群の1つとなった。それらは現在、ロンドンテート・モダン、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー、日本のDIC川村記念美術館に分散して所蔵されている。

60年代にはテキサス州の大コレクター、ドミニク&ジョン・ド・メニル夫妻がロスコに14点の大型壁画の制作を依頼。抽象表現主義の巨匠ロスコによる最晩年の作品は、ヒューストンにあるロスコ・チャペルを飾っている。広く愛されてきたこのチャペルは、3000万ドル(最近の為替レートで約47億円、以下同)を投じた改修を経て、開館50年目の2021年に再オープンした。さらに2024年、4200万ドル(約66億万円)をかけた拡張工事が開始されている。

当時も今も、ロスコの作品は市場における最高レベルの価格で取引されている。たとえば2026年5月、大物ディーラーの故ロバート・ムニューシンが所蔵していた《Brown and Blacks in Reds》(1957)がニューヨークのサザビーズに出品された際には、7000万~1億ドル(約111億〜158億円)の予想落札額が付けられた。結果、その時点でのロスコのオークション最高記録にはわずかに及ばなかったものの、手数料込みで8580万ドル(約136億円)を記録している。

そしてそのわずか数日後、ニューヨーク近代美術館(MoMA)元館長の故アグネス・ガンドが所有していた別のロスコ作品が、ムニューシンの旧蔵品が達成できなかったことを実現した。クリスティーズ・ニューヨークで9800万ドル(約155億円)で落札され、ロスコ作品のこれまでの最高落札額を1000万ドル(約16億円)以上も上回ったのだ。

以下、これまでオークションに出品されたロスコの作品のうち、落札額上位7位から1位までを紹介しよう。

※この記事の初出は2021年、最新の更新は2026年5月18日。日本円は最新更新日の為替レートに基づいて計算。

第7位 《無題》(1952)6620万ドル(約105億円)

Photo: Christie's

2014年5月、クリスティーズ・ニューヨークのイブニングセールで、ロスコの《無題》(1962)が、4000万ドル(約63億円)の予想落札価格を大幅に上回る6620万ドル(約105億円)で落札された。高さ約260cmで、紫、オレンジ、エンジの色調が特徴的なこの絵画は、クリスティーズのアジア担当スペシャリスト、シン・リーが担当していた顧客が電話入札で落札した。そのわずか数日後、マイクロソフトの共同創業者、故ポール・アレンがフィリップスのオークションに1955年の別のロスコ作品(青とオレンジの配色)を出品。こちらは5620万ドル(約89億円)で落札された。

第6位 《White centre (Yello, pink and lavender on rose)》(1950):7280万ドル(約115億円)

Photo: AP Photos

《White centre (Yellow, pink and lavender on rose)(センターの白 [バラ色の上に黄、ピンク、ラベンダー色] )》(1950)は、2007年5月にサザビーズのオークションで7280万ドル(約115億円)で落札された。この作品を50年近く所有していたデイヴィッド・ロックフェラーは、1960年にニューヨークのシドニー・ジャニス・ギャラリーから1万ドル未満でこの作品を購入したが、当時の存命アーティストの作品としては決して安くない金額だった。その翌年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)でロスコの回顧展が開かれ、抽象表現主義を代表する画家としての地位が確立された。

高さおよそ198cmのこの作品を手に入れたのは、カタール前首長のシェイク・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーとその妻モーザ・ビン・ナーセル・アル=ミスナドだった。晩年の深みのある色調の作品とは異なり、《White centre (Yellow, pink and lavender on rose)》はより鮮やかな配色で、画面は初期の作品によく見られる水平の帯で区切られている。

第5位 《No. 1 (Royal Red and Blue)》(1954):7510万ドル(約119億円)

Photo: Sotheby's

2012年11月、《No. 1 (Royal Red and Blue)(No. 1 [ロイヤルレッド&ブルー] )》(1954)は、サザビーズ・ニューヨークのイブニングセールで、3500万ドル(約55億)の事前予想を大幅に上回る7510万ドル(約119億円)で落札された。この作品は、1954年にシカゴ美術館で開催された個展のためにロスコ自身が選んだ8点のうちの1点で、歴代の所有者には著名アートディーラーのリチャード・フェイゲンや、ニューヨークのコレクター、ベン・ヘラーがいる。

