ギリシャの極右議員が国立美術館の展示作品を破壊。「神を冒涜した」と主張
ギリシャの国立美術館に展示されていたイエス・キリストや聖母マリアを描いた作品が、同国の国会議員によって破壊された。「神を冒涜する作品を展示する権利は美術館に与えられていない」ことから犯行に及んだと議員は語っており、一時的に拘束されたが、現在は釈放されている。

ギリシャの極右政党、民主愛国運動「勝利」の党員で国会議員のニコラオス・パパドプロスが、同国の国立美術館で開催されているグループ展「The Allure of the Bizarre」に展示されていた「キリスト教に対して冒涜的」な作品の撤去を求める書簡を送った数日後に館内に押し入り、ギリシャ人アーティストのクリストフォロス・カツァディオティスによる作品を破壊したとHyperallergicが報じた。
美術館の発表によれば、パパドプロスは別の人物の助けを借りて、3月10日の午前中に中2階の展示室に侵入し、聖クリストファー、聖ゲルギオス、聖母マリア、そして、イエス・キリストを描いたカツァディオティスのエッチング作品を壁から取り外した。だが作品を壁から取り外した際に二つの作品が滑り落ち、保護ガラスが割れてしまったという。パパドプロスはアートメディア、Hyperallergicの取材に対してこう語る。
「公共機関として、冒涜や不敬、そして脱キリスト教を促すような作品を展示する許可は、国立美術館に与えられていません」
パパドプロスは、国立美術館に対して3月6日に書簡を送付しており、展示が撤去されなかった場合には法的措置をとると脅した上で、同展覧会は「ギリシャ正教の納税者」の出費によって実現したものだと主張していた。
パパドプロスは美術館での破壊行為に及んだ後に一時的に拘束され、取り調べを受けた。だが彼はこれについて、国会議員は事前許可無く訴追、逮捕、禁固、またはその他の拘束を受けることはないと主張し、違法に拘束されたとXに投稿している。地元メディアの報道によると、パパドプロスが行った破壊行為は財産損壊による軽犯罪として、現在は釈放されたという。
今回パパドプロスの攻撃を受けた美術館側は、次のような声明を発表して抗議した。
「私たちは、あらゆる破壊行為や暴力、そしてギリシャ共和国憲法に定められた芸術表現の自由を脅かそうとする検閲を断固として非難します」
そして、作品が攻撃されたカツァディオティスは次のような声明を発表した。
「アーティストは個人的な視点を表現し、世間を取り巻く事象に反応する権利をもっています。これにより、特定の神の名のもとに純粋さや正義を理由として行われる戦争など、アーティストたちが疑問に思うことを作品を通じて問いかけられるのです。宗教はしばしば信者を忠実な追随者か無法者に分類します。宗教に従わず服従しないものは裁かれ、永遠の地獄に追放されると警告することは、明らかな脅迫だと言えるでしょう」
芸術作品に対するこうした破壊行為は近年増えており、昨年4月には聖ロンギヌスがキリストにオーラル・セックスをしている様子を描いたイタリア人アーティスト・アンドレア・サルティーニの絵画が切り裂かれる事件が発生した。また、同年7月にはオーストリアの大聖堂で信仰における女性の役割を探求する展覧会に展示されていた、イエス・キリストを出産する聖母マリアの木製彫刻の首が切断されている。