財政難の美術大学にエヌビディアCEOが32億円超の巨額寄付。入学者減少が経営悪化の要因に

入学者数の大幅な減少で財政難に陥ったサンフランシスコの美術大学に、世界トップクラスの時価総額を誇る米半導体大手エヌビディアのCEO、ジェンスン・フアンが、2200万ドル(約32億5000万円)にのぼる巨額寄付を行った。

サンフランシスコのミネソタ・ストリート・プロジェクトでインスタレーションの準備を行うカリフォルニア・カレッジ・オブ・アートの参加者。Photo: San Francisco Chronicle via Getty

サンフランシスコで120年近い歴史を持つ美術大学、カリフォルニア・カレッジ・オブ・ジ・アート(CCA)は、入学者数の大幅な減少で深刻な財政難に陥り、資金調達に奔走していた。それに応じたエヌビディア共同創業者兼CEOのジェンスン・フアンは、妻とともに設立した財団から資金を提供。同校は短期的には危機を脱した形だ。

今回の資金調達に際し、ジェンスン&ロリ・フアン財団はマッチングギフト(*1)での援助を実施。CCAの理事や元役員、卒業生を含む50人以上の寄付者から集まった2250万ドル(直近の為替レートで約33億2500万円、以下同)と同等額を提供し、財政支援の総額は4500万ドル(約66億5000万円)に達した。

*1 企業や団体が寄せられた金額に対し、同額(あるいは一定の割合)を上乗せして拠出すること。

CCAでは、2019年から入学者数が減少し続けていることが2000万ドルの予算不足につながったという。2019年に1800人だった入学者数は2023年秋には1400人となり、今秋には1250人にまで減少すると予想されている。そのため、同校は職員の10%に当たる23人の人員を削減したほか、欠員となっていたポジションの4.5%を廃止した。

人員整理と時を同じくして、CCAは元教員のJ・D・ベルトランが不当解雇を訴えた訴訟で和解案に同意。同校のずさんな経営を暴露したベルトランは、アート・アンド・パブリック・ライフ・センター関連で約18万ドル(約2660万円)の使途不明金があったと主張していた。

そうしたごたごたの一方で、CCAが進めていたキャンパスの拡張工事が完成を見ている。1億2300万ドル(約182億円)を投じ、著名建築事務所のスタジオ・ギャングに設計を依頼したこのプロジェクトでは、スタジオ、教室、展示スペースを合わせ、キャンパスの面積が約7600平方メートル広がった。

CCAは、シリコンバレーなどハイテク企業が集中するエリアが近いにもかかわらず、役員会のテック業界関係者はわずか2人で、中心となっているのは金融大手のメリルリンチおよび医療保険大手カイザー・パーマネンテの関係者だ。また、同校の経営予算7500万ドル(約111億円)のうち85%を授業料や寮費に依存しているという偏った状況にあり、4000万ドル(約59億円)の基金から運営費として捻出されるのは、年間わずか200万ドル(3億円)にすぎない。

しかし、こうした財政的苦境にある美術教育機関はCCAだけではない。サンフランシスコ・アート・インスティテュートは2023年に破産を申請し、フィラデルフィアにあるペンシルバニア芸術アカデミーとペンシルバニア芸術大学も閉校を発表している。近年MFA(芸術修士)に進む学生はアメリカ全体で増加してきたものの、ここ数年間は減少に転じている。

CCAのデビッド・ハウズ学長は、ジェンスン・フアンからの寄付を「変革のマイルストーン」と表現し、この資金が長期的な財務状況を解決するものではないことを強調した。CCAは現在、より多くの学生を惹きつけ、持続可能性のある運営を実現するために、授業内容や教員構成、学校としてのインフラ強化のための追加資金獲得に動いている。(翻訳:石井佳子)

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