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  • 2024.10.07

97歳の「知られざる画家」が人気上昇。オークションでは予想の5倍で落札、再評価ぶりを裏付け

近年人気が急上昇している97歳の画家ロイス・ドッドの作品が、クリスティーズオークションでまたもや予想落札価格を大幅に上回る結果を出した。この作家に対する再評価の動きを、ギャラリーやオークションハウスに取材した。

クリスティーズのオークションで最高予想価格の5倍近い値が付いたロイス・ドッドの《Reflection of the Barn》(1971)。Photo: Courtesy Christie's

10月1日に行われたクリスティーズの戦後・現代アートセールで、最初に登場したのが97歳の画家ロイス・ドッドの繊細かつ魅力的な作品《Reflection of the Barn(窓に映る納屋)》(1971)だ。額縁の中に額縁が重なっているように見えるこの絵に描かれているのは、薄手の白いカーテンがかかった窓。青い空に浮かぶ白い雲と、窓枠の境目で少しずれたように見える納屋がマグリットを思わせる。

予想落札価格は6万から8万ドル(直近の為替レートで約870万〜1160万円、以下同)と控えめな値付けだったが、2人の入札者による競り合いの末、最高予想額の5倍近い37万8000ドル(約5480万円)で決着した(以下、販売価格は全て手数料およびバイヤーズ・プレミアム込み)。ドッドにとっては目覚ましい結果と言えるが、クリスティーズはそれを予想していた節がある。彼女をオークションのトップバッターに据えたのは初めてではないからだ。

今年3月の戦後・現代アートセールでも、ドッドの《Green Door and Bed(緑のドアとベッド)》(1994)がオークションの先陣を切って登場し、今回と同じく約1100万円の最高予想額のところ、23万9400ドル(約3620万円)で落札。これらの2作品はともに、オークションにおけるドッドの最高額を記録した。

ここ数年、ドッド作品の需要は上向きで、特に大型のものに好調さが目立つ。5月にフィリップスで行われたモダン&コンテンポラリー・アート・デイセールでは、《Wild Geraniums(野生のゼラニウム)》(1974)が、やはり6万から8万ドル(約870万〜1160万円)の予想価格を大きく上回る22万8600ドル(約3300万円)で落札。2021年にハインドマン・オークションズが開催した戦後・現代アートセールでは、《Window Reflections, Yellow House(窓の反射、黄色い家)》(2001)が、4000から6000ドル(約58万〜87万円)の予想価格に対し、3万1250ドル(約450万円)の値を付けている。

しかし、所属ギャラリーのアレクサンドルによれば、ドッドが制作する大型作品は毎年ほんの数点だという。同ギャラリーのフィル・アレクサンドルは、US版ARTnewsの取材にこう語った。

「彼女はキャリアのほとんどを、知られざる画家として過ごしてきたのです」

ロイス・ドッド《Green Door and Bed》(1994)

アレクサンドルは2003年からドッドを扱っているが、2年ごとに開催する個展には常に大きな反響があるという。とはいえ、ドッドがかつて所属していたフィッシュバッハ・ギャラリーでは、アレックス・カッツやジェーン・フライリヒャーといったアーティストたちの影に隠れがちだった。ちなみに、ドッドも、カッツやフライリヒャーも、このギャラリーで最初に脚光を浴びている。

アレクサンドルによれば、その一因はドッド自身が市場にほとんど関心がないことだという。

「ドッドの作品は全てが唯一無二のものです。彼女はシリーズを作らず、ある作品が高く売れたからといって、それが別の作品に影響を与えるようなことはありません。本当に、ただ自分のために絵を描いているのです。彼女は、これまで過小評価され、見過ごされてきた女性作家を見直そうという機運に乗っていると言えるでしょう。つまり、ようやく正当な評価を得られるようになったのです。自分のために絵を描くという姿勢には反するかもしれませんが」

ドッドの再評価に寄与した出来事の1つは、昨年春にコネチカット州グリニッジのブルース美術館で行われたた個展、「Lois Dodd: Natural Order(ロイス・ドッド:自然の秩序)」だろう。同展の開催直前には、ニューヨーク・タイムズ紙のアート&デザイン欄でも大きく取り上げられた。

ドッドについて、クリスティーズの戦後・現代アートセールの責任者、ジュリアン・エルリッヒはUS版ARTnewsにこう期待を述べている。

「ドッドはここ数年、価格が上昇しているアーティストの1人ですし、これからも好成績を収めるはずです。それに、オークションで目を見張るような価格が付くたびに、さらに素晴らしい作品が市場に出てきますので今後が楽しみです」

アレクサンドルでドッドの初個展が開かれた2003年、展覧会のカタログに寄せたエッセイで美術評論家・詩人のジョン・ヤウはこう書いていた。

「明白なことを言うのは決して無礼ではありません。つまり、75歳の画家、ロイス・ドッドは、一度も正当な評価を受けていないのです」

どうやら、この文章にはアップデートが必要なようだ。(翻訳:石井佳子)

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