第4回フリーズ・ソウル、初日の売上に明暗──高・低額帯は健闘、中間帯は伸び悩む
第4回を迎えたフリーズ・ソウルでは、国際的なブルーチップ作家と新進気鋭の作品が堅調に売れた。一方、中堅市場は伸び悩み、韓国コレクターの嗜好が改めて際立つ結果となった。

世界的なアート市場が依然として不安定な局面にあるなか、フリーズ・ソウルの第4回が水曜日に開幕。コレクターの来場は活発で、初日から堅調な売上が報告された。
「観客の層はとても良い。数の上でも非常に強い」
フリーズ・ソウルのディレクター、パトリック・リーはUS版ARTnewsに語った。初日にはMoMA PS1館長のコニー・バトラー、2025年ハワイ・トリエンナーレ共同キュレーターのワッサン・アル=クダイリに加え、US版ARTnewsのトップ200コレクター常連のロンティ・エバース、ヤスミン・ガンデハリ、チャオ・ジービンが姿を見せた。さらにBLACKPINKのリサ、BTSのRM、SEVENTEENのTHE8とバーノンといったK-POPスターも来場し、会場を盛り上げた。
市場減速の中でも大手ギャラリーは大型取引が相次ぐ
ソウル初開催時の熱気は落ち着きを見せ、アート市場全体の減速も続くが、市内に拠点を構える国際的なブルーチップ・ギャラリーは、看板作家の大型展で存在感を示した。ペース・ギャラリーはジェームズ・タレルによる最新インスタレーション5点を展示、その中には会場特設作品《Wedgework》も含まれる。ホワイト・キューブとタデウス・ロパックではアントニー・ゴームリーの二大展を開催。韓国の私設美術館も大規模展を仕掛けており、アモーレパシフィック美術館でのマーク・ブラッドフォード展、リウム美術館でのイ・ブル展は、いずれも今週初めに大勢の観客を集めた。なおゴームリーは、安藤忠雄設計の美術館SAN(首都から約2時間)に新たな恒久設置作品を公開したばかりだ。
こうした動きが呼び水となり、フリーズ会場でも売買が活発化。初日終了時点でハウザー&ワースは、ブラッドフォードの三連作《Okay, then I apologize》(2025)を450万ドル(約6億6600万円)で、イ・ブルの彫刻を40万ドルで、さらにイ・ブルの絵画を30万ドル(約4400万円)で販売、いずれもアジアのコレクションに収蔵された。ホワイト・キューブはゴームリーの彫刻を25万ポンド(約5000万円)で、ロパックはゴームリーのドローイングを2万5000ポンド(約500万円)で成約した。
ホワイト・キューブのアジア統括マネージングディレクター、ウェンディ・シューは、「イギリス発のギャラリーとして、より多くの国際的な作家を韓国の観客に紹介したい」と語った。今年の地元観客からの期待感と来場者数の多さは過去にないもので、シューは、ソウル・アート・ウィークがこれまで以上に国際色を帯びていると感じている。
ハウザー&ワースはさらに、ジョージ・コンドの《Purple Sunshine》(2025)を120万ドル(約1億7800万円)、ラシード・ジョンソン作品を75万ドル(約1億1100万円)、エイヴリー・シンガーの絵画を47万5000ドル(約7000万円)、アンヘル・オテロの作品を28万5000ドル(約4200万円)で販売。ロパックはゲオルク・バゼリッツの絵画《Es ist dunkel, es ist》(2019)を180万ユーロ(約3億1100万円)、アレックス・カッツの絵画を90万ドル(約1億3300万円)で販売。ホワイト・キューブもバゼリッツ《Erstens, bitte schön》(2014)を130万ユーロ(約2億2400万円)、トレイシー・エミンのブロンズ作品を22万ポンド(約4400万円)で売却した。
ペースはタレル作品をブースに出品しなかったが、初日だけで2025年制作のメアリー・コース作品を22万5000ドル(約3300万円)、ロバート・インディアナの彫刻《ART (Red Blue)》(1972–2000)を19万5000ドル(約2900万円)、2024年制作のロバート・ナヴァ絵画を18万5000ドル(約2700万円)、2025年制作のパム・エヴリン絵画を8万5000ドル(約1200万円)で販売している。
韓国ギャラリーや地元コレクターも存在感
