美大卒でない自称アーティストは「部外者」? 上司をうまく「密告」する方法【認めたくない真実:アート業界のお悩み相談室】

読者のアートにまつわるお悩みや質問に、ニューヨークの敏腕アートコンサルタント、Chen & Lampert(チェン&ランパート)の2人が答えるUS版の人気企画。今回はアート界との距離の取り方に疑問を持つアーティストと、上司の行いを組合に告げるべきか迷っている美術館職員のお悩みを取り上げる。

Illustration: Pamela Guest

質問1:アート界での野心がなくてもキャリアアップのための努力をすべき?

私は美術大学で学んでいませんが、自分をアーティストだと思っています。我を忘れて絵を描いたり彫刻をつくったりしているときほど、心が満たされることはありません。応援してくれる友人や家族からは、ギャラリーや美術館で作品を見せるべきだと言われますが、美術専門誌やアート系のウェブサイトを見れば、そう簡単にはいかないことが分かります。発表の機会を増やしたいとは思いますが、アート界で成功したいという野心がないのです。私の作品は独特ですが、だからと言って「部外者」のような言われ方をされたくありません。自分ではそう思っていませんから。なぜみんな、アーティストとして認められるためには体制の内部にいなければならないと考えるのでしょう? 制作に情熱を注ぐだけでなく、自分のキャリアを伸ばす努力をもっとすべきなのでしょうか?

このお悩み相談室では、質問には2段落から3段落で回答するというテンプレートがありますし、単にひとこと「ノー」と言って次の質問に移ると風水的にもよくなさそうです。なので、答え(もちろん「ノー」です)の代わりにアートに特化したマントラ(真言)を用意しました。誰かから仕事や人生に口出しされてイラッとしたら、以下で紹介する真言を唱えてください。きっと心を落ち着かせることができるでしょう。中には、相手に言い返すための気の利いたセリフとして使えるものもあるので一石二鳥です。

  • 私はアーティストだ。こんちくしょうめ。
  • くそったれ、私はアーティストだ。
  • 余計なお世話、私はアーティストだから。
  • 私の作品を好きでなくても、スタイルを気に入ることはできる。
  • 私にとって最も手厳しい批評家は自分自身だ。他人など必要ない。
  • 私のアートに敬意を払わないなら消えてくれ。
  • 私の作品は減価でなく評価されるべき。
  • 私の制作スタイルは自分ファースト、あなたの評価は二の次。
  • 私は私の作品の最高のコレクター。
  • 私の居場所は「アート市場」ではない。
  • 私のアートは私の体、気安く意見して手を触れるな。
  • コンセプチュアル・アート、名もなき存在。
  • 生きるために彫り、彫るために生きる。
  • 皮肉屋は黙らせ、アクリルで塗りつぶせ。
  • アーティストなら警笛を鳴らせ(クラクションの音を真似る)。

質問2:労働者の権利を蔑ろにする上司のことを組合に報告すべき?

私はある美術館で幹部職員のアシスタントをしています。職場では2年前に労働組合が結成されましたが、幹部である私の上司は組合員ではありません。彼はとても感じがよい人なので、毎日楽しく働くことができています。その一方でこの上司は、私たち組合員が長い交渉の末に勝ち取った権利を蔑ろにしているのです。実際、彼が契約に反する決定をするところを何度も目撃しました。組合の代表者に伝えなければと思うのですが、そうすれば職場の和やかな雰囲気が壊れてしまうでしょう。それに、スパイみたいにコソコソするのも気が進みません。上司のことを報告すべきでしょうか?

歯を剥き出しにしたネズミの置物を買ってきて、上司のデスクの上に置きましょう。なぜそんなものがそこにあるのかと尋ねられたら、驚いた顔をして何も知らないふりをしてください。そして、「そういえば最近オフィス内で、差別的な解雇で生じた欠員が非組合員で補われたことについて話題になっています。それと関係しているのかも」と言うのです。1週間後、今度は上司の机の横に大きなネズミのぬいぐるみを置きましょう。彼がそれを発見したら、あなたもショックを受けたふりをしてください。そして、「トイレで個室にこもっていたら、何人かがトイレに入ってきて給与格差について愚痴を言ってましたよ」と言って、あなたが味方であるようにアピールするのです。それでも上司が改心しない場合は、デモ隊を手配して、会社の前の歩道に巨大なネズミのバルーン「スキャビー」(*1)を置いてもらいましょう。この方法なら直接衝突を回避でき、あなたが危険な立場に立たされたりすることもありません。人事部も結局は雇用主側の味方。人目を引くよう派手に騒ぎ立てる方が、人事に密告するよりもはるかに効果的です。(翻訳:野澤朋代)


*1 アメリカで労働組合が抗議の印として企業の拠点の前に置く巨大なネズミのバルーン。腹部には大きなかさぶた(英語でscab)があることから「スキャビー」と呼ばれる。ちなみに、「scab」には「スト破り」という意味もある。

*このコーナーへ相談したい人は、以下のメールアドレスまでご連絡を(英語のみ)。
[email protected]

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