「トランプショック」株価急落の被害は有名コレクターにも。ベルナール・アルノーは2兆7700億円を失う
アメリカのトランプ政権は、9日の午前0時(日本時間の9日午後1時)に、貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」を発動した。トランプが相互関税を発表した4月3日以降、貿易摩擦の激化と世界的な景気後退の予測から株価の下落が続き、US版ARTnewsのトップ200コレクターであるジェフ・ベゾス、ベルナール・アルノー、アリス・ウォルトンは巨額の損失を被った。

トランプが相互関税を発表した4月3日以降、貿易摩擦の激化と世界的な景気後退の懸念から株価が急落し、その影響はUS版ARTnewsのトップ200コレクターズに名を連ねる富豪たちにも及んでいる。
相互関税の影響による株価下落は4月3日に始まり、アメリカ株式市場のナスダック総合指数は6%以上の下落、アメリカを代表する500銘柄で構成される株価指数、S&P500種株価指数は約5%下落、そしてダウ平均株価が4%下落した。これらの値崩れは3日と4日、週末を挟んで7日まで続いた後、アジアとヨーロッパの株式市場にも広がった。香港のハンセン株価指数は7日に13%以上の急落を記録、1日あたりで1997年以来最大の下落幅となった。
7日の米国市場の取引開始時には、3つの主要指数全てがさらに落ち込み、S&P500種株価指数とナスダック総合指数は3・4・7日の3営業日で20%以上下落。株価が継続的に下落する「ベア市場」に突入した。この状況についてブルームバーグニュースのポッドキャスト司会者ジョー・ワイゼンタールは、「これは現在、S&P500にとって1987年10月以来最悪の3日間のパフォーマンスです」とソーシャルメディアで警告した。
4月3日から7日にかけてのアメリカおよび世界の株価指数の下落は、3月初めにトランプがカナダ、メキシコ、中国に高い関税を課す発表をした後に生じた株価下落よりはるかに深刻なものだ。
US版ARTnewsは、ブルームバーグの億万長者指数からトップ200コレクター32人を抽出し、今回受けた影響を調査した。その結果、30人が損失を被ったことが判明。そのうち21人は10億ドル(約1455億円)、4人は50億ドル(約7275億円)以上の損失を被っており、32人中19人は総純資産が10%以上減少した。
細かく見ていくと、一番損失が大きかったのはLVMHのオーナーであるベルナール・アルノーで、3日間で190億ドル(約2兆7700億円)を損失。純資産が11%減少して1500億ドル(約21兆円)となった。次いで、クリスタル・ブリッジ美術館の創設者でウォルマートの相続人であるアリス・ウォルトンは75億4000万ドル(約1兆960億円)、リライアンス・インダストリーズの会長ムケシュ・アンバニは72億ドル(約1兆460億円)、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスは66億ドル(約9600億円)失った。
純資産が10億ドル規模で減少した他のトップ200コレクターには、投資会社KKRの元CEOジョージ・ロバーツ、シャネルの会長アラン・ヴェルトハイマー、ユニクロCEOの柳井正、KKR共同創設者のヘンリー・クラビス、HCLエンタープライズ会長のシブ・ナダール、イギリスのデザイナー、ジェームズ・ダイソン、ソフトウェア企業SAP共同創設者のハッソ・プラットナー、アポロ・グローバル・マネジメントCEOのリオン・ブラック、フランスの実業家フランソワ・ピノー、証券会社創業者のチャールズ・シュワブが含まれる。
アルノーが金額面で最大の損失を被った一方、純資産におけるパーセンテージベースでの最大の下落はダイソンの16%で、次いでクラビス、ロバーツ、そしてプラダの執行取締役であるパトリツィオ・ベルテッリとミウッチャ・プラダの15%だった。KKRの株価は4月3日と4日に20%以上下落し52週間続く安値を記録したが、7日には回復した。プラダの株価は4月3日から4月7日の間に17%以上下がっている。
4月3日から4月7日の間に損失を経験しなかったコレクターは、アメリカのエンターテイメント業界の重鎮デビッド・ゲフィンとヘッジファンドであるシタデル創設者のケン・グリフィンのみだった。