第4位 《No. 10》(1958):8190万ドル(約129億円)

Photo: Christie's

《No. 10》(1958)は、2015年5月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された戦後・現代美術のイブニングセールで、手数料込み8190万ドル(約129億円)で落札された。シーグラム・ビルのコミッション作品だったこの絵は、黒い背景の上に浮かび上がる濃いオレンジ色が光輪に包まれているような効果を生み出している。1950年代後半、ロスコは初期の作品に見られた明るい色調から、より落ち着いた色調へと移行し始めた。これについて評論家のドレ・アシュトンは、「彼はこれらの不吉な予感に満ちた新作で、決して『豪奢、静寂、逸楽』(*1)を描いてはいないと語っているようだった」と書いている。

オークションでは4500万ドル(約71億円)の予想落札価格を上回り、複数の入札者が競り合った末に7300万ドル(約115億円)でハンマーが降ろされた。売り手は匿名のアメリカ人で、1986年にペース・ギャラリーからこの絵を購入していた。

*1 アンリ・マティスの初期の傑作とされる1904年の作品《豪奢、静寂、逸楽》(フランス語ではLuxe, Calme et Volupté)に言及したもの。シャルル・ボードレールの詩『旅への誘い』の有名な一節を引用したタイトル。

第3位 《Brown and Blacks in Reds》(1957):8580万ドル(約136億円)

Photo: Courtesy Sotheby's

《Brown and Blacks in Reds(赤に茶と黒)》(1957)は、2026年5月14日にサザビーズ・ニューヨークで8580万ドル(約136億円)で落札され、このシーズンにニューヨークで出品された中で最も高額な作品の1つとなった。その時点での最高記録にはわずかに及ばなかったものの、期待を裏切らない結果を出している。

金融業界からアートディーラーに転身し、アッパー・イースト・サイドに自身の名を冠したギャラリーを設立したロバート・ムニューシンは、2025年に死去している。ムニューシンのコレクションから出品されたこの絵は、シドニー・ジャニス・ギャラリーで初公開され、その後ジョセフ・E・シーグラム&サンズ社の所蔵品となってマンハッタンの本社ロビーに飾られた。2003年にはシーグラムを2001年に買収したフランスのコングロマリット、ビベンディがクリスティーズのオークションに出品。それを670万ドル(約11億円)で落札したのがムニューシンだった。当時からすると、この作品の価値は12倍以上になっている。

第2位 《Orange, red, yellow》(1961):8690万ドル(約137億円)

Photo: Christie's

《Orange, red, yellow(オレンジ、赤、黄)》(1961)は2012年5月にクリスティーズ・ニューヨークで、予想最高価格の4500万ドル(約71億円)を大幅に上回る8690万ドル(約137億円)で落札された。これは公開市場における戦後作品の最高落札価格を更新するもので、2008年にサザビーズでフランシス・ベーコンの三連作が記録した8630万ドル(約136億円)をわずかに上回った。

この作品はジャクソン・ポロックウィレム・デ・クーニング、クリフォード・スティルなど、ロスコと同時代の作家とともに、フィラデルフィア出身の衣料品メーカー経営者デイヴィッド・ピンカスのコレクションから出品されている。同コレクションの落札総額1億7490万ドル(約276億円)のうち、約半分がロスコ作品によるものだった。ピンカスは1967年、《Orange, red, yellow》をローンを組んでマールボロ・ギャラリーから購入し、40年以上にわたって所有していた。

第1位 《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》(1964):9800万ドル(約155億円)

Photo: Christie's Images Ltd. 2026

《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)(No.15 [2つの緑と赤のストライプ] )》は、2026年5月にニューヨークで行われたオークションで注目を集めた2点目のロスコ作品で、最終的にこちらがロスコの史上最高記録を塗り替えた。赤と黒の長方形の上にある濃い緑色の正方形が、まるで浮遊しているように描かれたこの絵は、ロスコのカラーフィールド・ペインティングを代表するものと言える。

落札額9800万ドル(約155億円)の《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》を所有していたのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)元館長で、慈善家・アートパトロンとして敬愛されたアグネス・ガンドだ。ガンドはロスコが自殺する3年前の1967年に本人からこの作品を直接購入し、2025年に亡くなるまで自宅のリビングルームに飾っていた。(翻訳:清水玲奈)

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