注目すべき販売例としては、学古斎ギャラリーによるキム・ファンギ《Cloud and the Moon》(1962)が20億ウォン(約2億1300万円)で成約。シュプルート・マガースはバーバラ・クルーガーの作品2点を50万ドル(約7400万円)と10万ドル(約1500万円)で、リッソン・ギャラリーは杉本博司作品を25万ドル(約3700万円)、イケムラレイコ作品を14万ユーロ(約2400万円)と7万ユーロ(約1200万円)で販売。ギャラリー・ヒュンダイはチョン・サンファの作品を約60万ドル(約8900万円)、ジョン・パイ作品を約30万ドル(約4400万円)で売却した。
ククジェ・ギャラリーは15点を販売し、その中にはジェニー・ホルツァー(40万〜48万ドル、約5900万〜7100万円)、河鍾賢の絵画(23万〜27万6000ドル、約3400万〜4100万円)、ルイーズ・ブルジョワの布作品(各10万〜12万ドル、約1500万〜1800万円)といった取引も含まれる。デイヴィッド・ツヴィルナーはキャサリン・バーンハート、フマ・バーバ、オスカー・ムリーリョ、ウォルター・プライスらの新作を販売したが、価格は非公開。
リーマン・モーピンは、ライザ・ルーのビーズ絵画《Allegory》(2025)を24万〜26万ドル(約3500万〜3900万円)、エルナン・バスの絵画《The biased audience (watching the dog show)》(2025)を22万5000ドル(約3300万円)で販売。同ギャラリーのソウル拠点パートナー、エマ・ソンは声明で、「ソウルのアートシーンは、不確実な時期を経てようやく再び目を覚ましつつある」と述べ、「結果として、韓国から生まれる才能──既に確立された作家も、新進の作家も──に、世界のアート界が注目し始めている」と続けた。
韓国の老舗アラリオ・ギャラリーのカン・ソジョン館長も、「経済は減速しているが崩壊はしていない。韓国のコレクターは依然として購入を続けており、特に優れた作品であればなおさら」と語った。
若手ギャラリーの試行錯誤
一方で市場全体が沸騰しているわけではない。今年は約40のギャラリーが不参加で、メガギャラリーによる高額取引が目立つ一方、コレクターの嗜好は依然として絵画や彫刻など伝統的メディアやブルーチップ作家に偏っている。ディーラーのジェシカ・シルバーマンは、「韓国のコレクターはいまだ確立された作家やギャラリーを優先している」と指摘。自身のギャラリーは今年で3度目の参加となり、単独ブースではなくグループ展形式を試みたが、初日終了時点での販売には「満足していない」と明かした。
上海のギャラリー・ヴェイカンシー創設者ルシアン・ツォーも同様の課題を語り、「韓国での販売は一貫して低調で、どこかでコレクター層を広げようと挑戦を続けなければならない」と慎重な姿勢を見せた。
一方、新興ギャラリーには手応えも。今回初参加した上海拠点のリンシードは、リャン・ルーの絵画(6500〜3万4000ドル、約100万〜500万円)を中心とした個展形式のブースを出展、初日にほぼ完売した。しかし2日目には最大額の購入を予定していた韓国人コレクターがキャンセルする事態に。「韓国のコレクターはとても好奇心旺盛だが、その動向をもっと理解する必要がある」と、創設者の荘凌志は語った。アジアの小規模ギャラリーにとっては、言語や商習慣の違いが最大の壁になるという。
強力な政府支援と今後の課題
フリーズのリー・ディレクターは初日終盤になっても楽観的な姿勢を崩さず、韓国の長いコレクション文化の歴史や強力な政府支援を強調。今年だけでも政府は経済活性化と文化アクセス拡大の一環として、舞台芸術や展覧会向けに210万枚の割引券を配布している。
「そうした機会に関わった人々の一部でも、アーティストやギャラリーを支援する方向に向かえば素晴らしい」とリーは語った。
ギャラリー・チョソン館長のヨ・ジュンスも、「フリーズは韓国アート市場の国際的な存在感を高めたが、欠けているのはごく新しいアーティストへの支援だ」と指摘。利幅が小さいため、ブルーチップや中堅ギャラリーは扱いに消極的で、韓国やアジアの小規模スペースは、フリーズやKIAFに参加する余裕がないという。ヨは、「もし韓国のアート産業がK-POPと同じレベルの成功を収めることができれば、大きな成長の可能性がある」と言い、初日には若手韓国作家への国際的コレクターの関心が目立ったが、両者を結びつける明確なルートは「まだ存在していない」と付け加えた。
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