だが、グリフィンは今回の大暴落を予見していたようだ。ニューヨーク・タイムズが4月6日に伝えたところによると、グリフィンはトランプが混乱を引き起こすと確信しており、シタデルのトレーダーたちは約1カ月間、レバレッジやその他の変動の大きい取引手段の使用を減らしていたという。
注目すべきは、グリフィンが2024年の大統領選挙時、トランプ陣営に1億ドル(現在の為替で約145億円)を寄付したことだ。連邦選挙委員会が発表したデータと非営利の調査・政府透明性グループであるオープン・シークレッツの分析によると、この金額は個人寄付者としては5番目に大きい金額だった。グリフィンの寄付には上院指導部への基金の3000万ドル(同・約43億円)も含まれており、これは同基金の総調達額1億1650万ドル(同・約169億円)の4分の1以上を占める額だった。
世界的な株式市場で相次ぐ下落は、多くのヘッジファンドでマージンコール(委託証拠金の総額が、相場の変動によって必要額より不足するために証拠金の追加が生じること)を引き起こした。あるアートディーラーがUS版ARTnewsに明かしたところによると、最近多くのアートコレクターが数百万ドル規模の作品を現金化したいと申し出ているという。実際、かつてトップ200コレクターに名を連ねたロン・ペレルマンは、コロナ禍の2020年から2022年にかけてドイツ銀行からマージンコールがかかり、一流アーティストによる71作品、約10億ドル(現在の為替で約1453億円)相当を売却することを余儀なくされた。
現在、世界で最も注目されているのはアメリカと中国の関係だ。4月7日、トランプが中国がアメリカからの輸入品に対して34%の対抗関税を撤廃または引き下げない場合、中国からの輸入品に対する関税をさらに50%引き上げると脅迫したというニュースによって株売却は加速した。
トランプはソーシャルメディアへの投稿で「中国が明日、2025年4月8日までに、長期的な貿易悪用に上乗せされた34%の引き上げを撤回しない場合、米国は中国に対して追加の50%の関税を課し、4月9日に発効する。さらに、中国が要請していた我々との会談交渉は全て終了する!」と述べた。それに対して中国外務省は「とことん最後まで付き合う」と反発する構えだ。
中国からの輸入品に対するアメリカ側の関税はすでに4月4日に54%に引き上げられていた。美術品やコレクター品、および骨董品は米国統一関税表の第97章の下でまだ関税の対象ではないが、アメリカは毎年中国から大量の物資、事務用品、アート関連の衣料品や商品、家具、鉄鋼、紙、印刷された書籍、および電子機器を輸入している。
EUの関税に対する反応はどうか。すでにアメリカが発動している鉄鋼・アルミニウムへの25%の追加関税について15日から報復関税を発動させると発表。それ以外は9日から20%の相互関税をかけることになるが、工業製品をゼロにする方策を模索している。
関税を巡って世界的に動乱が巻き起こる中、新たな関税を90日間一時停止にするという噂が起こった。それにより買い注文が増えるも、ホワイトハウスが「フェイクニュース」と発表すると再びマイナス傾向に戻った。
トランプ大統領は、今週に入って行った記者会見で、新しい関税の交渉が可能か否かを尋ねられた。すると「両方ともあり得ます。永久的な関税も存在し得るし、交渉も存在し得ます。なぜなら関税を超えて我々が必要とするものもあるからです」と答えている。
あるアート作品輸送専門会社の幹部はUS版ARTnewsの取材に、新しい関税の発表後すぐにクライアントから大量の問い合わせを受けたと話した。彼は、現在アメリカに広がる将来への不確実性(さらなる対抗関税の可能性やアメリカへの出入国に関する緊張感、および彼の家族を含む身の安全の不安)について、まるでコロナ禍が始まった2020年初頭のようだと表現した。そして彼は、「今はまるでコロナ禍のようです。ただし今回は、ウイルスが空中ではなくホワイトハウスにいるという違いがありますが」と語った。(翻訳:編集部)
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