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イタリア・ナポリの地下に2500年前の古代ギリシャの墓所。宇宙線ミュオンを用いた最新測定技術の成果

イタリア・ナポリのにぎやかな街の地下深くに眠る古代ギリシャの墓所が、宇宙線を用いた最新の地下構造イメージングで明らかになった。その存在は以前から知られていたが、確認されたのは初めて。科学ニュースサイトLive Scienceが伝えた。

宇宙線を用いた視覚化技術で古代ギリシャの墓が確認されたナポリのリオーネ・サニタ地区。Photo: Ivan Romano/Getty Images

現在のナポリ周辺の地域には、イタリア半島に初めて建設された古代ギリシャの植民都市クーマエがあった。紀元前650年頃にネオポリス(新しい都市)と呼ばれたこの地は、数々の神殿や広場、複数の地下墓地などを擁する重要な集落だったとされる。

ナポリの地下約10メートルにこうした古代の建造物があるのは分かっていたが、これまでは確認する術がなかった。今回、考古学研究者が紀元前6世紀から3世紀の間に作られたとされる埋葬室を発掘せずに特定することができたのは、ミュオグラフィという最新技術のおかげだ。ミュオグラフィでは、宇宙線に由来する高エネルギーのミュオン(素粒子の一種)が持つ強い透過性を利用して物体の透視撮影を行う。宇宙線とは、宇宙空間を飛び交っている極めて小さな粒子のことをいい、地球の大気に衝突した宇宙線は大量の粒子となって地表に降り注いでいる。

地下にある墓所の測定にあたっては、ミュオンの検出装置を設置する場所が必要になる。イタリア国立核物理研究所(INFN)の物理学者で、4月に学術誌Scientific Reportsに研究結果を発表したヴァレリー・ティオコフは、19世紀に作られた地下18メートルほどの地下室に検出装置を置き、ミュオンフラックス(特定のエリアにおける一定時間内の素粒子の動き)を28日間記録した。

これによって1000万個のミュオンが記録され、約2 × 3.5メートルの埋葬室の存在が確認されたが、複雑な構造の細部までは明らかになっていない。ティオコフは、Live Scienceにこう語っている。「現在の装置では、10センチメートル以下の物体の画像を得ることはできません。つまり、部屋のおおよその形はつかめても、骨のような細かい部分までは見えないのです」

ミュオグラフィは。ギザのピラミッドの入り口の上方にあった隠し通路の発見や、2011年の東日本大震災で被災した福島第一原子力発電所の原子炉内デブリ分布の把握などにも利用されている。(翻訳:石井佳子)

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